■ 北 杜夫の『楡家の人びと』(*1)が新潮社から刊行されたのは1964年。この年、北 杜夫37歳。
この長編小説も自室の書棚に並ぶのは新潮文庫。『木精』もそうだったが、『楡家の人びと』も単行本を書棚に並べておきたいと思い、一昨日(21日)松本の古書店・想雲堂で買い求めた。こうして再び書棚の本が増えてゆく・・・。
**戦後に書かれたもっとも重要な小説の一つである。この小説の出現によって、日本文学は、真に市民的な作品をはじめて持ち、小説というものの正統性(オーソドクシー)を証明するのは、その市民性に他ならないことを学んだといえる。(中略)これは北氏の小説におけるみごとな勝利である。これこそ小説なのだ!**三島由紀夫の絶賛文が箱の裏面に載っている。
トーマス・マンを敬愛していた北 杜夫は「ブッデンブローク家の人びと」に感銘を受け、いつかは一家の歴史を書いてみようと大学生のころからずっと考えていたそうだが(「マンボウ 最後の大バクチ」、「どくとるマンボウ回想記」による)、この小説を30代半ばで書いている。凄いとしか言いようがない。これほどの長いスパンのなかで、多くの人物がリアルな存在感を持って描かれた小説が日本にどのくらいあるだろうか。私は藤村の「夜明け前」くらいしか直ちには浮かばない。
*1 毎日出版文化賞受賞作品
本稿は2012.01.15の掲載稿の一部を引用し、加筆した。