火曜日(2023.2.14)、近鉄大和八木駅前の「近鉄百貨店橿原店」6階にオープンした「MARUZEN Café(丸善カフェ)」を訪ねた。詳しい紹介が毎日新聞奈良版(2/15付)「見聞録」欄に出ていたので、末尾に全文を貼っておいた。
※トップ写真は、早矢仕(ハヤシ)ライス(税込み970円)。牛肉入り(同1,150円)もある
私の目当ては「早矢仕(ハヤシ)ライス」970円(税込み)と、「檸檬ケーキ」770円(同)だった。ハヤシライスは、丸善創業者の早矢仕有的(はやしゆうてき)が生み出したという説がある。『たべもの起源事典 日本編』(ちくま学芸文庫)「ハヤシライス」によると、
MARUZEN Café。向かって右奥で注文する
〈ハヤシライスとは、ハッシュドビーフ・ウィズ・ライスの転訛したもの。(中略)ハヤシライスには、はやしさんが作った料理という説がある。1869年(明治2)に創業の丸善の早矢仕有的は、文明開化の礼讃者であり、かなりの食通であった。牛肉が大好物で、横浜の開化亭や、東京の三河屋は行きつけの店であった。友人が訪問すると、ありあわせの肉と野菜のゴッタ煮に、トマトケチャップで味を付け、飯を添えて出すのが常であった。この料理が、はやしさんのライスと評判になる〉。
「ハッシュドビーフ」が転訛して「ハヤシ」というのは、どうもムリがある。「ハ」が同じだけなのだ。私は「早矢仕」説を採りたい。そこで早矢仕ライスを食べてみると、甘味と酸味が強く、どうも私のハヤシライスのイメージとは違う。やはりマイルドでこってり味のハウス食品「咖喱屋ハヤシ」(レトルトハヤシ売り上げ 第1位)の方が口に合う。なお大阪難波「自由軒」の「ハイシライス」750円(税込み)は、ケチャップ味だった。
一方の檸檬ケーキは、レモン1/2個を丸ごと使ったケーキ(クレームシブースト)で、レモンの香りと爽やかな酸味がいい。こちらはもちろん、梶井基次郎の代表作「檸檬」から名づけられている。該当部分を末尾に引用しておいた。
下半分はくり抜いたレモンだった!
6階の広々としたスペースに書店(丸善ジュンク堂)とカフェ、フリースペース(やぎもくひろば)が同居する。「近くにあれば、毎日通いたいな」と思わせるおしゃれな空間である。皆さん、ぜひ足をお運びください!
梶井基次郎著「檸檬」(後半部分の抜粋)
私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」 私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。
見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。私は埃っぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。
――それをそのままにしておいて私は、なに喰くわぬ顔をして外へ出る。―― 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。
丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」 そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩いろどっている京極を下って行った。
やぎもくひろば
毎日新聞奈良版「見聞録」(2023.2.15付)
近鉄百貨店橿原店(橿原市) 休憩広場やブック&カフェ 「地域の居場所」目指す
近鉄大和八木駅前の近鉄百貨店橿原店(橿原市北八木町3)が大幅に模様替えしつつある。2021年度から同社が郊外型店舗で進めている「タウンセンター」化計画の一環で、敷居の高い印象が強い百貨店から、誰もが使いやすい地域の居場所作りにかじを切ったという。6階書店前の売り場を休憩広場に改装し、2月からは購入前の書店の本を持ち込める直営喫茶店も開店。橿原店が初任地だったという同社の堺至暢・企画開発部長は「他店と比べて橿原店は特に地域密着の色合いが強い。原点回帰の思いです」と話している。【稲生陽】
食後も思わず雑誌を読みふけってしまった。2月に6階に開店した「マルゼンカフェ」(50席)。百貨店がワゴンセールなどに使っていた6階センターコートを広場に改装し、広場に面する書店を経営する丸善ジュンク堂書店(東京)と協力してカフェを開店させた。購入前の本を持ち込んで読める「ブック&カフェ」形式が売りで、丸善創業者の早矢仕有的(はやしゆうてき)が生み出したとされるハヤシライスが名物。強い甘さと酸味が独特で、ついスプーンを口に運ぶ速さが上がる。
近鉄百貨店橿原店は1986年4月に開店。大和八木駅前の立地から、かつては映画館や貸しホール、従業員が取材した映像を店内のモニターで放映する店内放送局などがそろう地域の交流拠点になっていたという。だが、売り上げ重視への方針転換から映画館などは売り場に変更。2004年に同市郊外にイオンモール橿原(当時はダイヤモンドシティ・アルル)が出店すると、売り場自体も苦戦を強いられるようになってきたという。客の平均年齢層も60歳前後と、他地域の店と比べて5歳ほど高いのも課題になっている。
今回あえて売り場を縮小し、吉野産木材のベンチなどを並べた「やぎもくひろば」を設置。逆に書店は漫画や学習参考書、育児用のおもちゃなど若者向けの売り場を中心に売り場を3倍に広げ、30~40代の取り込みを狙う。3月には生活雑貨大手・ハンズ(東京)のプロデュースで、地場産業やものづくりの技術をスタイリッシュにPRする県内初の「プラグスマーケット」も1階に開店させるなど、駅前の好立地を生かして人を呼び込みたい考えだ。堺部長は「敷居の低さを重視し、百貨店では珍しい100円均一店なども誘致してきた。買い物だけでなく、出かける時間を楽しんでもらえる場所を目指したい」と話している。
近鉄百貨店橿原店
橿原市北八木町3の65の11。マルゼンカフェ(午前10時~午後6時)のメニューは早矢仕(ハヤシ)ライス(970円)、コーヒー(420円)、丸善を舞台にした梶井基次郎の代表作「檸檬(れもん)」にちなんだ檸檬ケーキ(770円)など。
※トップ写真は、早矢仕(ハヤシ)ライス(税込み970円)。牛肉入り(同1,150円)もある
私の目当ては「早矢仕(ハヤシ)ライス」970円(税込み)と、「檸檬ケーキ」770円(同)だった。ハヤシライスは、丸善創業者の早矢仕有的(はやしゆうてき)が生み出したという説がある。『たべもの起源事典 日本編』(ちくま学芸文庫)「ハヤシライス」によると、
MARUZEN Café。向かって右奥で注文する
〈ハヤシライスとは、ハッシュドビーフ・ウィズ・ライスの転訛したもの。(中略)ハヤシライスには、はやしさんが作った料理という説がある。1869年(明治2)に創業の丸善の早矢仕有的は、文明開化の礼讃者であり、かなりの食通であった。牛肉が大好物で、横浜の開化亭や、東京の三河屋は行きつけの店であった。友人が訪問すると、ありあわせの肉と野菜のゴッタ煮に、トマトケチャップで味を付け、飯を添えて出すのが常であった。この料理が、はやしさんのライスと評判になる〉。
「ハッシュドビーフ」が転訛して「ハヤシ」というのは、どうもムリがある。「ハ」が同じだけなのだ。私は「早矢仕」説を採りたい。そこで早矢仕ライスを食べてみると、甘味と酸味が強く、どうも私のハヤシライスのイメージとは違う。やはりマイルドでこってり味のハウス食品「咖喱屋ハヤシ」(レトルトハヤシ売り上げ 第1位)の方が口に合う。なお大阪難波「自由軒」の「ハイシライス」750円(税込み)は、ケチャップ味だった。
一方の檸檬ケーキは、レモン1/2個を丸ごと使ったケーキ(クレームシブースト)で、レモンの香りと爽やかな酸味がいい。こちらはもちろん、梶井基次郎の代表作「檸檬」から名づけられている。該当部分を末尾に引用しておいた。
下半分はくり抜いたレモンだった!
6階の広々としたスペースに書店(丸善ジュンク堂)とカフェ、フリースペース(やぎもくひろば)が同居する。「近くにあれば、毎日通いたいな」と思わせるおしゃれな空間である。皆さん、ぜひ足をお運びください!
梶井基次郎著「檸檬」(後半部分の抜粋)
私は袂の中の檸檬を憶い出した。本の色彩をゴチャゴチャに積みあげて、一度この檸檬で試してみたら。「そうだ」 私にまた先ほどの軽やかな昂奮が帰って来た。私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。
見わたすと、その檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。私は埃っぽい丸善の中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。
――それをそのままにしておいて私は、なに喰くわぬ顔をして外へ出る。―― 私は変にくすぐったい気持がした。「出て行こうかなあ。そうだ出て行こう」そして私はすたすた出て行った。変にくすぐったい気持が街の上の私を微笑ませた。
丸善の棚へ黄金色に輝く恐ろしい爆弾を仕掛けて来た奇怪な悪漢が私で、もう十分後にはあの丸善が美術の棚を中心として大爆発をするのだったらどんなにおもしろいだろう。私はこの想像を熱心に追求した。「そうしたらあの気詰まりな丸善も粉葉みじんだろう」 そして私は活動写真の看板画が奇体な趣きで街を彩いろどっている京極を下って行った。
やぎもくひろば
毎日新聞奈良版「見聞録」(2023.2.15付)
近鉄百貨店橿原店(橿原市) 休憩広場やブック&カフェ 「地域の居場所」目指す
近鉄大和八木駅前の近鉄百貨店橿原店(橿原市北八木町3)が大幅に模様替えしつつある。2021年度から同社が郊外型店舗で進めている「タウンセンター」化計画の一環で、敷居の高い印象が強い百貨店から、誰もが使いやすい地域の居場所作りにかじを切ったという。6階書店前の売り場を休憩広場に改装し、2月からは購入前の書店の本を持ち込める直営喫茶店も開店。橿原店が初任地だったという同社の堺至暢・企画開発部長は「他店と比べて橿原店は特に地域密着の色合いが強い。原点回帰の思いです」と話している。【稲生陽】
食後も思わず雑誌を読みふけってしまった。2月に6階に開店した「マルゼンカフェ」(50席)。百貨店がワゴンセールなどに使っていた6階センターコートを広場に改装し、広場に面する書店を経営する丸善ジュンク堂書店(東京)と協力してカフェを開店させた。購入前の本を持ち込んで読める「ブック&カフェ」形式が売りで、丸善創業者の早矢仕有的(はやしゆうてき)が生み出したとされるハヤシライスが名物。強い甘さと酸味が独特で、ついスプーンを口に運ぶ速さが上がる。
近鉄百貨店橿原店は1986年4月に開店。大和八木駅前の立地から、かつては映画館や貸しホール、従業員が取材した映像を店内のモニターで放映する店内放送局などがそろう地域の交流拠点になっていたという。だが、売り上げ重視への方針転換から映画館などは売り場に変更。2004年に同市郊外にイオンモール橿原(当時はダイヤモンドシティ・アルル)が出店すると、売り場自体も苦戦を強いられるようになってきたという。客の平均年齢層も60歳前後と、他地域の店と比べて5歳ほど高いのも課題になっている。
今回あえて売り場を縮小し、吉野産木材のベンチなどを並べた「やぎもくひろば」を設置。逆に書店は漫画や学習参考書、育児用のおもちゃなど若者向けの売り場を中心に売り場を3倍に広げ、30~40代の取り込みを狙う。3月には生活雑貨大手・ハンズ(東京)のプロデュースで、地場産業やものづくりの技術をスタイリッシュにPRする県内初の「プラグスマーケット」も1階に開店させるなど、駅前の好立地を生かして人を呼び込みたい考えだ。堺部長は「敷居の低さを重視し、百貨店では珍しい100円均一店なども誘致してきた。買い物だけでなく、出かける時間を楽しんでもらえる場所を目指したい」と話している。
近鉄百貨店橿原店
橿原市北八木町3の65の11。マルゼンカフェ(午前10時~午後6時)のメニューは早矢仕(ハヤシ)ライス(970円)、コーヒー(420円)、丸善を舞台にした梶井基次郎の代表作「檸檬(れもん)」にちなんだ檸檬ケーキ(770円)など。
鉄田さんのblogとてもとても参考になりますね。これも鉄田さんのお陰だといつも感謝しております。(2024.01.22)
> ねらい目はレモンケーキです。梶井基次郎著
> の檸檬には描かれているのですね。
そうです。「檸檬」はとても短い小説です、ここに全文が出ています。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000074/files/424_19826.html
八木の近鉄百貨店は、丸善カフェのほか、福寿館、杵屋、いなば和幸など、おいしいお店が目白押しですね!