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「岬にて」乃南アサ

2018年10月04日 21時15分00秒 | 読書(小説/日本)


「岬にて」乃南アサ

乃南アサ・ベスト短編集、第2弾。
著者は心理描写に定評がある。
その中でも、特に女性の心理描写が際立つ短篇が選ばれている。
本書が編まれた時点で、著者は新潮社から10冊(74篇)の短篇を上梓されている。
他社(祥伝社、文春、講談社、文春)から5冊(30篇)ある。
つまり、新潮社からの出版がダントツに多いことが分かる。

泥眼について
P265
嫉妬や怒りの情念が、あまりに膨らみすぎたために、まさに正気を失おうとしている瞬間の女の顔、理性が感情によって吹き消されようとする表情、それが泥眼だった。この顔が、もっと執念深くなり、理性をかなぐり捨て、感情を昂ぶらせていくと、髪は乱れ、口は裂けて牙を剝き、角さえも生えてきて、生成、般若、蛇の面へと変わっていく。泥眼は、目には金泥を施すものの、女が執念の鬼、怨霊の化物となり果てる寸前の、最後の人間の表情といって良かった。

【感想】
過去の短編集に未収録の作品が、1編収録されている。
「最後の花束」でもそうだったけど、収録作品の中でも、レベルがかなり高い内容になっている。
「最後の花束」では、「くらわんか」、本書では、タイトル作品「岬にて」が、それに相当する。
また、短編集「行きつ戻りつ」から5篇収録されている。
どれも「旅」と絡めて描かれている内容で、おもしろく感じた。

【ネット上の紹介】
かつての恋人の故郷でその不在を想うキャリア・ウーマン。寒い土地への転居を境に狂い出す「じゃぱゆきさん」。整形して若い男と結婚し、離別した娘を従妹として引き取ろうとする母。夫の子を産むと決めた女のもとを訪ねる妻。次々と夫が死ぬ魔性の女。彼女たちはさまざまに熟れていく。女性の心理描写が際立つ短編を精選し、単行本未収録作品を追加したベスト・オブ・ベスト第二弾。