【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ」梯久美子

2017年06月20日 20時26分19秒 | 読書(ノンフィクション)


「狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ」梯久美子

666ページ、読みごたえがあった。(読むのに、たっぷり1週間かかった)
「死の棘」の妻・島尾ミホの評伝。
膨大な資料と、関係者への取材から書かれている。
戦後の文壇を背景に、「死の棘」を、ミホの立場から読み解いていく。

梯久美子さんは昭和史の研究家と思っていたが、
文芸にも造詣が深い、と分かった。
文中にも高名な文学者、評論家が多数登場する。
(戦後文壇史としても興味深い)
島尾敏雄さんは、特攻隊の隊長であり、
奥さんのミホが、奄美大島の旧家の出で、
戦争末期の極限状態で出会った…これが全ての始まりである。
島尾家という、究極の「家族」を描いている。
やはり、読まざるを得ない作品だ。

P133-134
(前略)島尾は、日本人の持つ「固さ」の原因は近世以降の武士道にあり、それ以前の日本人は挙措にしても考え方にしてももっとのびやかで自由だったはずだと考えた。

P227
故郷を侮辱されることは、ミホにとって両親を侮辱されることでもあった。のちに『死の棘』に描かれることになるミホの狂乱は、結婚以来プライドを踏みにじられてきたことへの悲しみの噴出でもあったのである。

P232
そのとき眞鍋は、「島尾は自分の情事について書いた日記を、わざとミホさんに読ませたのかもしれない」と言ったのだ。

P249
死という裏打ちが失われたとき、エロスもまた失われた。二人の戦後はこうしたずれの中で始まったのである。

P261
「そういえば島尾敏雄の『死の棘』、あの浮気は“藤十郎の恋”なんですってね」
(中略)
「藤十郎の恋」は菊池寛の小説で、上方歌舞伎俳優の坂田藤十郎が不義密通する男の役を演じるため、人妻であるお梶に恋を仕掛ける話である。

【蛇足】
島尾敏雄さんは、ミホが日記を読むように、わざと開いておいた。
それは分かった。
うすうす、ミホは夫の浮気を知っていた。
でも、狂ったのは、その日記を読んでからだ。
梯久美子さんの説は、文字により狂った、と。
その負債返済のために膨大な時間と労力を費やし文字により贖った。
その結果「死の棘」が完成した。
読んでいて感じたのだが、ミホは、『夫が読ませようとしておいた』、
それを直感的に感じとり、その動機と甘えを許せなかったのではないか?

【ネット上の紹介】
戦後文学史に残る伝説的夫婦の真実に迫り、『死の棘』の謎を解く衝撃大作。島尾敏雄の『死の棘』に登場する愛人「あいつ」の正体とは。日記の残骸に読み取れた言葉とは。ミホの「『死の棘』の妻の場合」が未完成の理由は。そして本当に狂っていたのは妻か夫か――。未発表原稿や日記等の新資料によって不朽の名作の隠された事実を掘り起こし、妻・ミホの切実で痛みに満ちた生涯を辿る、渾身の決定版評伝。
【目次】
「死の棘」の妻の場合
戦時下の恋
二人の父
終戦まで
結婚
夫の愛人
審判の日
対決
精神病棟にて
奄美へ
書く女へ
死別
最期

この記事についてブログを書く
« 安威川 | トップ | 「風呂ソムリエ」青木祐子 »

読書(ノンフィクション)」カテゴリの最新記事