青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

富士山麓の電車旅

2007年05月13日 10時42分15秒 | 日常
(写真:岳南鉄道一日フリーきっぷ)

昨日は朝起きたら天気も良かったので、静岡県は富士市を走る岳南鉄道に乗りに行き、一日乗ったり降りたりしながら遊んでみた。岳南鉄道は文字通り「富士山の南麓」を走る全長9.4kmの地方鉄道であります。
ちなみに、何でそんなトコに?と言うのはヤボってもんですw
乗ってみたくなったから。理由はそれで充分。

R246で厚木→厚木IC(東名)→大井松田IC→R246御殿場からはちょっとイタズラしてR469経由で富士南麓の高原を走る。水を張った田んぼに映る富士。快晴の朝の富士山麓は空気が乾いていてとても気持ちいい。窓を全開にしつつ富士市街へ下って行く。

岳南鉄道は、JR東海道線の吉原駅から岳南江尾駅までの9.4kmを、富士市内をカギかっこ型に走っております(地図)。「吉原」と言われてもピンと来ないかもしれんですが、古くは百人一首にも詠まれ、高度経済成長期に「悪臭とヘドロ公害」で有名となった田子の浦の中心地が吉原です。工業都市としての富士市の中心地区ですね。
コンビナートにタンカーが係留されている田子の浦港。あらかじめ地図で調べておいた港を見下ろす公園に車を止め、歩いて吉原駅に向かう。早速アンモニアのような異臭が漂い、終日このニオイには悩まされた。これでもだいぶマシになったんだろうけど。
JR吉原駅はなかなか立派な駅。岳南鉄道の吉原駅は、JR駅の横の路地を入って行ったところにあって、JRの構内を間借りしているような佇まいは地方鉄道の始発駅っぽくうらぶれ気味である。近所のタバコ屋のような出札口でフトメのお姉ちゃんから一日フリーきっぷ(400円)を購入。終点の岳南江尾まで乗ると350円だから、適用は土休日だけだが格安だろう。終日乗車している客のほとんどがこのフリーきっぷを購入していたみたいです。

ホームに入ると、1両編成のワンマンカーが出発を待っていた。旧京王井の頭線の3000型をベースとし、両端を切り落として運転台を付け、その他色々の京王線の廃車部品を流用した車両で、地方私鉄向けの中古車両改造には定評のある京王重機整備㈱謹製。ステンレスの波板と、車内の雰囲気に「ああ、こんな感じだったかな」と言う面影が残ってますね。この日は、もう一本の主力車両である「がくちゃんかぐや富士号」も走っていました。ともにベースは同じな元井の頭線組。

発車間際までガラガラだった車内も、JRからの接続電車から乗り換えて来た学生で満席となって、吉原を発車。JRに沿って運河と工場街の中を走り、大きく北へカーブして富士を正面に見る形になる。最初の駅は「ジャトコ前」。工場とマルハン(パチ屋)に挟まれた駅で、ここで大半の学生が降りた。「吉原商業」のジャージを着てたので、部活かなんかなんだろう。そう言えば、元マリーンズのドラ1で現在は湘南シーレックスのコーチでもある武藤潤一郎は吉原商業の出身だったなあ…

電車は量販店が立ち並ぶどこにでもありそうな郊外都市の市街を走る。この地区は、富士市と合併する前は吉原市と言う独立した市であった。電車はその旧吉原市の中心街をくねりながら、世田谷線の駅のような感じの吉原本町駅へ。次の本吉原駅との間は300mほどしかなく、短い間隔で停車して行く。本吉原駅は工場とバーミヤンに挟まれた駅で、駅からはバーミヤンの駐車場を通らないと出られないw(写真の右側がバーミヤンの駐車場)。バミの炒め物臭がたなびく駅前。鉄道の駅としての矜持はどこに。まあ、おかげで午後はここに車を持って来てパーク&ライドしてしまったが(笑)。本吉原駅前には岳南鉄道の本社があって、グッズ販売なんかもしてるそうでのぞいて見たのだけど、土日はやってないのか閉まっていた。商売っ気のないこって。

本吉原駅を出ると、引き続き工場街を岳南原田駅へ。この駅には「めん太郎」と言う立ち食いそば屋が併設されており、名物になっているそうなので昼食はこの駅で取った。鳥のササミを揚げた天ぷらが乗ったササミソバ(300円)は、パサパサでまずいと言うイメージの鳥ササミがしっとりと揚げられていて、淡白なささみに醤油の濃い味の汁が合います。電車を利用しない人達も日常的に利用している様子で、昼時でもありなかなか盛況でした。

岳南原田駅を出ると、線路は日本大昭和板紙吉永工場の中を突っ切るように走る(地図)。線路の上に工場のプラントの配管やコンベアが張り巡らされた中を走る風景は一種異様で面白い。沿線風景のトピックかもしれないね。製紙の町・富士でも指折りの大企業である日本大昭和板紙吉永㈱は、旧大昭和製紙の板紙部門で、「板紙の吉永」と言われるほどのその部門では有名な企業なのだそうだ。
工場を抜けると比奈駅。この駅では、その吉永工場の引込み線から製品を積んで出て来る貨車の入れ替えを行っている。ここで積み込まれた貨車やコンテナ車は一本にまとめられ、貨物列車(1日4往復)として吉原駅まで走り、JRに引き渡されて全国へ出荷されているそうだ。
係員と機関車が引込み線へ向かい→駅に戻って来た貨車は切り離されて惰性で回送→これを何度か繰り替えした後で最後に機関車と連結し貨物列車が完成する。貨車と機関車が連結されるガシャン、ガシャンと言う音、係員同士の掛け声、笛の音、にぎやかであるとともに、産業としての鉄道の存在感を感じる光景でもある。一部始終を眺めていると飽きる事がない。

構内を所狭しと動き回る機関車はED402ED403。ともに信州は松本電鉄における梓川ダムの電源開発工事用に製作された機関車であり、ダム開発の終了とともに岳南に移って来たそうだ。ED403は赤とベージュの塗装が鮮やかで、車体に「NIPPON DAISHOWA PAPERBOARD YOSHINAGA」のコーポレートロゴが入っている。この2機を主力として現在岳南には4台の電気機関車が在籍しているそうです。一応全部見学してきましたw結局、この比奈駅にいる時間が一番長かったなあ。
ちなみに、出来上がった貨物列車はED403に牽かれて行きました(本吉原~吉原本町間にて)

比奈駅を出るとちょっとだけ風景がのんびりとしたものに変わり、次は岳南富士岡駅。この駅には留置線と小さな車両工場があり、隣の比奈駅が貨物の拠点だとするとここは車両の拠点と言う事が出来る。留置線には先代の主力車両であった「赤がえる(旧東急5000系)」が野ざらしで放置プレイ中であった。塗装がガタガタで、もう走れないのかもしれない。
岳南富士岡を出ると、愛鷹山から流れる川を渡りながら田園風景と住宅の混在した風景が広がり須津(すど)駅。読み方が難しい。周囲には湧き水が多く、散策コースなんかもあるようだ。近隣の住民が花壇を整備しており、花いっぱいのきれいな駅でした。

須津駅を出ると、少しのアップダウンを繰り返しながら車窓からの富士を愛でる。神谷駅を経て終点の岳南江尾駅へ。富士市の郊外、もう少し東へ行けば沼津市にかかるあたりかな、と言う感じの掴み所のない駅で、それもそのはず計画では路線は沼津まで延伸する予定であったそうだ。それがこの駅の終着駅としては中途半端なイメージに繋がっているのだろう。東海道新幹線の高架橋の近くにあるので、車窓から見た事がある人もいるかもしれないですね。結局終点まで乗って来たのは私一人だけでした。青空の下の誰もいないホームには、コスモスが咲いて、これで9.4kmの旅は終了。

吉原駅から25分弱の旅ですが、なかなか見どころはあったかなと思います。18きっぷシーズンなら、東京からの日帰り旅で充分圏内だからね。特に電気機関車好きにはオススメ出来るかと。
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