tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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阪口製材所・阪口浩司社長の「発想の転換」

2011年03月03日 | 林業・割り箸
フジサンケイビジネスアイ(2/10付)の「成長企業」面の1頁(全面)を使い、「奈良発 元気印」として、阪口製材所(奈良県吉野郡吉野町丹治)が紹介された。見出しは《流通よりも住む人の幸せ考える林業》である。デフレの進展、高級材離れという逆風の中で、エンドユーザーの立場に立った家造りを提案する同社の取り組みが詳しく掲載されている。ピックアップして紹介したい。

《銘木の最高ブランドとして隆盛を誇った奈良県の吉野林業が、和室の減少や安価な外国産木材の台頭などで苦境に立たされてきた。逆境の中、阪口製材所は、大胆な発想の転換で製材の売り上げを向上させている》。「吉野林業」というと、「住友林業」のような社名だとカン違いする人がいるが、これは「吉野式の林業」のことである。Wikipedia「吉野林業」には《奈良県中南部の吉野川(紀ノ川)上流(主に川上村、東吉野村、黒滝村)の地域で行われている林業のこと。長年、日本全国の林業の模範とされてきた》とある。

記事に戻る。《年輪幅が狭く強度に優れ、無節(むふし)で美しい高級材の最高峰とされてきた吉野材の価格は、ピーク時の数分の1にまで暴落している》《そんな厳しい状況の中で、建築設計者や大工とのネットワークを築くことで活路を開き、吉野産の無垢(むく)材の売り上げを伸ばしている》《阪口浩司社長(62)は12年前に発想を転換したと振り返る。「いいと思って作った製品が工場から出荷されなくなり、『お客さん間違い』をしていたことに気づきました。本当のお客さんは頭を下げて接待した流通ではなく、エンドユーザーだった。住む人の幸せなんて考えていなかったのです」》。

《1年半たったころ、木を生かした住宅をつくる建築家の目にとまった。住宅1軒を建てるためのあらゆる木材が1カ所で低コストで集められることに感動され、口コミで評判が広がった。こうして、製材メーカーが設計者や工務店と連携して家を建てる昔ながらのシンプルな構図ができあがっていった》《象徴的なのは、これまでは無縁の存在だった施主が、吉野の製材所に足を運ぶようになったことだ。訪れた施主にはまず、「木は自然のものなので、割れたり、曲がったり、腐ったりします」と短所を説明する。不安なことはすべて聞いてもらい、完成住宅の見学会も随時行っている》。

《そんな製材所の考えに共感する設計者、施工者、専門業者が集まり、3年前に「ひととき(人と木)ネット」が生まれた。情報交換しながら、ユーザーのために喜んで汗をかく関係を築いている》《木材は本社がある奈良県吉野町と同県五條市の五條事業所に集められる。年間100軒以上の依頼があり、常に約1年分の木材を準備。あらゆるニーズに対応するため、ケヤキやクリなどの広葉樹もそろえている》。

《本社の敷地内では昨年、奈良県地域木造住宅モデル普及推進事業の一環でつくられた「木の展示館・住まいの体験館 吉野サロン」が完成した。いわば木の家のモデルハウスで、居心地を体感しながら、さまざまな樹種の香りを試したり、大工が手刻みで仕上げた木材のサンプルを見学したりもでき、木の家を考えている施主には大いに参考になる》。

「衰退する吉野林業の活性化には何をすべきか」という記者の質問に対し、阪口浩司社長は「吉野の木はいいといわれてきましたが、吉野林業はそればかりを求めてきた。もっと低級材をつくればいい。吉野ブランドの高級材ばかりを売ろうとするのではなく、例えば低級材100トンを売ることで木の家の現場が増え、高級材10トンが売れるのです」と答えている。

「安全安心で健康に満足して住んでもらう家をつくらなければならない。そのためには設計者、専門業者、製材メーカーが志をともにする汗かき集団、本当の意味でのプロの集団でなくてはならない」「日本は農村、山村が栄える国を目指さないといけない」「山から出てくるものは全部使い切って利用させていただく。木を使うことが山の整備にもつながっていく」とも。

同社のHPには、「阪口製材所の基本理念」が掲載されていて、経営姿勢がよく現れているので、こちらもピックアップする。

1.売れるものを作る
思案した結果、「売れる物を作っていなかった」ことに気づいたのです。建材には値段が高い、寸法・等級・量が合わない、納期がないなど、いろいろな”困った”があります。その”困った”物に対応することが大切だ、と。

2.一棟分まるごと提供できる体制を作る
天然乾燥のメリットは周知の通りと思いますが、不安定な供給に問題がありました。当社は受注後 最短3日で構造材を用意、造作材・床板材も納期通りの出荷ができます。一棟分まるごと提供することで安心をお約束します。

3.一般的に言われる木の短所を説明する
私たち業界人は説明する事が苦手で物作りだけに専念してきたという結果が今日の低迷を招いていると思います。当社では「木は割れます」「木は曲がります。狂います」「木は腐ります」ということをお会いした一番最初に申し上げます。

4.高く仕入れて安く売る
価格以上の値打ちのものをできるだけ安く買って頂けるよう努力します。

5.社会に奉仕する
山を守る方々に感謝する、小さなものも地域で消費するなど、結果、地域全体が活性化するように行動することを心がけます。

6.疑わしきは出荷せず
当社の社訓に「幾千万本に一本の不合格品もあってはならない」があります。

7.65点以上
時代とともに好みも価値観も変化していきます。しかしすべてのお客様に総合点で65点以上の評価を頂けるものを造り、継続することが信頼に繋がると信じています。

8.見に来て頂くのが第一歩
自分の家の木材が、どこの木でそんな木でどんな工場で作られて、どのような乾燥でどんな管理をされた材であるか知る事によって安心感を得られると思います。

こうして社長の言葉を並べてみると、ネットワークを広げながら、真っ当至極なことを、地道にコツコツと築き上げられてきたのだな、という姿が読み取れる。ここへ来てTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を巡る議論がかまびすしいが、木材は早くに自由化され、輸入材に太刀打ちできずに逆境に陥ったという苦い経験を持つ。森林の荒廃により、山地の崩壊や花粉症などの社会問題も引き起こしている。一方で「吉野はブランド力にあぐらをかいて、自助努力が足りない」という批判もある。

そんな中にあって、同社の取り組みは光っている。同社HPに阪口社長は《家づくりに携わるすべての人が、自分の考え方や作っている物、それが果たして人のためになるのか? ということを自問自答し続ける。『その時間の長さと強さ』によって成果が分かれてくる》と書かれている。いわゆる「顧客の目線で考える」ことは、すべての産業に当てはまる大切なことである。これからも「住む人の幸せを考えるものづくり屋」として、ぜひ業界をリードしていただきたい。
コメント (6)
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