今回は、(1)のうどん屋さんの話から少し横道にそれて、カップ麺(カップうどん)の話を紹介したい。必要あって、東京に住む知人のTさんから何種類かのカップ麺を送ってもらっていた。これをもとに、東西のカップうどんを食べ比べてみたのである。
※参考:まろやか味のうどんが食べたい!(1)ツユが辛くなった?
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/aa196121a45bd3b1996339623e8936bf
まずはカップうどんの代表格、トップ写真のどん兵衛(日清食品)と赤いきつね(東洋水産)の東西比較から。どん兵衛は、東京版(Aのマーク=茨城県取手工場で製造)は液体ツユ、関西版(Oのマーク=滋賀県栗東工場で製造)は通常の粉末ツユだったが、塩加減に変わりはないだろう。なお液体ツユは、食べる直前に入れることになっている。

どん兵衛。向かって左が東京版(液体ツユ)、右が関西版(粉末ツユ)
ツユの色がよく見えるように、油揚げは取り除いてある
これは見た目で明らかだろう。関西版は、薄口醤油を使い昆布ダシ(アミノ酸)を利かせたまろやか味で、ほんのり甘みがある。東京版は、濃口醤油を使い鰹ダシを利かせたこってり醤油味。お餅につける砂糖醤油で仕上げたような濃厚なツユで、食べ慣れない関西人の私にはキツい。油揚げの味も違うように感じる。よく「東京のうどんは、色は濃いが決して辛くない」という人がいるが、どん兵衛に限ってはそれは当てはまらない。やはり東京版の方が辛い(とりわけ醤油辛い)のである(麺・かやく・スープの含有ナトリウム量も少し多い)。
http://www.nissinfoods.co.jp/utility/customer/faq.html

左は茨城県取手工場製、右は滋賀県栗東工場製
日清食品のHPには《1976年に誕生したどん兵衛は、他のカップうどんとの明確な差別化をはかるため、開発段階から、綿密な戦略が立てられていました。その戦略とは、マーケティングの手法を取り入れること。日清食品では1976年にマーケティング部を組織し、そして、製品開発の発想の起点を「お客さまのニーズと社会的な要請に応える」ことに改めたのです。その結果、「日清のどん兵衛」は、地域ごとの嗜好の違いをも考慮した、当時としては非常に画期的な製品となったのです》とある。なるほど、綿密なマーケティングの末、この味にたどりついたのである。
http://www.nissinfoods.co.jp/knowledge/madeby/donbee/index.html

どん兵衛のツユ比較
なおパッケージにある「べっぴんうどん」とは、08年に改良されたふっくら・ストレート麺のことで《従来よりめんを厚く、長さを約2倍にして、すすり心地の爽快さ、のどごしのよさ、もっちりとしたコシのある、生めんのうどんにさらに近づきました》という。
http://www.nissinfoods.co.jp/knowledge/madeby/donbee/pinsoba.html
赤いきつねは、東京版(丼には東を示すEの表示がある)のフタには「鰹だし!香る!うまい!こだわりのつゆ」、関西版のフタには「昆布だし!鰹だし!うまい!こだわりのつゆ」とあり、すでに差別化ができている。また関西版には「関西」との表示がある。

赤いきつね。左が東京版
こちらも写真の通り、ハッキリした差があった。関西版ツユには、ほんのり煮干しの味もする。塩・醤油味は、東京版の方が辛い。赤いきつねでも「東京のうどんは、色が濃いだけで辛くない」という俗説は覆されたのだ。誰がこんなウソを言い出したのだろう。なお赤いきつねの東京版に甘みは少なく、そこが甘辛さの際だつどん兵衛(東京版)と違う点で、私にはこちらの方が食べやすかった。

赤いきつねのツユ
さてここまでの話は、読者の皆さんの想定の範囲内だったと思う。私もそうだ。肝心なのは以下の話なので、もう少しお付き合い願いたいと思う。
東京から取り寄せたカップ麺のなかに日清食品の「ごんぶと きつねうどん 生タイプめん」(Fのマーク=静岡県焼津工場製)と「どん兵衛 特盛りかき揚げうどん」(Oのマーク=栗東工場製)があった。近くのスーパー(奈良市内)で同じ商品を買い求めたところ、製造工場のマークは同じだった。食べてみても味は同じで、どちらも関西風に昆布ダシを利かせたまろやか味だった(特に「ごんぶと」はマイルド)。
つまり、東京でも関西風のうどんが売られていたことになる。うーん、これは困った。せっかくスッキリと東西の区別ができたというのに、東京で関西風が受け入れられては、筋が通らなくなる。

東京で売っていたごんぶと(静岡県焼津工場製)
この話を別の知人にしたところ、わざわざ有料記事検索をかけてくれて、以下の情報が集まった。まずは7年前の産経新聞の記事「近ごろ都に流行るもの 讃岐うどんチェーン 東京人の味覚に変化!?」(02.8.31付)から。
《「東京のうどん」といえば「真っ黒なしょっぱい汁にソフト麺」が定番だ。だが、その牙城(?)に「透明な薄味汁にシコシコ麺」という讃岐うどんの進出が目立ってきた。今月25日にはJR恵比寿駅構内に、来月6日には「百円讃岐うどん」を展開する香川の業者が渋谷に乗り込んでくる。東京人の味覚も変化したのか?》。
JR恵比寿駅構内の《「あじさいの客は、そば8割に対してうどん2割でしたが、従来の濃いつゆに加えて薄味の関西風も選べるようにしたところ、うどん客のほぼ全員が薄味を選ぶ現象が現れた。関東圏でも、関西風志向が強まっている。麺もダシも本格的な讃岐うどんなら、潜在的なうどん需要がもっと掘り起こせると思った」と日本レストランエンタプライズでは話す》。

讃岐うどんを意識したごんぶと。まろやかで美味しい
同じ産経新聞の「ヒガシマル醤油の関西風味『うどんスープ』発売40周年 首都圏でブレイク」(04.3.31付)から。《淡口(うすくち)しょうゆの全国シェア4割を占めるトップメーカー、ヒガシマル醤油が出す関西風味のうどんつゆの素(もと)、「うどんスープ」の首都圏での売り上げが、ここ2年間で倍増した。1昨年来の讃岐うどんブームが需要急増の引き金になった。4月で発売40周年を迎えるロングセラー商品だが、同社ではさらに上積みを狙って首都圏での販売促進活動を本格化させた》。
このように、2002年からの「讃岐うどんブーム」の影響で、東京でもまろやか味が受け入れられるようになったのだ。だからマーケティング戦略に長じた日清食品などは、讃岐風に《透明な薄味汁にシコシコ麺》のごんぶとを発売したり、一部のどん兵衛を関西風味にしたのである。讃岐うどんのパワーは、すごい。

東京で売っていたどん兵衛(滋賀県栗東工場製)
さらに最近の調査では、こんな結果も出ていた。日経消費ウォッチャー「エリアマーケティング最前線 『地域発』だから売れたこんな品<特集>」(09.3.10)によると《濃い味を好むとされている東北地方であっさりしたスープ味のうどんが好まれたり、地域色が濃いとされてきた味噌の味も全国的に平準化する傾向が強まってきている。すき焼きの調理法も東日本と西日本の違いが薄らいでいる》。
《「うどんのつゆ」。一般に東日本や北日本で濃い味が好まれるといわれてきたが、「(濃い口しょうゆを使った)色が濃い」つゆが一番好きだと答えた人の割合と、「(薄口しょうゆを使った)色が薄い」つゆが一番好きだと答えた人の割合を比べると、「色が濃い」が「薄い」を明確に上回ったのは北海道だけだった》。
《「濃い」が好きだと思われがちな東北では「薄い」ほうにむしろ支持が集まっており、北関東や甲信越北陸ではほぼ拮抗している。近畿以西の西日本では圧倒的に「薄い」に支持が集まっており、これは伝統的な西日本の味とマッチしている。東・北日本で伝統的なし好が崩れているともいえるが、「薄味志向が健康イメージとあいまって拡大していることの影響を受けた可能性もある」(平林教授)》。
讃岐うどんが引き金となった「うどんつゆのまろやか化」が、健康志向と相まって全国に広がっているという構図である。すると、このシリーズの(1)で書いた「関西のうどんが辛くなっている」という私のリサーチ結果と矛盾することになる。もう少し、うどん屋さんでのリサーチを進め、次回(3)で報告させていただきたい。
※参考:まろやか味のうどんが食べたい!(1)ツユが辛くなった?
http://blog.goo.ne.jp/tetsuda_n/e/aa196121a45bd3b1996339623e8936bf
まずはカップうどんの代表格、トップ写真のどん兵衛(日清食品)と赤いきつね(東洋水産)の東西比較から。どん兵衛は、東京版(Aのマーク=茨城県取手工場で製造)は液体ツユ、関西版(Oのマーク=滋賀県栗東工場で製造)は通常の粉末ツユだったが、塩加減に変わりはないだろう。なお液体ツユは、食べる直前に入れることになっている。

どん兵衛。向かって左が東京版(液体ツユ)、右が関西版(粉末ツユ)
ツユの色がよく見えるように、油揚げは取り除いてある
これは見た目で明らかだろう。関西版は、薄口醤油を使い昆布ダシ(アミノ酸)を利かせたまろやか味で、ほんのり甘みがある。東京版は、濃口醤油を使い鰹ダシを利かせたこってり醤油味。お餅につける砂糖醤油で仕上げたような濃厚なツユで、食べ慣れない関西人の私にはキツい。油揚げの味も違うように感じる。よく「東京のうどんは、色は濃いが決して辛くない」という人がいるが、どん兵衛に限ってはそれは当てはまらない。やはり東京版の方が辛い(とりわけ醤油辛い)のである(麺・かやく・スープの含有ナトリウム量も少し多い)。
http://www.nissinfoods.co.jp/utility/customer/faq.html

左は茨城県取手工場製、右は滋賀県栗東工場製
日清食品のHPには《1976年に誕生したどん兵衛は、他のカップうどんとの明確な差別化をはかるため、開発段階から、綿密な戦略が立てられていました。その戦略とは、マーケティングの手法を取り入れること。日清食品では1976年にマーケティング部を組織し、そして、製品開発の発想の起点を「お客さまのニーズと社会的な要請に応える」ことに改めたのです。その結果、「日清のどん兵衛」は、地域ごとの嗜好の違いをも考慮した、当時としては非常に画期的な製品となったのです》とある。なるほど、綿密なマーケティングの末、この味にたどりついたのである。
http://www.nissinfoods.co.jp/knowledge/madeby/donbee/index.html

どん兵衛のツユ比較
なおパッケージにある「べっぴんうどん」とは、08年に改良されたふっくら・ストレート麺のことで《従来よりめんを厚く、長さを約2倍にして、すすり心地の爽快さ、のどごしのよさ、もっちりとしたコシのある、生めんのうどんにさらに近づきました》という。
http://www.nissinfoods.co.jp/knowledge/madeby/donbee/pinsoba.html
赤いきつねは、東京版(丼には東を示すEの表示がある)のフタには「鰹だし!香る!うまい!こだわりのつゆ」、関西版のフタには「昆布だし!鰹だし!うまい!こだわりのつゆ」とあり、すでに差別化ができている。また関西版には「関西」との表示がある。

赤いきつね。左が東京版
こちらも写真の通り、ハッキリした差があった。関西版ツユには、ほんのり煮干しの味もする。塩・醤油味は、東京版の方が辛い。赤いきつねでも「東京のうどんは、色が濃いだけで辛くない」という俗説は覆されたのだ。誰がこんなウソを言い出したのだろう。なお赤いきつねの東京版に甘みは少なく、そこが甘辛さの際だつどん兵衛(東京版)と違う点で、私にはこちらの方が食べやすかった。

赤いきつねのツユ
さてここまでの話は、読者の皆さんの想定の範囲内だったと思う。私もそうだ。肝心なのは以下の話なので、もう少しお付き合い願いたいと思う。
東京から取り寄せたカップ麺のなかに日清食品の「ごんぶと きつねうどん 生タイプめん」(Fのマーク=静岡県焼津工場製)と「どん兵衛 特盛りかき揚げうどん」(Oのマーク=栗東工場製)があった。近くのスーパー(奈良市内)で同じ商品を買い求めたところ、製造工場のマークは同じだった。食べてみても味は同じで、どちらも関西風に昆布ダシを利かせたまろやか味だった(特に「ごんぶと」はマイルド)。
つまり、東京でも関西風のうどんが売られていたことになる。うーん、これは困った。せっかくスッキリと東西の区別ができたというのに、東京で関西風が受け入れられては、筋が通らなくなる。

東京で売っていたごんぶと(静岡県焼津工場製)
この話を別の知人にしたところ、わざわざ有料記事検索をかけてくれて、以下の情報が集まった。まずは7年前の産経新聞の記事「近ごろ都に流行るもの 讃岐うどんチェーン 東京人の味覚に変化!?」(02.8.31付)から。
《「東京のうどん」といえば「真っ黒なしょっぱい汁にソフト麺」が定番だ。だが、その牙城(?)に「透明な薄味汁にシコシコ麺」という讃岐うどんの進出が目立ってきた。今月25日にはJR恵比寿駅構内に、来月6日には「百円讃岐うどん」を展開する香川の業者が渋谷に乗り込んでくる。東京人の味覚も変化したのか?》。
JR恵比寿駅構内の《「あじさいの客は、そば8割に対してうどん2割でしたが、従来の濃いつゆに加えて薄味の関西風も選べるようにしたところ、うどん客のほぼ全員が薄味を選ぶ現象が現れた。関東圏でも、関西風志向が強まっている。麺もダシも本格的な讃岐うどんなら、潜在的なうどん需要がもっと掘り起こせると思った」と日本レストランエンタプライズでは話す》。

讃岐うどんを意識したごんぶと。まろやかで美味しい
同じ産経新聞の「ヒガシマル醤油の関西風味『うどんスープ』発売40周年 首都圏でブレイク」(04.3.31付)から。《淡口(うすくち)しょうゆの全国シェア4割を占めるトップメーカー、ヒガシマル醤油が出す関西風味のうどんつゆの素(もと)、「うどんスープ」の首都圏での売り上げが、ここ2年間で倍増した。1昨年来の讃岐うどんブームが需要急増の引き金になった。4月で発売40周年を迎えるロングセラー商品だが、同社ではさらに上積みを狙って首都圏での販売促進活動を本格化させた》。
このように、2002年からの「讃岐うどんブーム」の影響で、東京でもまろやか味が受け入れられるようになったのだ。だからマーケティング戦略に長じた日清食品などは、讃岐風に《透明な薄味汁にシコシコ麺》のごんぶとを発売したり、一部のどん兵衛を関西風味にしたのである。讃岐うどんのパワーは、すごい。

東京で売っていたどん兵衛(滋賀県栗東工場製)
さらに最近の調査では、こんな結果も出ていた。日経消費ウォッチャー「エリアマーケティング最前線 『地域発』だから売れたこんな品<特集>」(09.3.10)によると《濃い味を好むとされている東北地方であっさりしたスープ味のうどんが好まれたり、地域色が濃いとされてきた味噌の味も全国的に平準化する傾向が強まってきている。すき焼きの調理法も東日本と西日本の違いが薄らいでいる》。
《「うどんのつゆ」。一般に東日本や北日本で濃い味が好まれるといわれてきたが、「(濃い口しょうゆを使った)色が濃い」つゆが一番好きだと答えた人の割合と、「(薄口しょうゆを使った)色が薄い」つゆが一番好きだと答えた人の割合を比べると、「色が濃い」が「薄い」を明確に上回ったのは北海道だけだった》。
《「濃い」が好きだと思われがちな東北では「薄い」ほうにむしろ支持が集まっており、北関東や甲信越北陸ではほぼ拮抗している。近畿以西の西日本では圧倒的に「薄い」に支持が集まっており、これは伝統的な西日本の味とマッチしている。東・北日本で伝統的なし好が崩れているともいえるが、「薄味志向が健康イメージとあいまって拡大していることの影響を受けた可能性もある」(平林教授)》。
讃岐うどんが引き金となった「うどんつゆのまろやか化」が、健康志向と相まって全国に広がっているという構図である。すると、このシリーズの(1)で書いた「関西のうどんが辛くなっている」という私のリサーチ結果と矛盾することになる。もう少し、うどん屋さんでのリサーチを進め、次回(3)で報告させていただきたい。