原題:『青春トルコ日記 処女すべり』
監督:野田幸男
脚本:野田幸男/山本英明/松本功
撮影:山沢義一
出演:山川レイカ/荒木ミミ/岡田奈津子/殿山泰司/佐藤蛾次郎/小林稔侍
1975年/日本
物事に拘らない幸せ
青森から集団就職で東京にやって来た主人公のクラ子が、最初に勤めていた電器工場の昼休みの最中に男たちに輪姦されながらも赤い小銭入れだけは必死に守っているシーンは、やがてキャバレーのホステスから横浜や川崎の風俗嬢として出世し、千葉に自身が経営する風俗店をオープンさせるまでの素質が暗示されている。男たちに対する怨念が根っこになっているその野心は、時には非情さを示し、馴染みの客で工場社長の石川から500万円を借りながら、工場経営が厳しくなったことから貸した金を返して欲しいという石川の頼みを断り、首吊り自殺を図ったことから石川の娘である弘美の恨みを買ってしまう。
婦人警官という職を辞して、クラ子が経営する風俗店に勤めるために弘美は面接と称して三太に処女を奪われてしまうのであるが、ここに警官という弘美の真面目な性格が反映されている。
ストーリーは金銭に執着するクラ子と正義を貫徹しようとする弘美の諍いが描かれることになるが、そこに第三のキャラクターとしてモモ子が記憶を失って現れることになる。雨の中を道端で倒れていたモモ子は三太に拾われてクラ子と共に風俗店で働くことになるが、記憶を失っているために金銭にも正義にも興味が無い。三太と一緒に暮らすようになるのだが、料金を踏み倒したシローにも同情して部屋に連れ込んで、三人での同棲が始まる。カレーライスさえあれば幸せのモモ子は食事にも拘りが無い。モモ子はクラ子と弘美と共に働くのであるが、例えば、売春防止法で3人が警察に連行され、同じ留置場に入れられた際に、クラ子と弘美が喧嘩になり、クラ子が金で買収して留置場にいた他の女性たちを利用して弘美をボコボコにした時にも加わらなかったように、モモ子はあくまでも中立を保つ。
三太やシローの期待も虚しく、モモ子は金持ちのお嬢様ではなく、貧しい子沢山の家庭の長女だった。モモ子が思い出の断片として語った「白い壁」や「鉄の門」や「犬」は彼女が記憶を失う直前に輪姦された場所だったのである。思わず逃げ出してしまうモモ子であったが、兄弟たちは後からついて来て彼女から離れようとしない。事実を知って怒ったのはモモ子ではなく三太の方で、モモ子を輪姦した学生たちに仕返しをしようとしたが、返り討ちに遭って殺されてしまう。
やがてクラ子と弘美によるクライマックスのカーチェイスにおいて、最初に横転したクルマから出てきた弘美が突然交通整理を始めだし、次にクラ子が大量の札束が入ったカバンを持ち出して出てくるシーンはそれぞれのブレない素質を示しているのだが、救急車に運ばれようとするクラ子のカバンを、税務署の代わりにと言って取り上げたモモ子はそれを自分のものとしないで兄弟たちに持っていく。
ラストシーンも印象的で、草むらでセックスしているモモ子とシローに向かって兄弟たちが一万円札で飛行機を折り飛ばしている。シローは慌てふためいているのであるが、モモ子は全く気にしていない様子で、それはクラ子と弘美が必死になってカーチェイスを展開していたのとは対照的に、モモ子が他人が運転しているトラックの荷台に笑顔で座っているシーンで終わるように、結局、物事にこだわらない人間が幸せになるということを暗示するのである。