「ペルソナ」中野信子
珍しく自分自身を語っている自伝エッセイのような作品。
P42
生まれか、育ちか、というのは生物分野の研究者たちがしばしば議論の俎上に載せる定番のネタである。英語では Nature or nurture といって、韻を踏むような語句になっている。
P194
勝ち組・負け組という言い方があるが、私はあまり好きではない。なんとも下品な言い方で、軽く使われているが、この言葉には稼いでいなければ生きている価値がないといでもいうかのような野蛮で貧しい響きがある。
同様に、働かざる者食うべからずという言葉も私は大嫌いだ。
P227
通知表に「利己的」と書かれたことがある。誰とも結ばず、一人の時間を楽しむ私に対して教師が抱いた印象がそれだったのだろう。私は「生物はすべて利己的なものだけど?」と思うだけだったが、母がなぜかショックを受けて、私に怒鳴り散らしたのを覚えている。(中略)子どもならではの残酷さで、この人が本当に私を産んだのだろうか、と落胆することもあった。(中略)自分のせいでこんなことを書かれたのかもしれないね、ごめんね、と余裕のある女性なら言ったかなあと思うけれど。ともあれ、7歳の子どもに八つ当たりできるくらいの人格ではあった、と言うことになる。また、小学校の教員といってもあまり頭が回らないのかもしれない、とこの時は腹立たしかった。こんなことを書けば、子が親にどんな目にあわされるか、想像がつかないのだろうか?
【ネット上の紹介】
親との葛藤、少女時代の孤独、男社会の壁…人間の本質を優しく見つめ続ける脳科学者が、激しく綴った思考の遍歴。
はじめに わたしは存在しない
1章 サイコマジック―2020
2章 脳と人間について思うこと―災害と日本 2010~2019
3章 さなぎの日々―塔の住人はみな旅人である 2000~2009
4章 終末思想の誘惑―近代の終わり 1990~1999
5章 砂時計―1975~1989
おわりに わたしモザイク状の多面体である