原題:『少年H』
監督:降旗康男
脚本:古沢良太
撮影:会田正裕
出演:水谷豊/伊藤蘭/吉岡竜輝/花田優里音/小栗旬/早乙女太一/佐々木蔵之介
2013年/日本
「黙秘」する父親の心理について
結局、最後は、例えば洋服の仕立てや絵が上手く描けるなど手に職を持っている人間が生き残れるという啓蒙性しか感じなかったのであるが、強いて見所を挙げるならば、終戦後に、疎開先から戻ってきた妹尾好子が持ってきた白米を4人で食べようとした際に、板一枚で仕切られて隣に住む、ひもじい思いをしている子どもたちが敏感に白米を炊く匂いをかぎつけて、物欲しそうな声を上げたことに対して、母親の妹尾敏子がおにぎりを結び出し、いちいち食べ物を他人に恵んでいたらキリがないと主人公の妹尾肇が母親をなじるシーンであろう。その後も敏子は家の前で空腹で倒れた男におにぎりを恵んでやっており、その度に肇は父親に文句を言うのであるが、何故か父親の妹尾盛夫は何も言わず、怒りを抑えきれない肇は父親に物を投げて、盛夫は頭を切って出血するのであるが、それでも何も言わない。
盛夫の気持ちを勘案するならば、クリスチャンである家族が困っている人たちに物を恵むことはおかしなことではないが、クリスチャンの国家であるアメリカによってこのような悲惨な状況に陥ってしまった日本人に対する懺悔の念もあったように思う。このようなコンプレックスを息子に説くことは必要なことだと思うのだが、何故頑なにだんまりを決めてしまったのか盛夫の心理が今ひとつ理解に苦しむ。