「東京プリズン」赤坂真理
話題の作品を読んだ。
タイトルから連想するのは巣鴨プリズン。
現代によみがえる東京裁判。
ページ数441、迫力と技巧が同居する珍しい作品。
主人公の少女・マリは、アメリカ・メイン州に留学する。
(関係ないけど、メイン州というと、スティーブン・キングを思い出す。また、メイン州は、アメリカ合衆国内で、最も白人の比率が高い州であることから、"Most white state"とも呼ばれる。byウィキペディア)
そこで、天皇の戦争責任についてディベートすることになる。
それを企画したのがスペンサー先生・・・ある種の偏向と悪意を感じる。
周りほとんどが白人でキリスト教徒の中、どのようなディベートが展開するのか?
普段、議論などしたことのない日本人の少女が、英語でディベートできるのか?
最終章「十六歳、私の東京裁判」は圧巻。
いくつか文章を紹介する。
P77
「ねえママ、A級やB級の級は、種類のちがいであって、“罪”の重さではないのよ、知ってた?A級が重いわけではなくて、『平和に対する罪』ってカテゴリーをA級って分類しただけなんだって。級と訳したので誤訳を招いたと、本に書いてあった」
P125
アメリカで勉強すればするほど私は混乱していった。
東京裁判というのは、子どもが見てもおかしな裁判で、「戦争をしただけで平和に対して罪がある、と、戦争の勝者が言える」というおかしな論理に基づいていた。あまりに素朴に変なので、変だと指摘するこっちが変に思えてくるような、そんな論理だった。
(戦争しただけで罪があるなら、アメリカは、いったいどうなるのだろう?・・・・朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争・・・ちょっと休憩せぇよ!byたきやん)
P254
「ディベートはディスカッションではない。私はこう思う、あなたはどう思うかなんて話し合いではない。議題は『天皇に戦争責任はある』。今日のリハーサルではそれを否定する立場に立ってもらうが、本番は、肯定する立場に立ってもらう」
「すみませんが、意味がぜんぜんわかりません」
私は恥をしのんで言う。後で恥をかくよりはましだ。
「だーかーら、あなたは今はヒロヒトを弁護(ディフェンド)する。本番はプロセキュートする」
「プロスティチュート?」
「何を言っているんだ君は!売春(プロスティチュート)するわけがないだろう!訴える(アキューズ)、訴える(スウ)、だ!」
P264
それに、本当に言いたい、というか知りたいことはこうだった、『真珠湾がなぜそんなに卑劣と言われるのか、何十年もの間、恥を知れみたいに言われ続けるのか、その意味がわかりません。あなたたちは合理的な民とされているけれど、この件の怒り方どこか生理的だ。原爆を二発も落としておいて始まりの些末なことを言いつづけているみたいに、我々からは思える』。
P289
「A、B、Cのクラス分けはニュレンバーグ裁判の形式をそっくり引き継いだものだ」
アンソニーが言った。
「ニュレンバーグ?」
大事そうな固有名詞はやはり訊かないわけにいかない。英語読みをしているが、きっとアメリカの地名ではない。ドイツ?たぶんニュルンベルクとかそんなの。
「ドイツよね?」
「うん。第二次世界大戦後にナチスを裁いた国際軍事裁判があった場所。東京裁判はそれをベースにしている。クラスBの『通例の戦争犯罪』が、捕虜の虐待であるとか、民間人の殺傷であるとか、クラスCの『人道に対する罪』はホロコーストに向けられたもので、日本には対応するものがなかった」
P388
いわゆる「人間宣言」は「昭和21年年頭の勅書」と冒頭にあるだけで、「人間宣言」はメディアが勝手につけたタイトルだろう。
・・・http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E9%96%93%E5%AE%A3%E8%A8%80
P433
「あれは、戦争を止めるために必要だったことだ。そうでなければ、日本を戦場として、両軍にさらなる犠牲者が出たであろう」
「だから私たちをより大きな犠牲から救ったのだと?礼を申し上げますが、ならばポツダム宣言発令の時点で原爆投下まで決めていたのはなぜですか?裏事情は、議会を通さずに使った膨大な予算だったから、使って威力を示さなければならなかったのではないですか?」
「・・・・・・そんなことはない」
「それではあなた方に訊きますが、東京大空襲はどうです?日本人は関東大震災と第二次世界大戦を、似通った風景として記憶しています。それもそのはず、東京大空襲は、関東大震災の延焼パターンを研究して、どこをどう燃やすと効率的に東京を焼き払えるかを知って、それを実行したのです。民間人の住まう地域を、戦略的に焼く。どのように言ってもどのような大きな目標や高邁な理想があろうと、それそのものは、国際法違反でありますよね?」
・・・この後さらに、この「法廷」は白熱し、迫力を増していく。
(興味がわいたら、実際読んでみて、但し大作なので気合いを入れてbyたきやん)
【参考リンク】
東京プリズン [著]赤坂真理
赤坂真理「東京プリズン」 戦争を隠し、閉塞した日本 2012年07月12日
【ネット上の紹介】
16歳のマリが挑んだ現代の“東京裁判”を描く、感動の大作。朝日新聞、毎日新聞、産経新聞各紙で、文学史的事件と話題騒然。