■ 今年は寅さんを観続ける。昨日(8日)第25作「寅次郎ハイビスカスの花」を観た。
2歳で満州に渡り、そこで終戦後まで過ごしたという山田監督が想い描き続けた海の向こうの日本のふるさと。寅さんは日本各地を気ままに旅するが、それは山田監督のふるさと探しの旅でもあるのだ。そこから沖縄を外すわけにはいかない、と考えたのだろう。本作の舞台は沖縄。
店を休業にして水元公園までアヤメを見に行こうとしているとらや一家。そこへ帰ってくる寅さん、なんというタイミングの悪さ。休業を知らせる張り紙を慌ててはがし、とりつくろうとするけれど、それは無理。無理に隠そうとするから寅さんふてくされる。そこでひと騒動あって、早くも出て行こうとする寅さん。
ここで寅さんが店先で受け取っていた速達をさくらが見ると、リリーから届いた手紙だった。手紙には歌っている最中に血を吐いて病院に担ぎ込まれたこと。生きていてもいいいことないから未練はないけれど、ただ、ひとつだけ、もう一ぺん寅さんに会いたい。こんな内容のことが書かれていたから、さあ大変。
リリーは沖縄の病院に入院している。で、寅さん、飛行機で沖縄へ。飛行機が恐い寅さん、羽田空港でポールにしがみついて動こうとせず、送っていったさくらと博をあわてさせるが、そこへスチュワーデス、今はキャビンアテンダントか、が何人か通りかかり、ついて行ってしまう寅さん。
沖縄、轟音、米軍戦闘機の低空飛行。山田監督の沖縄の現実を見る強く厳しい「眼」を感じる。
病院にリリーを見舞い、優しく看病する寅さん。うれしそうな、幸せそうなリリー。何日かして、リリーは退院。ふたりは民家に下宿、離れで生活し始める(たたし寅さんは母屋で寝ている、一緒でもいいのに。寅さん映画でそれは無しか)。食事をするふたりは幸せそう。ふたりが結婚したらどうなるか、寅さんファンに山田監督はシミュレーションしてみせる。幸せは平穏な日々の生活にある。
リリーは寅さんのことが好きで、結婚してもいい、結婚したいなぁと思っている。
「男に食わしてもらうなんて、私まっぴら」
「水くさいこと言うなよ、お前とオレの仲じゃないか」
「でも・・・、夫婦じゃないだろ」
「あんたと私が夫婦だったら別よ。でも違うでしょ・・・」
「馬鹿だなぁ、お前、お互いに所帯なんか持つ柄かよ~」
「真面目な面(つら)して変なこと言うなよ、お前」
リリーの愛の告白にも、寅さんは煮え切らない。
水族館に足しげく通い始めた寅さん、ダイバーの若い女性と知り合い、仲良くなって・・・。一方、下宿先の青年(江藤 潤)がリリーに好意を抱き・・・。で、ふたりはある夜大喧嘩。
リリーはひとり東京に帰ってしまう。一方寅さんも船で九州に渡り、汽車を乗り継いで東京に帰ってくる、いやたどりつく。
お金がなくて三日三晩飲まず食わずだった寅さん、柴又駅に着くなり倒れてしまって(具体的に描かれてはいないが、たぶん)、板戸に載せられてとらやに運ばれてくる。呼ばれた医者の見立ては極度の疲労と栄養失調。
おばちゃんは「寅ちゃん」に優しい。うな重、寿司、天ぷらそば・・・。
リリーがとらやを訪ねてきて、寅さんと再会。マドンナがとらやに来るとき、寅さんが旅に出ていることってあるのかな、ないだろうな、ストーリーが上手く進展しないから。
とらやの茶の間で沖縄での生活ぶりを振り返るふたり。
「私、幸せだった、あの時」
ふたりして、沖縄での生活は夢だったのだ、と総括。
・・・・・
「リリー、おれと所帯持つか」と寅さん。
「やあねえ、寅さん変な冗談言ってぇ、みんな真に受けるわよ」
沖縄では寅さんがリリーの言葉をかわし、今度はリリーが寅さんの言葉をかわす。まあ、これがふたりには似つかわしいということだろう。
リリーを柴又駅で見送る寅さんとさくら。
「さっきお兄ちゃんが変な冗談言ったでしょう。あれ、少しは本気なのよ」
「わかってた・・・」とリリー
寅さんは少し離れたところに立っていてふたりの会話は聞こえていない。
電車に乗るリリー、締まるドア。
「幸せになれよ」と寅さん。笑顔で頷くリリー。
寅さんも旅に出て・・・、群馬県の荷付場というバス停留所で暑さにうだる寅さん。
マイクロバスが通りすぎて行く。少し先で停車したマイクロバスからサングラスの女が降りて、バス停に向かって歩いてくる。
「どこかでお目にかかったお顔ですが、姐さんどこのどなたです?」この時の寅さんのうれしそうな表情が印象的。
「以前、お兄さんにお世話になったことのある女ですよ」
「はて、こんないい女をお世話した憶えは、ございませんが」
「ございませんか、この薄情者っ」
実に好い会話、嬉しくて涙ぐんでしまった。こういうの好きだなぁ。
まさか、まさかのエンディング。
「寅さんハイビスカスの花」は優れた恋愛映画だ。
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