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「破滅の王」上田早夕里

2023年08月28日 08時28分06秒 | 読書(小説/日本)


「破滅の王」上田早夕里

先日、「上海灯蛾」を読んだが、本書も〈戦時上海3部作〉の1冊。
治療不可能の細菌兵器がテーマ。

P35
通常ならば、満洲に移住してきた者には満洲国籍が適用されるはずだが、移住者が日本の国籍を失うのを嫌がるという理由から、日本政府は、わざと満洲国籍を制定していなかった。

P261
治療薬にはふたつの種類があって、ひとつは有機合成技術で作る合成抗菌薬、もうひとつは自然界に存在する微生物由来の抗生物質です。サルファ剤は前者、ペニシリンは後者。

P348
石井部隊の関係者は、極東軍事裁判における戦犯としての追及を免れた。(中略)内藤良一陸軍医中佐は、かつての部隊員と共に、日本初の血液銀行「日本ブラッドバンク」を創設、同社はのちに医薬品メーカー「ミドリ十字」となった。(中略)石井自身は開業医の仕事を続け、1959年に喉頭がんで死去。享年67。(帝銀事件は遅効性の毒が使用された為、石井部隊の関係者が絡んでるのではないか、と言われた。これについて、「日本の黒い霧」で松本清張氏がとりあげている。また1980年代、「ミドリ十字」は、薬害エイズ事件を引き起こした。後に吸収合併され消滅)

「戦跡巡礼」中津攸子

【関連図書】

「上海灯蛾」上田早夕里

【参考】
ウイルスは、栄養を摂取することがない。呼吸もしない。もちろん二酸化炭素を出すことも老廃物を排出することもない。つまり一切の代謝を行っていない。(中略)
ウイルスは自己複製能力を持つ。(中略)
結論を端的にいえば、私は、ウイルスを生物であるとは定義しない。つまり、生命とは自己複製するシステムである、との定義は不十分だと考えるのである。(P36「生物と無生物のあいだ」福岡伸一)


【ネット上の紹介】
一九四三年六月、上海。かつては自治を認められた租界に、各国の領事館や銀行、さらには娼館やアヘン窟が立ち並び、「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も、太平洋戦争を境に日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本敏明は、日本総領事館から呼び出しを受け、総領事代理の菱科と、南京で大使館附武官補佐官を務める灰塚少佐と面会する。宮本はふたりから重要機密文書の精査を依頼されるが、その内容は驚くべきものであった。「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の新種の細菌兵器の詳細であり、しかも論文は、途中で始まり途中で終わる不完全なものだった。宮本は治療薬の製造を依頼されるものの、それは取りも直さず、自らの手でその細菌兵器を完成させるということを意味していた――。

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