透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

近代建築の巨人を語る

2007-03-03 | A 読書日記



● 前川國男は確かに近代建築の巨人だが、私は今までそれ程関心を寄せてはいなかった。だから2005年の暮れから翌年の3月まで東京ステーションギャラリーで開催された「モダニズムの先駆者 生誕100年・前川國男展」にも出かけなかった。「宿題の本」を読了した今そのことを後悔している、やはり観ておくべきだった。

この本はこの展覧会にさきがけて開催されたセミナーと会期中に行なわれた記念シンポジウムをまとめた記録集。錚錚たるメンバーが前川國男を語っている。どれも興味深い内容で、前川建築を読み解く上で大いに参考になると思った。とりわけ富永譲さんの「ル・コルビュジエの建築的プロムナードを越えて」と内藤廣さんの「建築に時間を取り戻すために」が印象的だった。

富永さんはコルビュジエと前川さんの作品の空間構成を比較して両者の共通点と相違点を建築家としての視点から論じている。

内藤さんは母親がピアノをやっていたので小学生のころから「神奈川県立図書館・音楽堂」と「東京文化会館」に月に二回ほど通っていたという。 

松隈洋さんが**身近に手に入る素材を用いて、大地に根づき、時間の流れの中で成熟していくことのできる、簡素で明快な空間を作り出すこと(後略)**と前川さんの活動を評しているが、これはそのまま「建築に時間を取り戻さなくてはいけない」と主張する内藤さんにも当て嵌まる。

前川作品といえば、確か学生時代「プレモス」がまだ残っていると聞いて見学に行ったような曖昧な記憶がある。一般によく知られた作品を挙げるとしたら「東京文化会館」「東京都美術館」それに新宿東口の「紀伊國屋書店」あたりだろうか。どの作品も既に30年以上経過しているがいまだに健在、確かに時間の流れの中で成熟していくことのできる建築だ。

今度機会を見つけて前川建築を観察してみたい。

『前川國男 現代との対話』松隈洋 編/六耀社