■ 南木佳士の作品では映画化された『阿弥陀堂だより』と芥川賞受賞作の『ダイヤモンドダスト』がよく知られていると思う。
この作家の作品は文庫になる度に買い求めて読んできた。先日書店の文春文庫のコーナーで『冬の水練』を手にした。この作家は身辺に題材を求めた小説やエッセイを繰り返し書いているので、既読作品なのかどうか、よく分からないことがある。この文庫はなんとなく未読のような気がして買い求めたが、自室の書棚に並んでいた。
『阿弥陀堂だより』はパニック障害になった女医が夫とともに信州の田舎に移り住んで、自然の中でゆったりとした日々を過ごすという物語だが、南木さん自身、38歳でパニック障害を発病しやがてうつ病に移行して今日に至っている。
「心身の平穏に勝る人生の目標はもうない」という作家のエッセイ集『冬の水練』を再読した。いくつかのエッセイが集められているが、それらを読み進むと、しだいにうつの症状が改善していく様子がうかがえる。
あるいは以前も書いたかもしれないが、この作家の作品は秋の夜読むのがいい。不安な気持ちの時に読むとこころが落ち着く。これは医者でもある作家が処方してくれる「抗不安剤」だ。