
■ 芥川賞の選考委員を務める作家のうち、高樹のぶ子さんの作品は読んだことがなかった。20年以上も前に芥川賞を受賞した『光抱く友よ』新潮文庫をようやく読み終えた。
優等生の相馬涼子とアル中の母親と暮らす「不良」の松尾勝美、二人の女子高生の友情物語。
具体的な作品は浮かばないが、このような組み合わせは特にめずらしくはないように思う。でもいまどきの小説では取り上げないテーマのような気がする。
**屋根すれすれに飛んできた黒い小さな鳥が、見えない空気のかたまりをひょいと乗り越え、校舎の向こう側に落ち込んだ。**(途中省略)**ガリ刷りしたばかりの会計報告書のインクの匂いが、夕刻の冷たい大気に混じって鼻をついた。** 小説の書き出しを読んで、しばらく積読状態にしていた。こういう表現はどうも好きになれない。
そのまま書棚に納めてしまおうかとも思ったが、長編でもないので、何とか読み終えた。涼子が松尾の家に遊びに行って、母親との荒んだ生活を目の当たりにするあたりの描写は、この作家の凄さを感じさせた。
『アサッテの人』の選評で高樹さんは「細部のリアリティ、生理感覚」をこの作品の成功理由に挙げている。この評価は彼女自身の作品『光抱く友よ』にもあてはまる、読了後そう思った。
やはり自身の文学観に合った作品を選ぶ、そういうことなのだろう。