原題:『Hope Springs』
監督:デヴィッド・フランケル
脚本:ヴァネッサ・テイラー
撮影:フロリアン・バルハウス
出演:メリル・ストリープ/トミー・リー・ジョーンズ/スティーヴ・カレル
2012年/アメリカ
いつの間にか「正常」でなくなっている時
主人公のアーノルドとケイのソウムズ夫妻は結婚31年目で、とりあえずお互いに不満無く暮らしているとアーノルドの方は信じていたのであるが、ケイの方は寝室が別であるところから不満が募っていた。結婚生活のカウンセリング本の著者であるバーナード・フェルド医師のカウンセリングを勝手に申し込んだケイと一緒に嫌々ながらアーノルドはメーン州のグレート・ホープ・スプリングスに向かう(原題はここの地名から取られているが、当然のことながら「希望が弾ける」ようにというケイの願望も込められていると思う)。
こうしてアーノルドにとっては地獄の苦しみが始まるのであるが、それ以前からアーノルドにはある兆候が見られる。それはアーノルドが唯一楽しみにしているゴルフ番組を見ているようでいながらいつも寝ているからである。ゴルフクラブを「男性」の暗示として見るならば、アーノルドの調子の悪さは想像出来るのであるが、それは不能という意味ではないであろう。実際に、フェルド医師のアドヴァイスを受けて、一度は2人は良い雰囲気になるものの、アーノルドがケイの顔を見たとたんに萎えてしまう。それをケイは、アーノルドが自分のことを愛していないと捉えるのであるが、そのような解釈はアーノルドにとって余りにも気の毒で、男は意外とデリケートな生き物なのだから愛情と美醜は分けて考えてあげるべきなのである。
この状況を打開するきっかけはアーノルドがテレビで見ていた『ケイン号の叛乱』(エドワード・ドミトリク監督 1954年)である。その時、アーノルドは、軍法会議において検事の質問に答えているうちにいつの間にか自分が正常でなくなっていることを理解してしまったケイン号の艦長であるフィリップ・クイーグ中佐を演じたハンフリー・ボガートの気持ちが痛いほど分かったであろう。アーノルドはケイの顔を見ないようにしてフェルド医師に課せられた重い課題を果たすのである。
ラストのキャロルと彼女の3匹の犬のギャグも冴えている。