透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「冬の水練」再読

2007-09-05 | A 読書日記



 南木佳士の作品では映画化された『阿弥陀堂だより』と芥川賞受賞作の『ダイヤモンドダスト』がよく知られていると思う。

この作家の作品は文庫になる度に買い求めて読んできた。先日書店の文春文庫のコーナーで『冬の水練』を手にした。この作家は身辺に題材を求めた小説やエッセイを繰り返し書いているので、既読作品なのかどうか、よく分からないことがある。この文庫はなんとなく未読のような気がして買い求めたが、自室の書棚に並んでいた。

『阿弥陀堂だより』はパニック障害になった女医が夫とともに信州の田舎に移り住んで、自然の中でゆったりとした日々を過ごすという物語だが、南木さん自身、38歳でパニック障害を発病しやがてうつ病に移行して今日に至っている。

「心身の平穏に勝る人生の目標はもうない」という作家のエッセイ集『冬の水練』を再読した。いくつかのエッセイが集められているが、それらを読み進むと、しだいにうつの症状が改善していく様子がうかがえる。

あるいは以前も書いたかもしれないが、この作家の作品は秋の夜読むのがいい。不安な気持ちの時に読むとこころが落ち着く。これは医者でもある作家が処方してくれる「抗不安剤」だ。

 


擬態 その3(まとめ)

2007-09-05 | A あれこれ

 昆虫などがする擬態には隠蔽的擬態と標識的擬態があることを知った。擬態という視点から建築(の姿)も捉えることができるのではないか、「透明」ということを考えていてそう思った。

隠蔽的建築と標識的建築、建築はこのふたつに大別出来そうだ。隠蔽的建築とは周辺の環境に擬態しよく馴染んで溶け込んでいる建築を指す。標識的建築とは建築家やクライアントの「ドーダ」な建築で周辺の環境から浮いた目立つ存在。

日本の民家は隠蔽的建築の代表例だ。地元で採れる自然素材だけで出来ているから、必然的に周辺の環境によく馴染み同化する。透明の概念を広げて「周辺環境、自然と連続的に繋がる状態」だと定義すれば民家はまさに「透明」な存在ではないか。

昨日アップした高知県梼原町の民家は、上記の定義による透明な存在のティピカルな例だ。