青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

横江雨情

2018年09月25日 17時00分00秒 | 富山地方鉄道

(しとどに降る雨に濡れて@横江駅)

横江の駅は集落の中心部にはあるものの、立山へ向かう道からは一段下がった場所にあり、案内看板もないので初見では位置がちょっと分かりづらい。ただ、見ず知らずのヨソモノは知らなくとも、普段この駅を使う人間が知ってればそれで良いのかもしれない。以前は有人駅だったようですが、駅の左半分の居室部分には既に羽目板が打ち付けられていて、ツタが絡まり荒れるがまま。中を見る事は出来ませんでした。


駅舎をくぐってホームに出てみる。見た目で分かる通りかつては島式ホームの交換駅でしたが、既にレールは引っぺがされて棒線駅になっています。天気が良ければホームからは立山連峰の眺めが美しく見えるそうですが、この日のこの天気では望むべくもない。ちなみに初代の横江駅はここからもう少し600mほど立山寄りにあって、現在の横江駅は当初尖山(とがりやま)駅として開設。但しこちらの方が横江の集落に近かったので、昭和40年にかつての横江駅を上横江駅とし、尖山駅を横江駅と改称して今に至ります。んで、集落から離れていた上横江駅はその後どうなったかってーと、利用者減によって平成9年に廃駅となってしまいました。こんな過疎地に600m間隔で駅があっても仕方ないし、末期は利用者がゼロという状況だったそうで。跡地に行ってみたかったんだけど、工事中で入れんかった。


雨に煙る横江の駅。駅の先に見える坂道を、電鉄富山行きが降りて来ました。この辺りから常願寺川の刻む谷が立山に向かって狭まり、標高も高くなって行きますので、おのずと線路の勾配もきつくなって来る。線路脇に放置された古レールは、剥がされたかつての2番線側に敷かれていたものだろうか…。


今回の富山訪問、ファーストショットは14760系の第7編成。白をベースに灰色と赤のラインをきりっと締めた、地鉄トラディショナルとも言える雷鳥カラー(ダイコンカラー)が私は大好きなのですが、何故か14760系の中でもカボチャと呼ばれる橙と緑の塗り分けになっているハミ出しっ子がいます。横江の駅は、一日当たり50人程度の乗降客があるそうですが、この休日の雨の朝では流石に乗降客はなし。バスと違って電車はいいよね。乗降客がいなくても通過しないから。


駅の横の踏切の警報音と電車の音に静寂を破られた横江の駅ですが、電車が行ってしまえば再び傘を叩く雨音だけの静寂が訪れます。駅前広場に出来た水たまりに落ちる雨粒の輪を眺めながら、濡れ行く横江の駅の雰囲気に暫し浸ってみる。駅の開設を記念して植樹されたのか、駅前には立派な桜の古木がありまして、おそらく桜の時期はまたいい雰囲気になるのではないでしょうかねえ。

少し感傷的な気持ちを加速させるように、雨は降り続くのでありました。
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地鉄秋風絵巻

2018年09月24日 22時39分18秒 | 富山地方鉄道

(秋麗しき越中路@富山駅前)

秋の三連休は9月が2回に10月が1回。先週は駿河の国で家族サービスに勤しませて(?)貰ったこともあり、今週はちょっと一泊お暇をいただいて秋の越中路へ。行く場所の候補としては色々あったんだけど、やっぱり撮影行という事になるとカメラ関係の機材を担いで電車やバスに乗るのがちとかったるい。そうなると、クルマで行ける範囲のやや遠いところ、という事になるんだけど、結局迷った挙句富山に落ち着きました。この週末はしなの鉄道で115系の9連が走るという事でそっちへ参戦しようか最後まで悩んだんだけど、まあしな鉄くらいの距離感ならまたイベントやれば行けるだろうしね…


行くと決まったら天気が猛烈に気になって、週中はスマホで天気ばっか見てたんだけど(仕事しろ)、今年の秋は去年にも増して天候不順。傘マークが付いたり消えたりするのを眺めては一喜一憂。富山へは高速代節約のために松本から平湯・神岡経由のアプローチを取ったんだけど、R158で新島々を過ぎた辺りから猛烈に雨が降り出した。真夜中のR158をフォグランプを点灯させながら恐る恐る。まあ昔のように中の湯から安房峠までつづら折れを登って行かなくてはならない訳でもなく、カネさえ払えば安房トンネルを通って5分程度で平湯へ抜けられるのだから楽なものだ。R471で真っ暗な神岡の街を通過したあたりからさすがに眠気が出始め、午前4時の「道の駅細入」で力尽きて爆睡。まあ笹津の手前だからもう十分富山各地域へのアプローチ圏内だよな。雨は間断なく降り続き、クルマの屋根をしとどに叩く。


富山へ。となると、自分の中ではそれは富山地方鉄道(地鉄)に他ならない。富山県内に総延長100kmを誇る路線網を持ち、宇奈月・立山の観光地へ運転される特急列車群に代表されるようなハレの部分だけじゃない、日常の地域輸送を支えるケの部分の魅力にすっかり魅了されている。カメラなんか握らずクルマの中で寝ていようかなんて思ってしまうほどの降りしきる雨の中、気力を奮い立たせて今回の旅で初めに訪れたのは立山線の横江駅。土砂降りの雨に濡れた暗い朝、モノ言わず黙り込む草臥れた木造の駅舎に寝ぼけた脳ミソが叩き起こされた。直観的に、この駅は雨が似合うと思った。都会人が抱く故郷への郷愁が、止まない雨の中で色褪せて行くような感じがある。


漂う湿気と、かすかな黴臭さに包まれた待合室。アーバンとルーラル、レトロとモダン、ノスタルジーとコンテンポラリー。オモテとウラの魅力的なギャップと、蠱惑的な落差で魅了してくる富山地方鉄道。窓の桟に乗せられた旧字体の傳言板が、新たな物語の書き手を待っています。
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臨港線追憶

2018年09月21日 21時07分25秒 | JR(貨物)

(昔日の工業都市に眠る@旧三保駅跡地)

昭和59年に廃止された旧国鉄清水港線の終点、三保駅。その跡地に整備された公園の中に、当時清水港線で走っていた貨車と入れ替えに使用されていた日通のスイッチャーが保存されています。清水港線は、東海道本線の清水駅から「三保の松原」で名高い三保半島をぐるりと回って、太平洋戦争のさなかの昭和19年に三保まで開通した路線です。末期は朝の三保行き、夕方の清水行きの一日一往復だけ、客車が貨車に併結されて走るという超閑散路線でした。沿線人口はそこそこあり、決して需要がなかったわけでもないようですが、清水~三保間を静鉄バスが頻繁に走っており、旅客に関してはそちらにお任せ、という態度だったようです。


専ら清水港線の役割は、清水港からの貨物の積み出しと、アルミ精錬のトップメーカーである日本軽金属を中心として発展した三保の工業地帯からの製品輸送や、工員輸送が目的でした。三保の地に日軽金が清水工場を建設したのが昭和16年ですから、戦線拡大の中で航空機の材料としてのアルミ生産はおそらく国策であり、清水港線の敷設は軍需目的の意味合いも強かったのではないでしょうか。スイッチャーの後ろに連結されたタキ8450。日本軽金属の清水工場から、アルミの原料であるアルミナ(酸化アルミニウム)を対岸の蒲原町にある蒲原工場へ輸送する貨車でした。


このように特定の企業が自社の製品を輸送するために製造された貨車を私有貨車と言いますが、あくまで「車籍」は「日本国有鉄道」が有しています。最近は化成品タキも全てコンテナ化されたので、デカデカと私企業名の書いてある私有貨車は太平洋セメントとENEOS系列くらいになりましたかね。あと東邦亜鉛もあるか。こんな地味な貨車とスイッチャーを保存している事に、工業都市の矜持みたいなものが感じられます。通りがかる地元の人は誰も一瞥だにせず、恐ろしく風景に溶け込んでいました。


貨車の「常備駅」という概念も、コンテナ全盛の近代では薄れゆく昭和の鉄道風景でしょうか。私有タキで言えば日本曹達の二本木駅常備、信越化学の黒井駅常備、日産化学工業の速星駅常備、保土谷化学の郡山駅常備、東北東ソーの酒田港駅常備、同和鉱業の小坂駅常備、関西化成品工業の安治川口駅常備とかねえ。子供心に「それってどこなの?」という謎の駅名が貨車に書かれていたものです。常磐線の金町だの馬橋だののヤードにはそんな貨車がゴロゴロしておった。


港の倉庫の狭間に残る、清水港線の廃線跡。サイクリングロードと歩道に転用されているので割と見つけやすい。面影はあるようでいてないような。元々臨港地区の殺風景な中を走っていた路線だったので、当時の雰囲気とはそう変わっていないのかもしれない。それでも巴川を渡る鉄橋は上下可動式の橋だったり、清水港の駅では船積み用のテルファークレーンが晩年まで稼働していたりと臨港線らしい風景があちらこちらにあって、短い中にも魅力的な路線だったそうな。


今でも目を瞑れば、DD13に引かれた貨車と客車の混合列車がガタンガタンと走って来そうな清水港の裏路地。そうそう清水と言えば日本有数の海運事業者・鈴与グループの総本山でしたな。ガソリンスタンドでたまにお世話になってます。今ではフジドリームエアラインズなんかのオーナー企業だったりもする。静岡を中心に陸海空を完全制覇する総合物流企業の鈴与が、旧国鉄清水港駅の跡地に建てたのがエスパルスドリームプラザ。


旧清水港駅のテルファークレーンは、港町清水の産業遺産としてエスパルスドリームプラザ内の敷地で今でも大切に保存されています。この風景に溶け込むと何だか野外ライブのステージの照明の建て込みみたいに見えなくもないけど、組まれたレールに滑車を取り付けて、吊り下げた積み荷を船へ移動させるための荷役設備。主に南アルプスで産出される木材の積み出しに利用されていたようです。ちびまる子ちゃんだけじゃなくて、よく見れば古き佳き港町風情の残る清水の街ではあります。
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次に来るのは何の色?

2018年09月19日 17時00分00秒 | 静岡鉄道

(豊かなカラバリ@静岡鉄道A3000形)

近年の主力を張った1000形に代わる40年ぶりの新車としてデビューした静鉄A3000形。現在4編成がデビューしていますが、将来的には都合12編成が導入されて1000形を全て置き換える予定になっているそうな。A3000形は「Shizuoka Rainbow Trains」と銘打たれたキャンペーンが行われていて、デビューする編成ごとにカラーリングを変えている。記念すべき第1号編成がこの「Clear Blue(クリアブルー)」、富士山をイメージしたカラーリングなのだそうで。よく見るとスカートに「ローレル賞受賞」のレタリングが打たれてます。


第2編成は「Passion Red(パッションレッド)」。それにしてもこのA3000形、LEDのギラギラした前照灯といいガバッと開いた連結部の開口部といい、ギュッと真ん中に寄ったようないかつい表情で圧が強い。個人的にはドラクエに出て来るモンスターのギズモに見えてしょうがない(笑)。クリアブルーの編成なんかまんまフロストギズモやんけ。ヒャダルコ連発されそう。パッションレッドはさしずめヒートギズモだろうか。炎吐くで。

 

第3・4編成目はまず「Natural Green(ナチュラルグリーン)」。静岡名産のお茶の色なんだそうな。もうちょっとお茶の色ってのは軽やかな緑色のような気もしますが…まあいいでしょう。そして電車まつりの会場に展示されていた「Brilliant Orange Yellow(ブリリアントオレンジイエロー)」。単なるオレンジ色ではなくて、静岡名産のミカンに寄ったいわゆるミカン色なんだって。どうでもいいけどレインボーだとすると色は7色で、既に残りは3色だけ。12編成導入するとして、残りの5編成はどうなんだろうね?


ちなみに現行の1000形、一部の編成は長年に亘ってラッピング広告電車として走っております。都会の電車のようにドア脇に商品張り付ける程度の生半可なもんじゃなくて、御覧のようなド派手な感じの全面ラッピングで、おそらくこの編成は午後ティーのロイヤルミルクティー仕様。前に来た時はレモンティーのヤツが走ってた記憶があるが、フレーバーは時期によって変わるらしい。


古いフォルダをひっくり返してみたらレモンティー仕様の午後ティーラッピングあったわ。レモン色ベースだとかなりハデハデだなあと思わせつつ、ドアのところは白・赤・黄色でミルク・ストレート・レモンの午後ティー三原色(?)を表現するという凝ったデザインであった。もうこの1002編成は廃車になっているそうですがね。という訳で残りの5編成は企業向けのラッピングトレインになるのではないか、と勝手に予想。同じ形式で統一している分、こういうカラバリだったりラッピングだったりで変化があるのが楽しいですよね。静鉄祭りに来てた子供たちも「午後ティー来た!」とか「劇団四季来た!」とか言ってたもん(笑)。
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我が街トレイン秋祭り

2018年09月18日 17時00分00秒 | 静岡鉄道

(アットホームなお祭り@しずてつ電車祭り)

鉄道会社のイベントというと、大手私鉄はどこも車両見学以外はグッズの物販と事前予約型のイベントしかない感じになりがち。規模と参加人数を考えるとどうしてもそうならざるを得ないのかもしれないけど、こと「しずてつ電車まつり」は地元の高校生が焼いたパンを売り、地元のおっちゃんがたこ焼きを焼いて、鉄道の現業職員がかき氷を作り金魚すくいの世話をやっていたりと、傍目には完全に普通のジモな秋祭りの縁日然とした光景が繰り広げられていた。この適度に地元参加型の雰囲気は中小私鉄ならではって感じで、関東鉄道の水海道公開を思い出してしまうのであった。


今回のイベントの目玉、作者追悼の特別HMを装備したちびまる子ちゃんラッピングの1011編成。運用時の自動放送のアナウンスは、まる子ちゃんの声優であるTARAKOさんがやっていたりする。側面にあしらわれた劇中の個性豊かなキャラクターの数々は、西武の「ぐでたまトレイン」に引き続き、幼稚園児の娘にもウケがいい。個人的には、東急が一時期凝った微妙な「く」の字折れの前面部ね。「ダイヤモンドカット」と呼ばれた東急7200系の系譜で、同時期の昭和40~50年代の営団車や、京急の2000形なんかにも連なって行くデザイン。


ラッピングトレインのサイドビュー。まるちゃん、たまちゃん、とし子ちゃん、はまじ、ブー太郎、丸尾君、城ケ崎さん、永沢、藤木、笹山さん。全部とはいかなくても大体のキャラクターは自分でも分かる。家が火事になった永沢君と常に卑怯者呼ばわりされている藤木のダークなコンビいいよねえ。ここらへんのキャラのネクラなシニカルさがさくらももこ作品の肝じゃないかと思うのだが、ここのドアから乗ったら朝とかお腹痛くなりそうだよなあ…(笑)。


ちなみに最近の車両じゃないから、オールステンレスでもガッツリとコルゲートが入っていてちょっと書き文字が読みにくい。キャラの顔をコルゲートのない平滑な部分に書く分仕方なかったのか。この角度から見ると、妻面の作りといい履き物のTRの台車がもういかにもなメイド・イン・東急車輛。


A3000形の導入で廃車となっている編成もあるそうですが、オールステンレスなので車内のレストアだけすればまだまだ他の地方私鉄で長く使ってあげられるはず…と考えてはみたものの、そうだ静鉄って600V路線なのよね。1M1Tのサイズ感はピッタリでも、1500V路線に投入するには昇圧工事をしないとどのみち使えない。そして地方私鉄はどこもそこまでのカネを掛けてられないというのが本音でしょう。未だに600Vで運行してるのって伊予鉄の一部と銚子電鉄くらい?


洗車体験車両に使われていた1006編成とともに。静鉄は長らく自社で走らせる電車の新造をこの長沼工場で行っていて、製造を外部委託した今でも自社発注車が100%を占めるという稀有な地方私鉄。鉄道・バス・不動産・百貨店・建設と静岡経済の一角をなすコングロマリット企業である静岡鉄道グループの経営体力を垣間見る思いがします。浜松を拠点とする遠州鉄道にも同様な事が言えると思いますが、東急資本の伊豆急や西武資本の伊豆箱根も含め、静岡県内の地方私鉄は人口と観光や経済の流動性に富んだ地域にあって恵まれているよなあと。大井川だけが苦しいんだよねえ。


時刻はちょうどお昼時。ついつい香ばしいソースの匂いに惹かれて縁日ゾーンの焼きそばコーナーへ。2パック500円はリーズナブル。わざわざ静岡まで来て昼めしが焼きそばとか(笑)って感じなんだけど、こーいうお祭りのゴタゴタした雰囲気の中で食べる焼きそばとかお好み焼きの類は、そこいらの食べログ掲載店の食い物より美味いと相場が決まっているのである。
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