奈良は清酒の発祥地。室町時代、奈良市菩提山町の正暦寺(しょうりゃくじ)で初めて作られた酒が、清酒のルーツとされる。日本酒党の私は、もっぱら奈良県下の蔵元で醸されたお酒をいただいている。特に最近ハマッているのが、美吉野醸造株式会社(吉野郡吉野町六田)の「花巴(はなともえ)酵母無添加 水酛(みずもと)純米無濾過生原酒 直汲にごり」である。ほんのりとした甘酸っぱさがたまらない。
「水酛」(菩提酛)とは聞きなれない言葉だが、酵母を人工的に添加せず、自然に酵母を湧かせる伝統的な酒造法で、正暦寺で行われたのがこの方法である。美吉野醸造の紹介文によると
花巴 酵母無添加 水酛 純米無濾過生原酒 直汲にごり
掛井酒店(東広島市)のホームページから拝借
水もと(菩提もと)は、奈良の寺院にて室町時代に創醸された醸造方法で、生米を水に浸して乳酸醗酵を促すことで酸度を高め、安全に醸造するという全国的にも珍しい製法です。この醸造法が生み出されたのが実はお寺なんです。お寺というと一般的にはお酒とは無縁のイメージがありますが、実際に当時の寺院は学者が集まる場所であり、最先端の技術が結集しており、荘園などの余剰米を用いて鎮守や仏へ献上するお酒を造る技術を持っていたといわれております。
以下の写真は、2/9(土)の酒蔵見学で撮影
また、この仕込みは彼岸の暖かい時期でも可能で現代の寒仕込を基本とした酒造りとは異質の醗酵過程を持っておりますが、メカニズムは現代主流の酒造りのルーツとされ、酸を出すことで雑菌汚染を防止する技術を当時から駆使して酒造りが行われていたことは、酸の質を追求する花巴にとっては非常に興味深い仕込み方です。
私にとって常識にとらわれた酒造りから脱皮できる、よい機会となった製法です。東京農業大学では、酵母主流の酒造りを学ぶなか卒論で取り組んだのがこの「菩提もと」です。当時は低アルコールブームで、「菩提もとの純米酒で低アルコール性酒を出来ないか?」と研究しておりましたが、実際には残念ながら原酒が一番評価が高く、割り水をするほどに評価が低くなる結果となりました…。そのため今でも、花巴の水もとは原酒で出荷しております!
説明して下さる橋本専務兼杜氏
向かって左はももたろうの杉本社長
すなわち、極端な製法のようですが、酸を出すということは共通しており、その酸をいかに引き出し、良い酵母(蔵の考え方によって違うと思いますが)を育てるかが杜氏の腕であるという、広い視野で酒造りを見ることができました。
橋本さんは、製造途中の醪(もろみ)を汲んでくれた
水もと造りは主に二段階に分けられ、一段階目(初度という)に、生米に蒸した米を少々加え、水につけておくと米が腐り(発酵し)酸味が出てきます。この時の臭いは鼻が曲るような臭いですが、しっかりと腐らせて酸を引き出す工程です。二段階目(二度という)では、その腐らせた(乳酸醗酵をさせた)水を仕込水として、生米を取り出し蒸した後に混ぜ合わせます。生米はすっかりヨーグルトご飯のような香りになっており、蔵全体に酸っぱさが立ち込め、仕込にはかなりの勇気が必要です。このようにして出来上がる酒母の原酒です。個性的ですが飲みやすい酒質だと思います。
いよいよお待ちかねの試飲会が始まった
確かに類例のない、個性的で旨味たっぷりのお酒である。今年(2013年)の2月には、有限会社ももたろうの杉本憲司社長のご案内で、美吉野醸造さんにお邪魔した。「地域SNSけいはんな」という、ネットでつながった高の原周辺住民有志の会のオフ会である。美吉野醸造では、専務で杜氏の橋本晃明さんにご案内いただき、蔵の中では仕込み中の醪(もろみ)も飲ませていただいた。あまりに美味しかったので、あとでこんな歌をひねってSNSに投稿した。
蔵人(くらびと)の樽より汲める酒醪(さけもろみ)胃の腑に爆(は)ぜて止(や)むることなし。
オフ会の様子は、幹事のFUTANさんがSNSで紹介された。《昨日は、銘酒花巴で有名な吉野の美吉野醸造で、tetsudaさんにご案内いただくという、超デリシャスなオフ会でした》《近鉄車内でtetsudaさんによる日本酒の講義…資料付き。近鉄六田駅で降り、10分ほど吉野川沿いを歩き、柳の渡しのあたりで、対岸に「納税はすべて世の為人の為」と壁に書いた酒蔵が見えてくる》《なあんと蔵の中で「醪(もろみ)」のテイスティング。しぼりたての前。これは生まれて初めてであった》。
花巴は、雑誌「dancyu」2013年3月号の「注目の若手蔵10」(これからの日本酒を予測する)にも選ばれた! 奈良県下では唯一という快挙である。全国的な営業展開は昨年スタートされたばかりだそうだが、この味なら東京などの大消費地でも歓迎されるだろう。
これからの日本酒づくりで重視されるのは「酸味」だといわれる。ワインなどで上質の酸味を知った舌には、ほんのりとした酸味が良いアクセントとして感じられるのである。奈良の伝統的な菩提酛(水酛)づくりでは、この上質の酸味が得られる。花巴は、有楽町の外国人記者クラブなどでPRすれば、海外でも話題を呼びそうだ。ぜひお手伝いしたいものである。
橋本さん、「dancyu」ご掲載おめでとうございます!これからも、良いお酒を造り続けてください。読者の皆さん、ぜひ花巴にご注目を!
上記2点の写真は、橋本晃明さんのFacebookから拝借
「水酛」(菩提酛)とは聞きなれない言葉だが、酵母を人工的に添加せず、自然に酵母を湧かせる伝統的な酒造法で、正暦寺で行われたのがこの方法である。美吉野醸造の紹介文によると
花巴 酵母無添加 水酛 純米無濾過生原酒 直汲にごり
掛井酒店(東広島市)のホームページから拝借
水もと(菩提もと)は、奈良の寺院にて室町時代に創醸された醸造方法で、生米を水に浸して乳酸醗酵を促すことで酸度を高め、安全に醸造するという全国的にも珍しい製法です。この醸造法が生み出されたのが実はお寺なんです。お寺というと一般的にはお酒とは無縁のイメージがありますが、実際に当時の寺院は学者が集まる場所であり、最先端の技術が結集しており、荘園などの余剰米を用いて鎮守や仏へ献上するお酒を造る技術を持っていたといわれております。
以下の写真は、2/9(土)の酒蔵見学で撮影
また、この仕込みは彼岸の暖かい時期でも可能で現代の寒仕込を基本とした酒造りとは異質の醗酵過程を持っておりますが、メカニズムは現代主流の酒造りのルーツとされ、酸を出すことで雑菌汚染を防止する技術を当時から駆使して酒造りが行われていたことは、酸の質を追求する花巴にとっては非常に興味深い仕込み方です。
私にとって常識にとらわれた酒造りから脱皮できる、よい機会となった製法です。東京農業大学では、酵母主流の酒造りを学ぶなか卒論で取り組んだのがこの「菩提もと」です。当時は低アルコールブームで、「菩提もとの純米酒で低アルコール性酒を出来ないか?」と研究しておりましたが、実際には残念ながら原酒が一番評価が高く、割り水をするほどに評価が低くなる結果となりました…。そのため今でも、花巴の水もとは原酒で出荷しております!
説明して下さる橋本専務兼杜氏
向かって左はももたろうの杉本社長
すなわち、極端な製法のようですが、酸を出すということは共通しており、その酸をいかに引き出し、良い酵母(蔵の考え方によって違うと思いますが)を育てるかが杜氏の腕であるという、広い視野で酒造りを見ることができました。
橋本さんは、製造途中の醪(もろみ)を汲んでくれた
水もと造りは主に二段階に分けられ、一段階目(初度という)に、生米に蒸した米を少々加え、水につけておくと米が腐り(発酵し)酸味が出てきます。この時の臭いは鼻が曲るような臭いですが、しっかりと腐らせて酸を引き出す工程です。二段階目(二度という)では、その腐らせた(乳酸醗酵をさせた)水を仕込水として、生米を取り出し蒸した後に混ぜ合わせます。生米はすっかりヨーグルトご飯のような香りになっており、蔵全体に酸っぱさが立ち込め、仕込にはかなりの勇気が必要です。このようにして出来上がる酒母の原酒です。個性的ですが飲みやすい酒質だと思います。
いよいよお待ちかねの試飲会が始まった
確かに類例のない、個性的で旨味たっぷりのお酒である。今年(2013年)の2月には、有限会社ももたろうの杉本憲司社長のご案内で、美吉野醸造さんにお邪魔した。「地域SNSけいはんな」という、ネットでつながった高の原周辺住民有志の会のオフ会である。美吉野醸造では、専務で杜氏の橋本晃明さんにご案内いただき、蔵の中では仕込み中の醪(もろみ)も飲ませていただいた。あまりに美味しかったので、あとでこんな歌をひねってSNSに投稿した。
蔵人(くらびと)の樽より汲める酒醪(さけもろみ)胃の腑に爆(は)ぜて止(や)むることなし。
オフ会の様子は、幹事のFUTANさんがSNSで紹介された。《昨日は、銘酒花巴で有名な吉野の美吉野醸造で、tetsudaさんにご案内いただくという、超デリシャスなオフ会でした》《近鉄車内でtetsudaさんによる日本酒の講義…資料付き。近鉄六田駅で降り、10分ほど吉野川沿いを歩き、柳の渡しのあたりで、対岸に「納税はすべて世の為人の為」と壁に書いた酒蔵が見えてくる》《なあんと蔵の中で「醪(もろみ)」のテイスティング。しぼりたての前。これは生まれて初めてであった》。
dancyu (ダンチュウ) 2013年 03月号 [雑誌] | |
特集「注目の若手蔵10」 | |
プレジデント社 |
花巴は、雑誌「dancyu」2013年3月号の「注目の若手蔵10」(これからの日本酒を予測する)にも選ばれた! 奈良県下では唯一という快挙である。全国的な営業展開は昨年スタートされたばかりだそうだが、この味なら東京などの大消費地でも歓迎されるだろう。
これからの日本酒づくりで重視されるのは「酸味」だといわれる。ワインなどで上質の酸味を知った舌には、ほんのりとした酸味が良いアクセントとして感じられるのである。奈良の伝統的な菩提酛(水酛)づくりでは、この上質の酸味が得られる。花巴は、有楽町の外国人記者クラブなどでPRすれば、海外でも話題を呼びそうだ。ぜひお手伝いしたいものである。
橋本さん、「dancyu」ご掲載おめでとうございます!これからも、良いお酒を造り続けてください。読者の皆さん、ぜひ花巴にご注目を!