青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。写真はおおめ、文章はこいめ、コメントはすくなめ。

山麓に 諸行無常の 響きあり

2020年02月26日 23時00分00秒 | 高松琴平電気鉄道

(時は流れて残酷に@屋島登山口駅跡)

琴電屋島駅から正面の道をまっすぐ300mほど登ると、突き当りに町内会館があるのですが、その裏に回ると簡単にアクセス出来る屋島ケーブルの屋島登山口駅跡。廃線跡を巡るためにはもうちょっとアプローチというか導入部分に物語があってもいいのかな、とは思うのですけど、いともあっさりと探訪出来る「廃」な物件です。本当は町内会館の場所に駅舎が立ってたという事なんですが、やや広い建物の土台以外に往時を偲ぶものはありませんでした。錆びた鉄骨で屋根掛けされたホームに、ケーブルカーの廃車体がそのまま残置されています。

ケーブルカーの廃車体は、少し前まではそこそこ保存状態も良かったように聞いているのですが、現在は御覧のように窓ガラスを割られ荒れるがままの状態で、逆にこのまま置いておくくらいならさっさと撤去したほうが防犯上も良いのではないか、と訝ってしまうようなありさまになっています。車体の色は何だかぼんやりした緑色なんですけど、現役当時は赤白のカラーだったようです。引退してからしばらくしてこの色に塗り替えられてしまったのだそうだ。錆止めなのだろうか。

枯葉降り積もる屋島登山口駅のホーム。ホームの様子もおそらく営業当時のそのまま。ケーブルカーは1両かな、と思いつつよくよく見てみると、連結面が板で塞がれていて2両が置かれている事が分かります。以前は山上駅と登山口駅にそれぞれ1両ずつ置かれていたのが、劣化によるケーブルの破断や災害時の落下を防止するため、山麓に降ろされたそうです。そりゃそうだよなあ。ホームの錆びた駅名票もそのまま。山上駅までは800mだったんだねえ。運賃は廃止時で片道700円、往復1,300円。

ホームの脇にあったケーブルカーの変電設備。古びた板張りの建物は、絶対死神博士とか住んでそうな外観である。夜とかちょっと近づく気にはなれない。中で改造人間でもこしらえていたらどうするのかと思いつつおそるおそる中を覗いたところ、そこは乾いた計器類の置かれた機械室であった。当たり前だ。

車体のガラスが割れるがままに荒らされていたので、その隙間からケーブルカーの車内を見る事が出来た。特段の変哲のないオーソドックスなケーブルカーではありますが、少し横幅が狭いかもしれない。これで15分間隔の運行と言う事ですから、繁忙期の混雑時はそこそこ待つ時間もあったのではないでしょうか。それとも、下火となった屋島観光の輸送であればこのくらいでも間に合っていたのか。

草生して自然に還りかけている屋島ケーブルの線路。山上駅までは265mの高低差があったそうだ。登山口駅は取り壊されていますが、屋島山上駅には開業当時からの雅な駅舎がそのまま残されていて、今もその手の廃なモノがお好きな方々が訪れているようです。レンタカーなんで行けたっちゃ行けたんだけど、今回の「ことでん探訪」の趣旨からはちょっと外れてしまうので行きませんでした。

ケーブルカーの駅跡を降りて、屋島駅東側の踏切で改めて屋島の山を見上げる。今の屋島周辺の状況は、昔日の栄光を知る人には寂しく映るんでしょうけれども、どんな観光地でも安定的な集客を続けていくことはそう簡単な事ではありません。源平の合戦の舞台であればこそ、「諸行無常の響き」があり、「たけき者も遂にはほろびぬ」という平家物語の一節が身に沁みますな。それでも近年は山上へ向かう有料道路が無料化され、高松の街の夜景を楽しむデートスポットとして屋島の価値も再評価されているみたいですけどね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする