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■ 日帰り東京するつもりで代休をとっていたけれど、体調不良で取りやめた。まだ街中を歩き回るのは無理だ。終日のんびり川上弘美さんの『此処 彼処』を文庫で読んで過ごす。
具体的な場所についての記憶を綴った連作エッセイ集。タイトルは最初の「此処」と最後の「彼処」を除けば全て地名。うれしいことに「長野」も出てくる。
昔の記憶というのはどうやら物悲しい色に染まってしまうものらしい・・・。どれを読んでもどこか寂しい雰囲気が漂っている。
「高井戸・その3」は電話ボックスの話。**最後にあの電話ボックスにコインを入れた時のことも、よく覚えている。季節と、天気は、なぜだかうまく思い出せないのだが、二つだけ、はっきりと覚えている。一つは、電話ボックスを出たとき、自分が泣いていたこと。(中略)悲しい電話だった。傷つけて、傷つけられて。失って、けれどあきらめきれなくて。(後略)**
そう、これは恋人と別れる時に使った電話ボックスの悲しい思い出の記。いったいいくらお金を投入したか分からないという電話ボックス、その後その電話ボックスを使うことは二度となかったという。
「北千住」、**「帰りたくない」と改札口で言うと、男の子はいつだって必ず「早く帰れ」と言った。「やだ」とごねると、男の子はさっさと背を向けてアパートに向かってしまう。(中略)男の子とはけっこう長くつきあったけれど、最後には別れた。**
川上さんもたくさん恋をしたのだな~ぁ。秋の夜中、窓を開けて、虫の鳴き声を聞きながら読んでいたら、涙が出てきたかもしれない。そう、やはり遠い昔の思い出はなぜか物悲しい・・・。