読売新聞経済面に、「牛丼 デフレ戦争(上・下)」という記事が連載された(11/24~25)。見出しは「280円商品開発に試食500回」(上)「迅速対応もコスト減」(下)。すき家と松屋が牛丼を値下げしてから、吉野家の苦戦が続いていた。そこで「280円の商品を作れ」と、吉野家HDの安部修仁社長の号令が飛び、「牛鍋丼」「牛キムチクッパ」を280円で発売した。発売までの半年間に500回近く試食したそうだ。
※「牛鍋丼」280円…吉野家、9月7日から
http://www.yomiuri.co.jp/gourmet/news/business/20100903-OYT8T00188.htm?from=yolsp
すき家の牛丼並280円
吉野家の参戦にお客は《「280円はありがたい」(23歳の男性会社員)「値段の割にうまい」(59歳の男性会社員)》と好評で、牛鍋丼の売れ行きは発売後1か月で1千万食に達したそうだが、その勢いには早くもかげりが見えるというから、この業界は厳しい。
私も、出張の途中でランチタイムになったとき、急いで空腹を満たすのに便利なので、時々牛丼のお世話になっている。漠然と吉野家が最大手だと思っていたら、2年前に「すき家」が追い抜いていた。読売の記事によると、10年10月末現在で、すき家は1508店、吉野家は1162店、松屋は812店。その次は約500店のなか卯だ。すき家は株式会社ゼンショーの直営、株式会社なか卯はゼンショーの連結子会社なので、ゼンショーグループは約2千店を展開しているのだ! livedoorニュース(5/13付)には「ゼンショーがマクドナルドを抜き外食日本一へ」という記事が出ていた。
http://news.livedoor.com/article/detail/4766725/
牛丼並280円、サラダ100円、みそ汁70円
Wikipedia「ゼンショー」によると(株)ゼンショーは《M&Aに積極的で、2000年代には各ジャンルの外食チェーンを次々と買収し傘下におさめている。グループ連結子会社に、ファミリーレストランチェーンの「ココスジャパン」や「サンデーサン」、牛丼とうどんを中心とする外食チェーンの「なか卯」「すき家」などを有する》。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC
《海外へも事業展開を進めており、2006年にアメリカで約200店を経営するカタリーナ・レストラン・グループを買収》《社名は以下の語呂に由来する。※創業時からの目標である「フード業世界一」になるためには、「14勝1敗」では駄目で「15戦15勝」つまり「全勝」でなくてはならない。※善意の商売を行う。※「禅」の心で商売を行う》。
吉野家の安部社長はよくマスコミに登場するが、ゼンショーの社長のことは、全く知らなかった。興味を覚えて「外食日本一 ゼンショー 280円で仕掛ける“メガ盛り生産性革命”」という特集記事が載った日経ビジネス(10.9.20号)を読んでみたが、同社の小川社長(元東大全共闘)へのインタビュー記事まで出ていて、とても面白かった。日経ビジネスオンラインにも、その一部が出ている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100917/216295/
《24兆円を誇る外食業界において今期、その勢力図が大きく変わろうとしている。長年トップを走っていた日本マクドナルドホールディングスがその座を追われ、代わりにトップの座に就くのが牛丼「すき家」を中心に約20の業態を展開するゼンショーだ。ゼンショーはこの10年で売り上げを20倍に伸ばし、今期3686億円の売り上げを達成する見込みだ。その原動力となったのは生産効率への飽くなき執念、そして社員、パート、アルバイトまでをも1つにまとめ上げる統率力》。
こちらは「なか卯」(ゼンショーグループ)の和風牛丼並290円
《こうした仕組みを作り上げたのは、革命家出身の経営者、小川賢太郎社長だ。小川社長にとって日本一は通過点に過ぎない。あくまで狙いは“フード業世界一”。日経ビジネス9月20日号の特集「外食日本一 ゼンショー」では、その経営の仕組みの詳細に報じた。その関連インタビューとして、これまであまりメディアに出ることがなかった小川社長に秘めた思いを聞いた。(聞き手は飯泉 梓=日経ビジネス記者)》。
社長のプロフィールは《小川賢太郎(おがわ・けんたろう)氏 1948年7月石川県生まれ、1978年吉野家入社、その後退社。1982年ゼンショー設立》。小川氏の父親は自衛官だ。《―会社の経営理念には「世界から飢餓と貧困を無くす」とあります。こうした思いはずいぶん前から抱いていたのでしょうか》。
《小川 1968年、大学に入学した当時、ベトナム戦争が激化していた。米軍が毎日50万人の軍隊をアジアの国に送りこんでいた。日本の基地からも毎日B52爆撃機をガンガン飛ばして爆撃していた。つまり、資本主義が世界を席巻していたのです。だが、その一方で世界の3分の2は貧困状態に陥っている。世界の中で矛盾が起きている。そう強く感じたわけです》。
なか卯の和風牛丼並290円、小うどん140円
《矛盾は日本でも生じていた。戦後復興は軌道に乗り、経済成長を続けてきたけれど、その歪みが随所にあった。企業が成長した陰では、熊本の水俣病や富山のイタイイタイ病など全国で色々な公害が問題になっていた。職場では労働災害がどんどん増えて、現場で働いている人が高度成長期の犠牲になっていた。世界の若者は矛盾に対して声をあげている。こういう時に自分は何ができるのか。こうした状況を打破しなければならない。世界から飢餓と貧困をなくしたいというのはこの時からの思いです》。
《―東京大学に入学した当時、まさに東大紛争が起きていました。小川社長は東大全共闘として活動を始めます》《世界と大学が切り離されてあるわけではありません。大学に入学してから自分は今、何をすればいいのか、そんな課題を突きつけられていました。やはり資本主義社会であるから矛盾があるのであって、この矛盾を解決しなければならない。これは社会主義革命をやるしかないと学生運動にのめり込んでいきました》。
しかし東大紛争で挫折し、小川氏は大学を中退(1971年)して港湾労働者に。しかしベトナム戦争でのサイゴン(ホーチミン市)陥落のニュースに接し「今度は資本主義的な様式で革命を目指そう」と、吉野家に入社(78年)、吉野家倒産(80年)まで勤めた後、ゼンショーを設立した(82年)。
なか卯の松屋町店
インタビュー記事の要点を、作家の藍上陸(らんじょうりく)さんが、ご自身のブログで紹介されているので、引用する。《○社長の執務室には、一台数百万円という高級スピーカーがあり、記者が入室するなり社長がステレオのスイッチを入れて、ベートーベンの交響曲5番「運命」を流す。社長いわく、「これが私のテーマ曲。だって、運命じゃないですか、全部」》。
※藍上陸さんのブログ
http://ranjoriku.blog102.fc2.com/blog-entry-8.html
《○東大に入ったあとは、当時の多くの学生たちと同様、「体制の人材供給の象徴的な大学であり、権力の増殖機構だ」と糾弾する。○東大紛争に破れて大学を中退後、左翼思想に染まったまま湾岸度労働者として働いていたとき、ベトナム戦争が終結する。「ここが社会主義のピークだな。」と判断、「今度は資本主義的な様式で革命を目指そう」と船を乗り換える。そして「飢餓と貧困をなくす」ための新たな革命の一歩として選んだのが、吉野家。1978年に入社》。
《○吉野家を退社後、部下二人とともに会社を立ち上げる。「今度こそ、絶対に負けない。全戦全勝する」という覚悟を込めて、社名を「ゼンショー」にする。「資本は小川賢太郎100%、意志決定も小川賢太郎100%、専制君主制でやる。なぜなら議論している時間はないからだ」》。
Wikipedia「ゼンショー」によると《社長の小川賢太郎は「経営上重視するものは、一に安全、二に品質、三にコスト」と述べる。食の安全の確保のため、分析センター(2006年6月設立)をもち、残留農薬や食品添加物を独自にチェックしている。また、事故が起こった際には、発生から1時間以内に経営トップに事故情報が伝わるシステムを構築している》《食材の調達から店舗で販売するまでの食材管理を、全て自前で行っている。「マス・マーチャンダイジング(MMD)」と呼ぶこのシステムによって、安全性の確保や、味へのこだわりといった質の向上、急な需要増への柔軟な対応が図れるという》。
すき家の24号五條今井店(トップ写真は、奈良富雄店)
再び藍上さんのブログから、日経ビジネス記事の要点を引用する。《○ゼンショー本社の社員朝礼で、なにもない会議室で社員たちが大声で接客のロールプレイングをする。先輩社員から、「キッチンの動きですが、重心をいまより5cm低くすることによって、左回転がスムーズに動きます。それを気をつけてください」と檄が飛ぶ。○朝礼の締めくくりはスクワット。掛け声に合わせ、スーツ姿の社員たちが一心不乱に屈伸を繰り返す。「以上で朝礼は終了です」》。
《○「歩くときは1秒に2歩以上」と書かれたグループ憲章。○すき家の店舗では、分刻みの制限時間が設けられている。ある店舗では、くもの巣取り作業に2分、営業報告記入に10分、いす掃除に2分などと決められている》。
《○深夜帯の営業をする場合、警察当局は防犯上の理由から店員の複数配置を指導している。吉野屋は最低2人をおく。だが、すき家は違う。深夜のシフトが始まる午後10時頃から郊外の一部の店舗で、ワンオペ(店員一人だけ)が始まり、翌朝9時頃まで、孤独な作業が続く。ワンオペに従事するクルーが本社に増員を要請しても、「売り上げが増えれば2人でも3人でも増員します」との回答を得るだけ。現実に、すき家をターゲットにした強盗事件が、今年に入って報道されているものだけで未遂も含めて30件に上る。松屋はゼロ件。強盗に入られて店員が刃物で刺されて重傷を負った事件があっても、すき家はワンオペをやめない。社長いわく「ワンオペが理由ではなく、治安の悪化やマスコミの報道が誘発しているところもある」》。
《○すき家全店に監視カメラを設置し、その模様を監視役の社員が24時間、モニターしている。もちろん防犯対策の意味もある。だが同時にクルーの働きも、厳しくチェックされている。ある店員いわく、「深夜に手を抜いてぼーっとしていたら、本部から電話がかかってきて『今、何してた?』と聞かれたことがある。本当に見ているんだと思った」》。
すき家の食べラー・メンマ牛丼並380円
私が「すき家」に入って驚くのは、そのスピードである。出てきたお茶を2口ほど飲んだところで、いきなり「牛丼並」280円が出てきたことがある。何しろ《店内では1秒間に2歩以上歩く―。「すき家」のルールのひとつだ。効率的な店舗運営にはスピードが欠かせない。昼時は「実際は1秒間に3歩以上動く」(すき家)ほど忙しい。牛丼並盛りなら注文を受けて10秒以内で出すのが目標だ》(読売新聞11/25付)。
感心したのは、特製の「おたま杓子」である。日経ビジネスには《秘密は具材を煮る鍋の向こうの壁にかかったおたまにある。ミニ用、並盛用、大盛用と、3種類のおたまがあり、適量が収まる設計となっている。特盛は、並盛用のおたまで2杯分だ。ライバルの吉野家は1種類のおたましかないが、すき家では特注のおたまのおかげで、時間も技量も少なくて済む。さらに、すき家のおたまの上部には余分なつゆがあふれて鍋に戻る穴が開いている。「つゆだく」の場合は、盛りつけた後でおたまの内側に書いてある線まで、つゆだけをすくえばよい》。
《業界最速は道具だけではなし得ない。驚くべきはコンマ数秒を削るために、体のバランスや手の動かし方までもが細かく定められ、クルー(店員)は正確無比な所作が求められている点だ》。例えば、店員の腕を使う作業は、すべて「ヒジから下」で行うのだそうだ。上腕を動かすと、動きにムダが出るのだという。
食べラー・メンマ牛丼並380円、とん汁130円、サラダ100円
人気の新商品が、「食べラー・メンマ牛丼」(並380円)である。HPには《“食べるラー油”と“メンマ”が、とてつもなく牛丼に合うんです。シャキシャキ”メンマ”とザクザク”ラー油”がたまらない自信作》とある。「牛丼並280円+トッピング100円」なので380円という価格設定で、ニンニクと唐辛子がよく利き、特に若い男性に受けそうな味だ。サイドメニューのとん汁130円は、具だくさんで美味しい。サラダ100円も、お買い得だ。しかも「すき家」のお米はコシヒカリである。ここでは食券を買わなくて良いので、追加注文も楽々だ。とにかく回転が速いので、駐車場が満杯でも、少し待っていればすぐに空く。
小川社長の次のターゲットは海外である。日経ビジネスの記事は、次のような言葉で締めくくられている。《世界革命が成功するか否かは、いまだ未知数。日本発の外食企業が世界で大きく成功した例はない。数奇な経歴を持つ異能の経営者から繰り出される特異な経営手法。見え隠れする矛盾を止揚しながら発展し続けることはできるのか。その剛腕が試される次の舞台は世界だ》。
「一に安全、二に品質、三にコスト」を重視する社長の戦略は、海外でも十分通用する。あとは日本の「ご飯もの」「丼もの」が、どれだけ受け入れられるかだ。「beef bowl」(牛丼)がsushiに続くヒット商品となれるか、今後の展開に大いに期待したい。
※「牛鍋丼」280円…吉野家、9月7日から
http://www.yomiuri.co.jp/gourmet/news/business/20100903-OYT8T00188.htm?from=yolsp
すき家の牛丼並280円
吉野家の参戦にお客は《「280円はありがたい」(23歳の男性会社員)「値段の割にうまい」(59歳の男性会社員)》と好評で、牛鍋丼の売れ行きは発売後1か月で1千万食に達したそうだが、その勢いには早くもかげりが見えるというから、この業界は厳しい。
私も、出張の途中でランチタイムになったとき、急いで空腹を満たすのに便利なので、時々牛丼のお世話になっている。漠然と吉野家が最大手だと思っていたら、2年前に「すき家」が追い抜いていた。読売の記事によると、10年10月末現在で、すき家は1508店、吉野家は1162店、松屋は812店。その次は約500店のなか卯だ。すき家は株式会社ゼンショーの直営、株式会社なか卯はゼンショーの連結子会社なので、ゼンショーグループは約2千店を展開しているのだ! livedoorニュース(5/13付)には「ゼンショーがマクドナルドを抜き外食日本一へ」という記事が出ていた。
http://news.livedoor.com/article/detail/4766725/
牛丼並280円、サラダ100円、みそ汁70円
Wikipedia「ゼンショー」によると(株)ゼンショーは《M&Aに積極的で、2000年代には各ジャンルの外食チェーンを次々と買収し傘下におさめている。グループ連結子会社に、ファミリーレストランチェーンの「ココスジャパン」や「サンデーサン」、牛丼とうどんを中心とする外食チェーンの「なか卯」「すき家」などを有する》。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BC%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC
《海外へも事業展開を進めており、2006年にアメリカで約200店を経営するカタリーナ・レストラン・グループを買収》《社名は以下の語呂に由来する。※創業時からの目標である「フード業世界一」になるためには、「14勝1敗」では駄目で「15戦15勝」つまり「全勝」でなくてはならない。※善意の商売を行う。※「禅」の心で商売を行う》。
吉野家の安部社長はよくマスコミに登場するが、ゼンショーの社長のことは、全く知らなかった。興味を覚えて「外食日本一 ゼンショー 280円で仕掛ける“メガ盛り生産性革命”」という特集記事が載った日経ビジネス(10.9.20号)を読んでみたが、同社の小川社長(元東大全共闘)へのインタビュー記事まで出ていて、とても面白かった。日経ビジネスオンラインにも、その一部が出ている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100917/216295/
《24兆円を誇る外食業界において今期、その勢力図が大きく変わろうとしている。長年トップを走っていた日本マクドナルドホールディングスがその座を追われ、代わりにトップの座に就くのが牛丼「すき家」を中心に約20の業態を展開するゼンショーだ。ゼンショーはこの10年で売り上げを20倍に伸ばし、今期3686億円の売り上げを達成する見込みだ。その原動力となったのは生産効率への飽くなき執念、そして社員、パート、アルバイトまでをも1つにまとめ上げる統率力》。
こちらは「なか卯」(ゼンショーグループ)の和風牛丼並290円
《こうした仕組みを作り上げたのは、革命家出身の経営者、小川賢太郎社長だ。小川社長にとって日本一は通過点に過ぎない。あくまで狙いは“フード業世界一”。日経ビジネス9月20日号の特集「外食日本一 ゼンショー」では、その経営の仕組みの詳細に報じた。その関連インタビューとして、これまであまりメディアに出ることがなかった小川社長に秘めた思いを聞いた。(聞き手は飯泉 梓=日経ビジネス記者)》。
社長のプロフィールは《小川賢太郎(おがわ・けんたろう)氏 1948年7月石川県生まれ、1978年吉野家入社、その後退社。1982年ゼンショー設立》。小川氏の父親は自衛官だ。《―会社の経営理念には「世界から飢餓と貧困を無くす」とあります。こうした思いはずいぶん前から抱いていたのでしょうか》。
《小川 1968年、大学に入学した当時、ベトナム戦争が激化していた。米軍が毎日50万人の軍隊をアジアの国に送りこんでいた。日本の基地からも毎日B52爆撃機をガンガン飛ばして爆撃していた。つまり、資本主義が世界を席巻していたのです。だが、その一方で世界の3分の2は貧困状態に陥っている。世界の中で矛盾が起きている。そう強く感じたわけです》。
なか卯の和風牛丼並290円、小うどん140円
《矛盾は日本でも生じていた。戦後復興は軌道に乗り、経済成長を続けてきたけれど、その歪みが随所にあった。企業が成長した陰では、熊本の水俣病や富山のイタイイタイ病など全国で色々な公害が問題になっていた。職場では労働災害がどんどん増えて、現場で働いている人が高度成長期の犠牲になっていた。世界の若者は矛盾に対して声をあげている。こういう時に自分は何ができるのか。こうした状況を打破しなければならない。世界から飢餓と貧困をなくしたいというのはこの時からの思いです》。
《―東京大学に入学した当時、まさに東大紛争が起きていました。小川社長は東大全共闘として活動を始めます》《世界と大学が切り離されてあるわけではありません。大学に入学してから自分は今、何をすればいいのか、そんな課題を突きつけられていました。やはり資本主義社会であるから矛盾があるのであって、この矛盾を解決しなければならない。これは社会主義革命をやるしかないと学生運動にのめり込んでいきました》。
しかし東大紛争で挫折し、小川氏は大学を中退(1971年)して港湾労働者に。しかしベトナム戦争でのサイゴン(ホーチミン市)陥落のニュースに接し「今度は資本主義的な様式で革命を目指そう」と、吉野家に入社(78年)、吉野家倒産(80年)まで勤めた後、ゼンショーを設立した(82年)。
なか卯の松屋町店
インタビュー記事の要点を、作家の藍上陸(らんじょうりく)さんが、ご自身のブログで紹介されているので、引用する。《○社長の執務室には、一台数百万円という高級スピーカーがあり、記者が入室するなり社長がステレオのスイッチを入れて、ベートーベンの交響曲5番「運命」を流す。社長いわく、「これが私のテーマ曲。だって、運命じゃないですか、全部」》。
※藍上陸さんのブログ
http://ranjoriku.blog102.fc2.com/blog-entry-8.html
《○東大に入ったあとは、当時の多くの学生たちと同様、「体制の人材供給の象徴的な大学であり、権力の増殖機構だ」と糾弾する。○東大紛争に破れて大学を中退後、左翼思想に染まったまま湾岸度労働者として働いていたとき、ベトナム戦争が終結する。「ここが社会主義のピークだな。」と判断、「今度は資本主義的な様式で革命を目指そう」と船を乗り換える。そして「飢餓と貧困をなくす」ための新たな革命の一歩として選んだのが、吉野家。1978年に入社》。
《○吉野家を退社後、部下二人とともに会社を立ち上げる。「今度こそ、絶対に負けない。全戦全勝する」という覚悟を込めて、社名を「ゼンショー」にする。「資本は小川賢太郎100%、意志決定も小川賢太郎100%、専制君主制でやる。なぜなら議論している時間はないからだ」》。
Wikipedia「ゼンショー」によると《社長の小川賢太郎は「経営上重視するものは、一に安全、二に品質、三にコスト」と述べる。食の安全の確保のため、分析センター(2006年6月設立)をもち、残留農薬や食品添加物を独自にチェックしている。また、事故が起こった際には、発生から1時間以内に経営トップに事故情報が伝わるシステムを構築している》《食材の調達から店舗で販売するまでの食材管理を、全て自前で行っている。「マス・マーチャンダイジング(MMD)」と呼ぶこのシステムによって、安全性の確保や、味へのこだわりといった質の向上、急な需要増への柔軟な対応が図れるという》。
すき家の24号五條今井店(トップ写真は、奈良富雄店)
再び藍上さんのブログから、日経ビジネス記事の要点を引用する。《○ゼンショー本社の社員朝礼で、なにもない会議室で社員たちが大声で接客のロールプレイングをする。先輩社員から、「キッチンの動きですが、重心をいまより5cm低くすることによって、左回転がスムーズに動きます。それを気をつけてください」と檄が飛ぶ。○朝礼の締めくくりはスクワット。掛け声に合わせ、スーツ姿の社員たちが一心不乱に屈伸を繰り返す。「以上で朝礼は終了です」》。
《○「歩くときは1秒に2歩以上」と書かれたグループ憲章。○すき家の店舗では、分刻みの制限時間が設けられている。ある店舗では、くもの巣取り作業に2分、営業報告記入に10分、いす掃除に2分などと決められている》。
《○深夜帯の営業をする場合、警察当局は防犯上の理由から店員の複数配置を指導している。吉野屋は最低2人をおく。だが、すき家は違う。深夜のシフトが始まる午後10時頃から郊外の一部の店舗で、ワンオペ(店員一人だけ)が始まり、翌朝9時頃まで、孤独な作業が続く。ワンオペに従事するクルーが本社に増員を要請しても、「売り上げが増えれば2人でも3人でも増員します」との回答を得るだけ。現実に、すき家をターゲットにした強盗事件が、今年に入って報道されているものだけで未遂も含めて30件に上る。松屋はゼロ件。強盗に入られて店員が刃物で刺されて重傷を負った事件があっても、すき家はワンオペをやめない。社長いわく「ワンオペが理由ではなく、治安の悪化やマスコミの報道が誘発しているところもある」》。
《○すき家全店に監視カメラを設置し、その模様を監視役の社員が24時間、モニターしている。もちろん防犯対策の意味もある。だが同時にクルーの働きも、厳しくチェックされている。ある店員いわく、「深夜に手を抜いてぼーっとしていたら、本部から電話がかかってきて『今、何してた?』と聞かれたことがある。本当に見ているんだと思った」》。
すき家の食べラー・メンマ牛丼並380円
私が「すき家」に入って驚くのは、そのスピードである。出てきたお茶を2口ほど飲んだところで、いきなり「牛丼並」280円が出てきたことがある。何しろ《店内では1秒間に2歩以上歩く―。「すき家」のルールのひとつだ。効率的な店舗運営にはスピードが欠かせない。昼時は「実際は1秒間に3歩以上動く」(すき家)ほど忙しい。牛丼並盛りなら注文を受けて10秒以内で出すのが目標だ》(読売新聞11/25付)。
感心したのは、特製の「おたま杓子」である。日経ビジネスには《秘密は具材を煮る鍋の向こうの壁にかかったおたまにある。ミニ用、並盛用、大盛用と、3種類のおたまがあり、適量が収まる設計となっている。特盛は、並盛用のおたまで2杯分だ。ライバルの吉野家は1種類のおたましかないが、すき家では特注のおたまのおかげで、時間も技量も少なくて済む。さらに、すき家のおたまの上部には余分なつゆがあふれて鍋に戻る穴が開いている。「つゆだく」の場合は、盛りつけた後でおたまの内側に書いてある線まで、つゆだけをすくえばよい》。
《業界最速は道具だけではなし得ない。驚くべきはコンマ数秒を削るために、体のバランスや手の動かし方までもが細かく定められ、クルー(店員)は正確無比な所作が求められている点だ》。例えば、店員の腕を使う作業は、すべて「ヒジから下」で行うのだそうだ。上腕を動かすと、動きにムダが出るのだという。
食べラー・メンマ牛丼並380円、とん汁130円、サラダ100円
人気の新商品が、「食べラー・メンマ牛丼」(並380円)である。HPには《“食べるラー油”と“メンマ”が、とてつもなく牛丼に合うんです。シャキシャキ”メンマ”とザクザク”ラー油”がたまらない自信作》とある。「牛丼並280円+トッピング100円」なので380円という価格設定で、ニンニクと唐辛子がよく利き、特に若い男性に受けそうな味だ。サイドメニューのとん汁130円は、具だくさんで美味しい。サラダ100円も、お買い得だ。しかも「すき家」のお米はコシヒカリである。ここでは食券を買わなくて良いので、追加注文も楽々だ。とにかく回転が速いので、駐車場が満杯でも、少し待っていればすぐに空く。
小川社長の次のターゲットは海外である。日経ビジネスの記事は、次のような言葉で締めくくられている。《世界革命が成功するか否かは、いまだ未知数。日本発の外食企業が世界で大きく成功した例はない。数奇な経歴を持つ異能の経営者から繰り出される特異な経営手法。見え隠れする矛盾を止揚しながら発展し続けることはできるのか。その剛腕が試される次の舞台は世界だ》。
「一に安全、二に品質、三にコスト」を重視する社長の戦略は、海外でも十分通用する。あとは日本の「ご飯もの」「丼もの」が、どれだけ受け入れられるかだ。「beef bowl」(牛丼)がsushiに続くヒット商品となれるか、今後の展開に大いに期待したい。