tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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観光地奈良の勝ち残り戦略(45)富士宮やきそばに学ぶ

2011年03月13日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
「富士宮やきそば」をご存じだろうか。Wikipedia「富士宮やきそば」によると《「富士宮やきそば学会」の登録商標であり、静岡県富士宮市の焼きそばである》《1999年に富士宮市の地域おこしについて話し合いをしている際に、独自性がある地元の焼きそばに着目したのがきっかけである。御当地人気料理特選に選ばれていて、B級グルメの人気を決めるB-1グランプリにおいては第1回と第2回は第1位、第3回は特別賞となった。地域おこしの成功例として取り上げられることもある》。

《富士宮やきそばは、通常のやきそばとは製法や調理法、使う食品が異なる点があり、次の3つが挙げられる。1. 富士宮やきそば専用の麺を使用する 2. 油かす(富士宮では「肉かす」と呼ぶ)を使用する 3. 仕上げに削り粉をふりかける》。専用の麺は、同市内の製麺会社(マルモ食品、曽我めん、叶屋、木下製麺所)から仕入れる。《富士宮やきそばを売る店はお宮横丁など、富士宮市内に多く存在するが、市外にも富士宮やきそばを提供する店も増えている》。

《具を炒めた後に指定麺(蒸し麺)を入れ、すぐ少量の水を注ぎ、炒める。水分がなくなったところでやきそばソースを入れてかきまぜる。具・トッピングは、肉かす(油かす)、キャベツ などであり、完成後にサバやイワシの削り粉を振り掛けて食べるのが一般的とされる。店や家庭によっては、イカ、ひき肉、桜エビを入れるものも存在する(桜エビは富士宮市に程近い駿河湾の名産でもある)》。


写真は1枚を除き、すべて3/10の橿原JC公開例会で撮影

富士宮やきそばの最大の特徴は「肉かす」(油かす)である。引き油もラードだ。豚の脂と削り節、つまり肉系と魚介系の2つのうま味が、やや硬めの麺を盛り立てるのである。《肉かすが使用されるようになった経緯として、富士宮市内に古くからある店舗、「さの萬」による影響があったと考えられている。「さの萬」の関係者はこう述べている。「当時、やきそば・お好み焼きには天ぷらの天かすが使用されていましたが、天かすが不足していることに佐野萬蔵は着目。天かすの代わりに肉かすを使用すると、さらに美味しくなることを提案。それが世間の評判を呼び、広く使用されることとなり、現在の富士宮やきそばとして定着しました」》。

《富士宮市内では終戦直後から、お好み焼き店や鉄板を備えた駄菓子店が多く開店し、そこでは主に小麦粉(メリケン粉)の生地に刻みキャベツを入れ、ウスターソースで味付けした具無しのお好み焼きのような食べ物を「洋食」と称して安価で提供していた。やきそばもこれらの店で提供された。また当時の富士宮では製糸業が盛んで、信濃絹糸紡績株式会社(現在のシナノケンシ)をはじめ、複数の製糸工場が操業されていた。そこで働いていた女工たちが休日外食をする際には、こうした店が利用された》。

《1990年代後半に青年会議所が開いたワークショップをきっかけに、町おこしでの方向性を考えることとなった。 また独自調査の結果、富士宮市はやきそばの消費量が日本一であったことから、2000年に町おこしとして「富士宮やきそば学会」を立ち上げ、地元で食べられている焼きそばを「富士宮やきそば」として、PRキャンペーンを行った》。


焼いているのは橿原JCのメンバーだが、手つきがいい

《2002年秋には、富士宮やきそばと同様に焼きうどんで町おこしを企画している北九州市の名店と勝負するというイベント「天下分け麺の戦い」が小倉城公園で行われ、この顛末はテレビを通じて全国に放映された。その他にも、同じくやきそばで町おこしをしている横手市と太田市を招いてやきそばの食べ比べを行う「三者麺談」、全国の麺を集めた「やぶさ麺まつり」などを開催し、認知度を上げていった》。

《2004年、「富士宮やきそば」「富士宮やきそば学会」は、NPO法人まちづくりトップランナーふじのみや本舗が商標登録を行った。2006年2月に八戸市で開催されたB級グルメの祭典であるB-1グランプリの第1回イベントでは、初代王者に輝き、次回同大会の開催権を獲得した。そして2007年に開催された第2回B-1で再びグランプリを獲得、二連覇を飾った。これらのことにより、富士宮やきそばはメディアによって多く紹介されるようになった。2007年2月13日には東洋水産からカップ麺として全国発売された。2008年7月現在、東京都内の一部でもこのカップ麺は継続販売されている。その後「B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会」(通称:愛Bリーグ)の本部が富士宮市に置かれ、各地で講演活動を行っている》。

私は、本場の富士宮やきそばをいただいたことがある。かつて難波にあった「浪花麺だらけ」に「ゆぐち」という名店が出店していて、04年の秋に訪ねたのである。その感想をインターネット新聞「JanJan」に投稿した。見出しは「ソース焼きそばの富士山」だ。

ソース大好き人間の多い関西に進出してきた富士宮市の焼きそば屋さん。同市内には、約200軒の焼きそば屋があるそうです。一見、ごく普通のソース焼きそばですが、食べてみるとラードのからんだ麺がパスタのような口当たりで、とても斬新な食感です。豚肉の背脂を揚げたという「肉かす」に花かつお、粉末の干イワシなどが渾然一体となって、にぎやかな現代風の味を醸し出しています。自家製ソースも地元産キャベツもよくマッチしていました。これはソース焼きそばの富士山です》。


ゆぐちの富士宮やきそば。画像はYAHOO!グルメから拝借した

前置きが長くなった。3/10(木)19:00~21:30、橿原ロイヤルホテルで開かれた「地域ブランドがまちを動かす」という講演会に出席した。この講演会の模様を報じた奈良新聞(3/12付)によると《地域活性の手法学ぶ 橿原JCの公開例会で》《B級グルメ仕掛け人・渡辺さん講演》《橿原青年会議所(以下橿原JC、広田幹雄理事長、76人)は10日夜、橿原市内で公開例会を行い、市内外から参加した約170人が、「富士宮やきそば」(静岡県富士宮市)でB級ご当地グルメブームを巻き起こした渡辺英彦・富士宮やきそば学会長(51)から地域活性の手法を学んだ》。

地元では当たり前のやきそばが他所にないことに気付いた渡辺さんらの活動は10年。全国各地のご当地グルメが集まる「B-1グランプリ」は2日間で43万人を集める人気イベントになり、富士宮市内の経済効果だけでも10年間で500億円に達する勢い。渡辺さんは着眼点からイベントづくり、関連商品の開発など地域ブランドの成長とともに町がにぎわいを取り戻していく醍醐味を語り、消費者動向をとらえる大切さやメディアを利用する方法をアドバイスした》。


橿原JC手製の富士宮やきそばも美味しくいただいた、ごちそうさま

さて肝心の講演の中身であるが、うまい具合に渡辺英彦さんへのインタビュー記事が朝日新聞(10.11.5付)に出ていた。テーマは同じなので、こちらを引用しながら、補足する。見出しは《「食で町おこし」秘訣は?富士宮やきそば学会会長に聞く》だ。渡辺さんのプロフィールは《富士宮市生まれ。国際基督教大卒。東京の外資系損保会社勤務後、富士宮市に戻って保険代理店を経営。1997年に富士宮青年会議所理事長、2001年から富士宮やきそば学会会長に。B1グランプリを主催する愛Bリーグ理事長も兼ねる》。

――焼きそばでの町おこしはどんなきっかけですか 富士宮青年会議所の理事長を経験して対外的な付き合いが増えた1999年と2000年に、空洞化が進んでいた富士宮の市街地の活性化基本計画を作るワークショップを青年会議所が開きました。具体的なことは何も見いだせませんでしたが、居残った13人でその後も話し合いをしていく中で、富士宮の路地裏文化の話になりました。「そういえば富士宮には焼きそば屋が多いね」「だし粉をかけて食べるし、麺(めん)も硬くてほかとは違うね」といった話が出て、これを町づくりの素材にできないかと、みんなで調査隊を作って調べることになったのです》。ワークショップに参加したのは60人。その後も居残ったのが13人ということなのだ。

――やきそば学会というのは 市民の有志が焼きそばで町おこしをしようとしているとマスコミに情報を流したところ、活動する前に取材が来てしまい、何か格好をつけようと思って「やきそば学会というのがあって、やきそばG麺という調査部隊が市内の焼きそば店のマップを作ろうとしています」といってしまった。このホラを吹いてしまった日が00年11月29日で、この日が学会設立日。今年で10年になります。言い出した自分が会長となり、これで動かざるを得なくなってしまいましたが、マップが01年4月にできると、取材・報道が続いてどんどん膨れあがっていった。その年のゴールデンウイークには富士宮に多くの人が訪れ、富士宮やきそばブームが起きました。ずっとその延長線上で、色々な企画をしてきました》。

「学会」というネーミングは創価学会からの連想だという。そういえば富士宮市には、日蓮正宗の総本山・大石寺(たいせきじ)がある。00年以前には「富士宮やきそば」を目的に富士宮に来る人は0人だったが、現在は年間60万人が「富士宮やきそば」を目的に来ており、経済効果は10年間で約500億円に上る。富士宮の場合、そうした成果を上げるのに、ほとんどおカネがかかっていないことが、全国的にも珍しい。誰も思いつかないようなことをやると、それが「世界初」ということになる。


渡辺英彦さん。真面目なお顔からダジャレが頻発

――具体的には 私たちは業界団体ではなく、市民団体。地域の素材で町おこしをする応援団です。ものは作っていない。だから、いかに情報を伝えるか。マスコミに取材・報道してもらうことの繰り返しです。そのネタ作りをしているんです。食での町おこしも、うまいものありきではなく、うまい話ありきです。もちろんうまいものがあるのが大前提ですが、おいしいものさえ作ればいいと思っているのは、勘違いです。注目されなければ、自己満足に終わってしまいます。地元では当たり前のものでも外の人は知らないので、いかに知ってもらい、買ったり食べたりしてもらえるようにするのかが大切です。元々地域にある素材を食文化として認識できるようにする。それには情報戦略が必要です》。

ジョージ・バークリー曰く「存在することは知覚されることである」。渡辺氏曰く「認知されていないのは無いのと同じ」「“来て食べてみれば分かる”(食べなければ分からない)はダメ」。ご当地ものやご当地グルメは、大企業のようなPRを打てないから、地域に埋もれている。B-1グランプリの正式名称は「B級ご当地グルメの祭典」。肝心なのは「ご当地グルメ」というところであり、別にA級であろうがB級であろうが、関係ない。地域に「食文化として根付いている」ということが大切である。単なる焼きそばに、渡辺氏たちは「地域ブランド」という付加価値(感性価値=感性に訴える「+α」)をつけ、地域のボランティアが盛んにPRした。それが経済効果を生んだ。

――それがG麺などのオヤジギャグにもつながる? メディアはオヤジギャグであふれている。これがすぐれているほど、情報発信力が高まるので、言葉にはこだわっています。市民団体でお金がないので、宣伝用のコピー(キャッチフレーズ)も自分たちでやらざるを得ません》。

ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル―面白くて役に立つまちづくりの聖書 (静新新書)
渡辺英彦著
静岡新聞社

「富士宮やきそば学会」は、市民の勝手連。行政からのおカネは入っていない。つまり行政予算はゼロである。しかし行政とは仲良く連携してやっている。1食売れるたびに市に10円入る「ふるさと納税宣言カップやきそば」もある(市長が盛んにPRしてくれる)。行政予算や補助金をもらっていないので、「相談しなくていい」という状況が生まれる(組織化して協議するというやり方は、とても大変)。広告宣伝はおカネがかかるが、広報して報道してもらうのはタダ。そのために意識してダジャレ(おやじギャグ)を連発している。お笑い芸人と同じで、ウケなければダメ。同じことをやっていても、どう表現し、発信していくかが大切。

「やきそばによる地域おこしのすべてが分かる」という渡辺氏の著書のタイトルは『ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル』、富士宮・横手・太田の焼きそば食べ比べは「三者麺談」、その協定書は「三国同麺」、小倉やきうどんとの対決は「天下分け麺の戦い」。バスツアーは「ヤキソバスツアー」、食事券は「麺財符」、登録店は「麺税店」、焼きそばに合う日本酒は「だいびんじょう」(大便乗)、アンテナショップ(お宮横丁内)は「お~それ宮!」etc…。

――今後の課題は まずはやきそばを切り口に富士宮の認知度を上げ、それを活用してニジマスや豚など、ほかの食材の情報発信もしようと、「富士宮にじます学会」や「富士宮最先豚学会」なども作った。地域の自慢になり、おみやげにする人も増えてきたが、まだその効果が特定の人たちに偏っています。地域に還元されるように、みんなで知恵を出していきたい。やきそばの町おこしも、やきそばを売るのではなく富士宮を売っていくのが目的なんです》。

ニジマスを売るのは「鱒コットガール」、お店は「鱒益分岐店」、ニジマスを挟んだハンバーガーは「鱒バーガー」(「鱒ドナルド」も考えたが、クレームが付きそうなので止めた)、缶詰は「鱒財缶(そんざいかん)」、と、こちらも「寒い」ダジャレが炸裂している。

渡辺さんの話から、わが奈良県を振り返ってみよう。いくつかキーワード・キーフレーズがある。それを本文中に朱書きで示しておいたので、記載順に並べてみる。



1.女工たちが休日外食をする際には、こうした店が利用された
例えばかつて大和高田市には、ユニチカ高田工場という大規模な工場があり、町は「商都 高田」として栄えた。女工さんたちは、地元で何か名物を食べていたのではないか。それは、今から掘り起こせないものだろうか。そういう例は他所にもないか(観光名所の名物料理、祭りや伝統行事に出る食べ物、県下各地には鉱山があったがその周辺など)。

2.やきそばの食べ比べ
名物の食べ比べは面白いアイデアだ。「お雑煮」「お餅」「お粥」などは、お正月イベントにできそうである。奈良の「黒米カレー選手権」にしても、グランプリに選ばれたカレーと、氷見市(富山県)の氷見カレー、郡上市(岐阜県)の奥美濃カレー、鹿屋市(鹿児島県)の海軍カレーなどと対決させるのはどうか。平城宮跡を舞台に、すべて黒米カレーに仕立てて「C-1グランプリ(全日本黒米カレー選手権)」とか「献上黒米カレー節会(せちえ)」など。毎年春の遷都祭に組み込むのも良い。

3.富士宮市はやきそばの消費量が日本一であった
県下には「日本一」「日本初」が目白押しである。これを利用しない手はない(清酒、饅頭、そうめん、豆腐。食べ物以外だと、靴下、パンスト、野球のグローブ・ミット、パワースポットの数など)。

4.地元では当たり前のやきそばが他所にないことに気付いた
こういうものが奈良には多い。だからヨソ者の意見が大切なのだが。「奈良ならではの逸品」を掘り起こそう。

5.認知されていないのは無いのと同じ
私も、いつも言っていること。県民の「広報下手」を何とかしなければ。

6.うまいものありきではなく、うまい話ありき
面白いストーリーに組み立てることが大切。ダジャレやこじつけも必要。

7.宣伝用のコピー(キャッチフレーズ)も自分たちでやらざるを得ません
キャッチコピーにダジャレを使うというのは、とても面白い。工夫次第で、何にでも応用できる。

8.やきそばを売るのではなく富士宮を売っていくのが目的
間違えてはいけない。名物を売るのではなく、地元を売るのだ。この精神が基本である。

最後に、この講演会に参加できなかった人のために。渡辺氏の主張は、すべて上記『ヤ・キ・ソ・バ・イ・ブ・ル』に書かれているとのことである。また渡辺氏が地元で行った「富士宮まちづくり講演会」の講演録の全文(PDFで9頁)や、浜松での講演会の要約が、ネットで取れるので、ご参考に。

コメント (3)
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