「遠縁の女」青山文平
次の3編が収録されている。
「機織る武家」
「沼尻新田」
「遠縁の女」
地方の侍の、さらに末端の武士たち。
その生活と心情がリアルに再現される。
P37
もっと商人や職人が増える。そうやって増えつづけて、やがて商人や職人の姿が明らかに百姓のそれを上回ったとき、村は町になる。
P156
好きなことが得意とは限らない。
逆に、得意なことが好きとも限らない。
(好きなことが、得意だったら幸せでしょうね。趣味と仕事が一致するようなもので、なかなか稀有なことだ。同様に、好きなタイプの異性が居たとして、それが自分に合うかと言うと、どうだろう?…それも稀有な事だと思う。それに、好みというのは微妙に移り変わっていく。世の中には、歳をとっても一緒に旅行したりする仲良し老夫婦が居るが、絶滅危惧種に認定し保護してあげたい)
P231
「人を、祭り上げるなよ。人を祭壇の上に上げて信じ込むのは、自分の判断を止めて、楽をしたいからだ。(後略)」
【おまけ】
「鬼はもとより」「つまをめとらば」「半席」「励み場」、そして本作「遠縁の女」と読み進んできた。
最初から経済を描くのが巧かったが、最近特に、微妙な心理描写も加わって、鬼に金棒状態。
初期の作品で未読のものがあるので、今のうちに溝を埋めておこうか、と思っている。
【ネット上の紹介】
『機織る武家』血の繋がらない三人が身を寄せ合う、二十俵二人扶持の武家一家。生活のため、後妻の縫は機織りを再開する。『沼尻新田』新田開発を持ちかけられ当惑する三十二歳当主。実地検分に訪れた現地のクロマツ林で、美しい女に出会う。『遠縁の女』寛政の世、浮世離れした剣の修行に出た武家。五年ぶりに帰国した彼を待っていたのは、女の仕掛ける謎―。直木賞受賞作「つまをめとらば」に続く清冽な世界。傑作武家小説集。