特集:リュック・ムレ・コレクション vol.1
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リュック・ムレ序論
総合 100点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
リュック・ムレ監督の長編デビュー作である『ブリジットとブリジット』(1966年)はアルプス出身のブリジットとピレネー出身のブリジットという、身長はアルプス出身のブリジットの方が高く、生まれは1945年のピレネー出身のブリジットの方が早いのであるが、外見まで似ている2人の大学生がパリで偶然に出会ったことから物語が始まる。アルプス出身のブリジットの背後の壁にはアルプスのポスターが、ピレネー出身のブリジットの背後の壁にはピレネーのポスターが貼られているように、画面構成には一応気を配ってはいるものの、ストーリーは無きに等しい。とりあえず居住場所を確保した後に、2人はパリを散策する。20点満点で行き先を評価していくのであるが、最初に訪れたモンパルナスには何も無かったために0点にするものの、シャンゼリゼやエッフェル塔ではそれなりに観光を満喫する。
その後、男友達とともに何故か映画監督に関するアンケートを行ない、アルフレッド・ヒッチコックやオーソン・ウェルズやジェリー・ルイスを最高の映画監督とし、本人が出演しているにも関わらずサミュエル・フラーは最低の映画監督とされてしまうのであるが、すぐにヒッチコックらも300位以下にランクされてしまう。
その後、ピレネー出身のブリジットが栄養に関するうんちくを垂れ、アルプス出身のブリジットが言語学(Philology)のテストを受けることになるのであるが、これだけ数字には拘っていながら、ブリジットたちが受ける授業は終始工事の騒音で教授の声がかき消され、教授の声と工事人の声が混同されてノートに書き記されてしまい、ダイアローグの内容に関してはまるで無視され、あくまでも同一から生まれる違いを映し出す。
長編2作目の『密輸業者たち』(1967年)は前作のピレネー出身のブリジットがラストで結ばれたボーイフレンドとともに架空の国境地帯(ピレネー山脈?)で、新しい相方のフランチェスカを加えて、‘密輸業’なるものを始めるのであるが、ここでもリュック・ムレ監督はインド音楽に拘泥を見せるものの物語には無頓着である。例えば、山に向かっていると思われたブリジットが次のカットでは海でカヌーを漕いでいたり、フランチェスカの右腕を吊っている包帯がカットごとにあったりなかったりするなど、編集は滅茶苦茶なのであるが、実は本作は最初に適当に撮影をした後に、フィルムを編集しながらアフレコでストーリーを組み立てるという実験作品なのである。
長編3作目の『ビリー・ザ・キッドの冒険』(1971年)はジャン=ピエール・レオーを主演に迎えたことから、‘真面目’に撮るのかと思いきや、フリージャズが鳴り響く中、主人公のカウボーイが馬車を襲撃し、乗客たちを射殺し、金品を強奪し、逃走を図った生存者を追跡し、隠れ家で眠っていた逃走者を殺した辺りまではそれなりに劇としてなりたっているものの、強奪した金品を馬に乗せて逃げている最中に謎の女性と出会った辺りから何故か馬の脚を撃って殺してしまい、ジャンプカットで主人公が穴に落ちてしまうなど結果的にグダグダの西部劇と化してしまう。カラーで撮られたメキシコ近郊(?)のロケーションのショットは砂漠なのか雪原なのか定かではないが悪くはない。砂の中から現れた謎の女性は主人公のいびきが気になって男の後をつけてきたことが後に明らかになるのであるが、『密輸業者たち』との作風の違いは追っ手に左腕を撃たれる主人公の怪我は外見上では分からないが、野外で愛し合っている最中に女によってナイフで弾丸を摘出するまでこだわりを見せるからである。
やがて女はベンと呼ばれているらしい夫とともに暮らす家で、台所で食事の用意をするためにナイフでじゃがいもの皮を剥くのであるが、なかなか上手く剥けない。家を飛び出す女は再び主人公と出会い、冒頭の抱擁シーンが再び映されて終わる。本作が密通願望の女の妄想の断片として描かれたのであるならば、挿入歌の歌詞の上手さと対照的な‘拙い’演出こそが却って幻想の効果をもたらすのであろう。
ジャン=マリー・ストローブによるならば「リュック・ムレは、ブニュエルとタチの両者を継承するおそらく唯一の存在だ」ということらしい。今回の初期3作品しか観ていないためにストローブの発言の是非は判断できないが、個人的にはマルグリット・デュラスのような極めて実験色の濃い作風だと思う。
「南方週末」だけじゃない…中国の映画検閲、007が滅茶苦茶に!(産経新聞) - goo ニュース
驚くべき数字が2つあった。フランス通信によると、中国においては、検閲以前に、国産
映画育成のため、当局が海外映画の上映数を制限しており、昨年作られた中国産映画は
893本だったが、当局が上映を許可した海外映画は前年より14本増えたものの、わずか
34本ということ。もう一つは昨年4月、全世界で公開された「タイタニック3D」に関して、
米国での興行収入は5788万ドル(約52億円)なのに対して、香港を除く中国においては
1億4500万ドル(約130億円)であり、この作品の海外の総興行収入の約5割は中国
(香港除く)が稼ぎ出しているらしい。そうなると中国当局の事前検閲で滅茶苦茶にされた
としても「007 スカイフォール」が中国で上映が許可された幸運をありがたく噛み締める
ことになってしまう気持ちは分からないでもない。しかし日本においてもさすがに劇場公開
の作品が不当に編集されることはないものの、テレビで放映される時には時間合わせの
ために適当に編集されている時があるから、決して他国を笑えるような立場ではない。