
「望遠ニッポン見聞録」ヤマザキマリ
ヤマザキマリさん初エッセイ。
17歳で日本を出て、それ以来外国暮らし。
だからこそ見えてくる、日本と外国の違い。
P103
恋人同士に限らず、家族は何かのたびに抱擁してそれぞれの体の存在を確認し合う。
見知らぬ人とでも握手を交わすことでスキンシップは必ず取る。私の姑は私が2年ぶりに再会した母とただ手を振っただけで挨拶を済ませたのを見て「信じられない!」と叫んだことがあった。「あんた達、どうかしてるわよ!!ゼンも程々にするべきよ!」と。
P158
日本人では歯を全部見せる勢いの笑顔で写真に収まる人は滅多にいない。私もカメラに向かって笑う時はどうしても口を閉じてしまうのだが、10人の中で1人だけ口を閉じている写真というのは「この人、どうして歯を見せないんだろう」という変な疑問を見ている人に抱かせる感じになってしまう。
P162
知り合いでもフランスで前歯の隙間を褒められたという人がいるが、つい最近シャネルのモデルを務めたミック・ジャガーとジェリー・ホールの娘のジョージアもばっちり隙ッ歯なのだ。シャネルの宣伝に隙ッ歯モデルはあまりに意外でかなりの衝撃を覚えたが、八重歯はダメで隙ッ歯は逆に得点が高かったりするのも不思議な話である。
P177
彼曰く、日本人がアジア人だと思う要素は日常生活の中にも山のようにあるという。
例えば家の中に入った時。どんなに外ではマナーにうるさい家族であっても、家に入ると家具の上の隙間などに要らない箱などを積んだり押し込んだりしていたり、沢山の小物などがあちらこちらに溢れているのを見た時。
鼻をかまずに啜り上げる人を見た時。
テレビで食べ物のレポーターが咀嚼中の食べ物が口の中に入ったまま喋っているのを見た時。
車の中にキッチュな縫いぐるみやお守りがぶら下がっているのを見た時。
足をぺたぺた引きずり気味に歩く人を見た時。
彼が挙げてきた具体例はまだいろいろあったが、とにかくそういった日本人に対する西欧人的な見方を示されると止むを得ず納得せざるを得ないものもあるし、またそういうアジア的部分が日本人の中に生き続けてくれていることを自覚するのは、実は内心嬉しかったりする。
【ネット上の紹介】
『テルマエ・ロマエ』の著者、最新刊は初エッセイ!お風呂だけじゃない! 平たい顔族の驚くべき日常。 「膨大な金を算出し、宮殿や民家は黄金で出来ている。また、ジパングの人々は偶像崇拝者であり外見がよく、礼儀正しいが、人食いの習慣がある」というのは、マルコポーロ『東方見聞録』の日本の記述。「いえいえ日本はそんな変な国じゃありませんよ」と言いたいところですが、漫画家・ヤマザキマリさんから見た日本は、やっぱりじゅうぶん変だった!異国暮らし歴十数年の著者が、近くて遠い愛すべきニッポンの妙を、バカバカしいくらいに真面目に綴った現代版見聞録。ポットン便所のトラウマが生んだお尻洗い機能付き便器、おっぱいだけが巨大化しつづけるオタク漫画、ドSな吹き替えが強烈なハリウッド映画など。とにかく日本は突っ込みどころ満載!