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「信太郎人情始末帖」シリーズ 杉本章子 

2021年06月11日 09時44分16秒 | 読書(歴史/時代)
「信太郎人情始末帖」シリーズ 杉本章子
 
信太郎人情始末帖シリーズ全7巻を再読。
最初、2019年に図書館で借りて読んだとき、とてもよい作品だと感じた。
(現在、全巻絶版となっており、新品での入手不可能)
その後、再読に備えて、古本をあさって全巻揃えておいた。次の7冊。

第1巻『おすず』
第2巻『水雷屯』
第3巻『狐釣り』
第4巻『きずな』
第5巻『火喰鳥』
第6巻『その日』 
第7巻『銀河祭りの二人』

再読しても、色あせず(枝葉を忘れていたのもあるけど)、面白く感じた。
最初、ミステリ要素の高い捕物帖だけど、だんだんと家族小説の要素が強くなってゆく。「きずな」終わりあたりから完全に家族小説になってきた。(私の趣味は後半の「家族小説」部分。これに匹敵する作品は、宇江佐真理さんの「髪結い伊三次」シリーズくらい、と思う)
 
P64第2巻
実意がありゃ、お互いに持ちつ持たれつしてこそ契も深まって、偕老の仲になるんじゃないのかえ。生身の人間が、そんなきれい事を言ってて、生きていけるかい。せっかくのえにしの糸が切れちまうよ。

P49第5巻
女の子は七歳の十一月に吉日を選んで帯解きをするものだが、今年は閏年で、暦より季節が早い。(そういえば、奈良に日本最古の安産祈願・求子祈願= 帯解寺(おびとけでら)がある・・・氷室冴子さんの「ジャパネスク」でも言及され事件の発端となっている)

P66第7巻
背縫いのない着物には魔がさす、という。そこで幼子の着物には、襟の下を少し背縫いして、そこに色糸や押しでこしらえたお守りをつけるのである。(このような江戸トリビアが嬉しい)

P124第7巻
芸者は客次第、金次第、都合次第の三拍子がそろえば転ぶこともあると言いますからな。

日々草(にちにちそう)
P162第7巻
「この花をみると、心のしおれた1日があっても、さあ、明日はしゃんとしましょうって、そう思えるんです」
 
【蛇足】
まだ続けようと思えば続編が出そうな終わり方だけど、もう出ない。
なぜなら、著者が亡くなっているから。2015年12月4日、乳癌で死去、62歳。
ちなみに、宇江佐真理さんと親しかったそうだ。
宇江佐真理さんは、同じ年の前月の11月7日、66歳で亡くなっている。
同じく、乳癌である。
お互い寂しくないように、連れ添って亡くなったかのようだ。

【注意】
文庫本で読んだ場合、1巻目の「解説」を読んではいけない。
2巻目以降の物語の流れをネタバレさせているから。
時代小説の解説には時々、そのようなモラル違反が見られる。
困ったものだ。だから、時代小説の解説は、(大矢博子さんのもの以外は)読まないようにしている。
【おまけ】
昔は、時代小説というと男性作家ばかりだった。今は、女性作家も増えた。
男性作家は、剣戟シーンが巧いが、登場する女性の描き方が平板で紋切り型になってしまうきらいがある。
女性作家は、登場する女性1人1人を個性的に描き分けている。
そこが魅力である。その代わり、チャンバラ・シーンはないけど。
(秋山香乃さんは、女性作家だけど、剣戟シーンを描かれていて、けっこう巧い)
 
【ネット上の紹介】
おすずという許嫁がありながら、子持ちの後家と深みにはまり、呉服太物店を勘当された総領息子の信太郎。その後おすずは賊に辱められ、自害して果てた。「一度だけ」とおすずが身を預けてきたあのとき、願いをきいてあげていたら…後悔の念を抱きながら、信太郎は賊を追う―。平成14年度中山義秀文学賞受賞作。