tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

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デービッド・アトキンソン氏の講演録 観光地奈良の勝ち残り戦略(101)

2015年09月26日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
 新・観光立国論
 デービッド・アトキンソン
 東洋経済新報社

これまで「目からウロコ! 新・観光立国論」および「奈良県観光への提言!」の2本の記事で、デービッド・アトキンソン著『新・観光立国論』の内容を紹介してきた。まさに意表をつく提言だった。シルバーウィーク中の産経抄(産経新聞 9/23付)にも、こんな一節があった。

経済効果の観点から、GW同様に秋の大型連休の定着を望む声も上がるかも知れない。もっとも、元経済アナリストで、日本の伝統美術の修復を請け負う会社の社長でもある、イギリス人のデービッド・アトキンソンさんは、GWを含めた大型連休の廃止を提言している。

短期間に大量の観光客をさばいて、年間の売上げの多くを稼ぎ出す。こうした供給側の都合ばかりを優先する制度が、観光産業の隆盛への道を阻んできたというのだ(『新・観光立国論』東洋経済新報社)


そんなアトキンソン氏が9/13(日)、奈良市で講演されたということを奈良の情報ブログ「鹿鳴人のつぶやき」で知った。詳細が「奈良市観光協会 デジタルかわら版 (VOL.77)」に出ているという。以下、デジタルかわら版から転載する。


写真は荒井知事とアトキンソン氏(9/13の講演会)。2枚とも県のHPから拝借

デービッド・アトキンソン氏
9月13日、デービッド・アトキンソンさんの講演を聞いてきました。奈良県大芸術祭の文化セミナーのひとつとして計画されたもので、アトキンソン氏の著書である「新・観光立国論」も読ませていただき楽しみに行ってきました。以下に彼のお話の中で気になったところ、共感したところなどをご紹介します。

1.日本がこれからの国の発展を成し遂げてゆくには「観光」を産業として育成するしか方策はない。
日本のGDPを維持するには、人口を増やすか、観光の誘致により一時的な海外からの顧客を呼び寄せるしか方法はない。GDPは労働力の大きさ(人口)に依存しており、日本が人口を増やす施策は、出生数を増やすことか移民による労働力を受け入れることしかない。出生数の増は40年前に手を打つべきことで、すでに手遅れ。また、移民の受け入れは治安の問題など複雑な問題がありお勧めできない。残るは「観光による外客の誘致」のみ。

2.観光大国になりえる国の条件とは
◆気候……日本は亜熱帯の沖縄から冷涼な気候の北海道まで多様性に満ちている。
◆自然……日本の1平方キロメートルあたりの自然の多様性は世界一。イノシシとクマとサルを同時に見ることができる国は日本くらいのもの。
◆歴史文化……まったく問題ない
◆食……和食が世界遺産に認定される。日本には世界中の食を楽しめるインフラがあるので問題なし。
4条件を満たす国は世界中を見渡しても10か国程度。日本は非常に高い潜在能力を持っている(が活かしきれていない)。

3.日本の誘致活動の陥っている誤りについて
多くの日本の地域や団体は「日本の良さを知ってほしい」「○○の良さを知ってほしい」という誘致活動を行っている。顧客は日本を楽しむためにやってくる。楽しみたいポイントは顧客によって違うため、情報発信側の都合で「知ってほしいもの、体験してほしいもの」を限定してしまうことは相手の立場で考えていないことにならないだろうか。つまり押し付けになっていると考える。

4.また、「おもてなし」「治安の良さ」があたかも海外の顧客にとって大きな誘因になるような錯覚があるが、おもてなしや治安では顧客は呼べない。日本の皆さんだって旅行先を決める優先事項が治安やおもてなしではないと思う。

5.ホームページ等の多言語化がいろいろな場面で進められているが、14か国のHPを造るのであれば、英語だけでいいので14倍の情報を載せるということも考えても良い。例えば、京都の二条城は明治維新に関わる重要な施設であるにもかかわらず、その重要性が全く解説されていない。施設の管理は文化財の保護という視点が強すぎて、観光の視点での取り組みができていない。海外からやってきた顧客には、二条城が歴史上どんな意味があるのか理解できないまま、二条城を後にすることになる。結果として、「古い空っぽの日本建築を見てきた」という口コミにもつながりかねない。

6.今までの日本の観光は「顧客を捌く」という視点で取り組まれていた。
日本人の多くは盆暮れ・ゴールデンウィークなど旅行の時期が集中しており、こういったやり方が中心だと思う。これからの考え方としては「顧客にお金を落とさせる」という視点で考えるべき。日本でひとりあたり23万円を消費する中国の顧客は、アメリカでは66万円消費している。

アメリカは観光を産業としてとらえ、顧客にお金を落とさせる仕組みがしっかり出来上がっている。一例を挙げれば「奈良に一週間顧客を滞在させるためには何をすべきか?」といったことを考えるべきだろう。また、宿泊の場面では、顧客の一日は24時間。睡眠に8時間、食事に3時間、昼間の行動に8時間、残り5時間のアイドルタイムを日本の事業者は見落としている。ビジネスチャンスを逃していると考えている。

アトキンソンさんの話を聞いて、著書に書かれたお考えを直接の言葉を聞くことでより深く理解できたように思います。日本全体のことが中心で、戦略論の講演ではありましたが、戦略の共有から戦術への落とし込みを行ってゆくことは十分できることだと感じています。新しい刺激をいただき、貴重なお話をお伺いすることができました。実務に生かす
ことが私の役割だと思っています。(鷲見)




この日は講演のあと、荒井知事とのトークセッション「世界に通じる奈良の文化」があった。「鹿鳴人のつぶやき」から抜粋させていただく。

デービッド・アトキンソンさんは羽織袴姿で、ほとんど横文字を使わないでなめらかな正確な日本語でお話しになりました。

知事:奈良の売りは何か?
アトキンソンさん:本質が大切、楽して儲けたいというのはいけない。奈良の良さはわかりやすい。

知事:リピーターが大切。たとえば東京の下町の澤の屋さん。奈良にもかつて日吉館があった。サービスが大切。
アトキンソンさん:伏見稲荷を一から見直して神職さんと魅力づくりをした。リピーターがほんとに大切だ。

知事:スイスも100年前までイタリアに比べて歴史遺産もなかったが、山、雪、スキーを磨き上げて有数の観光地になった。
アトキンソンさん:北海道のニセコもたいへん人気がある。奈良も十分そうなる可能性がある。人は楽しいから行くのであって、楽しくないところには行かない。日本は禁止事項が多すぎる。むしろ増えている。イギリス貴族はひそかにやぶる。
知事:同じことを言っても、アトキンソンさんがいうと皆さん聞いてくれますね。(笑い)


荒井知事はよく「澤の屋」を例に引かれるが、奈良にも「旅館松前」という外国人客が8割という素晴らしい旅館があるので、早く気づいていただきたいものだ(どなたか側近がアドバイスしていただけないものか)。また日はさかのぼるが、7/27(月)、同氏の講演に参加された星乃勝さんがご自身のブログ「関西観光応援団」に紹介されていた。

1つ目は、歴史・文化を目的とする観光客の話です。イギリスは歴史・文化で観光客が来るのが80%(イタリアは100%)、日本は23%にすぎない。観光客が求める歴史・文化の説明は、年代や作者、歴史背景など詳しい説明ではなく、何故、伏見稲荷は朱色で飾るのか、何を祀っているのか、なぜ狐を祀るのか、などだといいます。観光客が求めている説明と、知ってもらいたいという提供者側の思いによる説明のミスマッチ。顧客が求めているものを提供できていないものが日本に多いとの指摘でした(私の質問に対する要約した回答)

姫路城がトリップアドバイザーで激しいバッシングを受けているとの紹介もありました。改修前は、姫路城の中に入れば、多くの展示物があったが回収後は、建築物としての姫路城を見てもらうことに力を入れており、場内には展示物がほとんどないとのことです。

二条城の例も話されました。観光客は建物の中に入れず、レプリカの襖絵を見、建物の中には何もない二条城を見物する。アトキンソンさんは、幕末から明治に日本が大きな方向転換するときに会見された場としての説明をするべきとの指摘でした。何を見せて、何を説明するかは、観光客の多様性からいうと一つに限定する方が危険でしょうが求めているものと、説明側のミスマッチは見直す必要があると感じました。

2つ目は、IR(統合リゾート)に関する話です。大阪でIRを推進しようとしている。大阪もIRより文化の振興に力を注ぐべきではないかとの質問に観光客は多様だ。
・文化財で集客できるのは、2000万人までだろう
・歴史で集客できるのは、数百万人までだろう
・食で集客できるのは、1000万人までだろう
歴史文化を好む人もいれば、好まない人もいる。コンベンションに来日して、IRを楽しみながら、歴史文化に触れてみたいと思う人もいる。人は多様なので、多様なニーズに応えるのが産業としてみたときの観光の要諦。IRも吸引力の大きな観光インフラになる。との回答がありました。


いかがだろう。アトキンソンさんの思いがビンビンと伝わって来ないだろうか?未読の方には、ぜひ『新・観光立国論』を読まれることをお薦めします!

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2 コメント

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ありがとうございました (鹿鳴人)
2015-09-26 22:17:10
tetsudaさん。ご紹介ありがとうございました。さらにアトキンソンさんのお話がわかるように思いますし、新・観光立国論を皆さんに読んでいただく良いまとめだと思います。
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おかげさまで… (tetsuda)
2015-09-27 05:38:41
鹿鳴人さん、情報、有難うございました。

> さらにアトキンソンさんのお話がわかるように思いますし、
> 新・観光立国論を皆さんに読んでいただく良いまとめだと思います。

恐縮です、貴ブログのおかげです。今後とも、愛読させていただきます!
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