青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

雪の本宮、客は乗らねど山男。

2021年03月05日 00時00分00秒 | 富山地方鉄道

(雪の集落に佇む@本宮駅)

立山線の終点の一つ前、本宮駅。集落の中心を貫く県道沿いにひっそりと佇む駅で、道路から一段高い場所にある駅舎が、階段のスロープでささやかな駅前広場と繋がっております。まだ夜の明けきらない時間、駅の入口の蛍光灯が、溶けずに残っている雪を照らしていました。

「本宮」の名前は、駅を出て左へ3~4分行った場所にある「立蔵神社」に由来する名称かと思われます。立蔵神社は、かつては岩峅寺の前立社壇、芦峅寺の中宮と共に立山三宮の一つとして祀られた歴史のあるもので、前立社壇・中宮に対しての本宮的な扱いだったのではないかと。以前本宮の駅に来た時に立蔵神社に寄った事があるんだけど、小さいながらなかなか風格ある立派な神社だったのを思い出す。そんな由緒謂れある神社を持つ集落にある本宮駅。水銀灯の灯り乏しいホームが、春まだ浅き立山路に眠る。

駅舎のホーム側の壁に「1番線」の表示が架かっている。駅先の微妙にカーブした線形を見れば分かる通り、本宮駅は以前は2面2線の交換駅でありました。立山駅がある千寿ケ原周辺には集落がなく、主に春~秋のアルペンルートへのアクセスや冬場のスキー客の輸送が中心となる中で、立山線の純粋な沿線住民の利用はおそらくこの本宮駅まで。以前は富山方面から有峰口や本宮行きの区間列車の設定もあったようで、往時の本を見るとそんな列車の写真が見て取れたりします。区間列車が設定されていたのも、それだけこの本宮や常願寺川対岸の芦峅寺の集落あたりからの利用客が多かったって事なんだろうな。

既に交換設備は取っ払われて久しい2番ホームを、駅横の民家の軒先に届こうかと言う高い雪壁が埋めています。アルペンルートが閉鎖中の立山線は、特急立山もアルペン特急も走らず、日中の普通列車すら間引かれる「冬ダイヤ」の期間。以前は道路事情も悪く、積雪も多いことが冬場の鉄道の優位性だった頃もありましたが、並行する県道の道路事情が圧倒的に良化したこと、また温暖化によって積雪も少なくなった事もあって、この時期に岩峅寺以遠で鉄道の利用者を見る事は稀です。

立山方面の観光需要が皆無となってしまうこともあり、この時期はほぼ空気輸送という様相の立山線。そんな中でも、電鉄富山発5時台の立山行き快速急行は、スカスカの冬ダイヤでも変わらずに運転されています。朝の立山線と言えばこれ!と言う感じの名物列車なのですが、地鉄の運用は一部の観光列車を除けばほぼ共通運用のため、どの車両が入るかは正直運次第。去年の秋に来た時は、このスジに元東急の17480形が運用に入って非常に忸怩たる思いをしたのでありますが・・・駅横の踏切の鐘鳴って暫し、オデコ2灯のヘッドライトを輝かせて坂を登って来るのは愛しのマイフェイバリット14760形!急行幕も鮮やかに、風花舞う本宮のホームに滑り込みます。

夜明け前のブルーモーメントなひととき、車内の灯りに浮かび上がる60形の田窓が渋い。夏の時期なら早朝からアルペンルートに向かうハイカーで満席のはずなのだが、この時期の早朝の快速急行には、車内の客は人っ子一人見当たりませんでした。テールランプを光らせて、改めて立山へのラストスパートに向かう60形。ダブルパンタとダブルモーターの全電動車のパワフルな編成は、冬の立山を攻めるのに相応しい山男然とした重装備。朝からカッコいい60形の雄姿を拝めたこと、これだけで富山に来た価値のあるワンショットとなりました。


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