透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「33 男はつらいよ 夜霧にむせぶ寅次郎」

2021-08-15 | E 週末には映画を観よう

 雨天続きの盆休みは寅さん三昧と決めた。今日(15日)は第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」を観た。全体的に暗いトーンの作品。ラストにマドンナ・風子(ふうこ 中原理恵)の結婚式会場の近くに出た熊に寅さんが追いかけられるというコミカルなシーンがあるけれど、それだけではこの作品にかかる夜霧は消えそうもなく・・・。

盛岡で啖呵売する寅さん、元舎弟の登と再会(寅さん映画に偶然はつきもの)。登は堅気になって所帯を持ち、食堂を営んでいた。店を閉めて寅さんをもてなそうとする登を叱る寅さん。渡世人と縁を切って、堅気の生活を続けろ。寅さん良識ある大人の雰囲気で登を諭す。

北海道に渡った寅さん、釧路でマドンナ・風子と出会う。フーテンの風子と名乗った風子と意気投合して、風子のおばがいるという根室へ一緒に向かう。途中、泊まった宿でサラリーマン風の男・福田(佐藤B作)と相部屋になる(第28作「寅次郎紙風船」では家出娘(岸本加世子)と相部屋になった)。蒸発した妻が霧多布(ってどこだっけ、ネット検索して確かめた)にいるという情報を得て、捜しにいく福田に付き合うふたり。「幸福の黄色いハンカチ」となんだか似ている。この映画では武田鉄矢と桃井かおり(ふたりとも寅さん映画にも出演している)と高倉 健が奧さん(倍賞千恵子)の暮らす夕張へ向かう。奥さんは健さんの帰りを待っていたけれど、福田の奥さんは他の男と幸せそうに暮らしていた。

などと、ストーリーをトレースすると長くなるので、省略する。

寅さんは一生懸命働いて、真面目な男と所帯を持つように、と風子を諭すが、風子はオートバイサーカスの団員・トニー(渡瀬恒彦)に声をかけられて、次第に惹かれていく。「寅さんがもう少し若かったら、あたし寅さんと結婚するのに」と風子が告白するも、「例によって」寅さんは相手にしない。このこともあって、風子はトニーに惹かれていったのだろう。トニーはやさぐれた遊び人で、寅さんの願いには全くそぐわない男だった。

風子はトニーと一緒に上京、同棲。ある時、トニーがとらやを訪ねてきて、風子が寝込んでしまって、寅さんに会いたがっていると伝える。寅さんは風子のもとを訪ね、とらやに連れて帰る。

寅さんはその後、再びトニーに会いに行き、
「用件は分かってるだろうな」
「ズバリ言わせてもらうぜ」
「手ぇ引いてもらいてぇんだ」と凄む(凄むという表現ではこの場面が正確に伝わらないかもしれないが、ぼくにはそう見えた)。寅さんのせりふになんだか、影の世界を見てしまったようで、いやだった。その後、続けてトニーに語る寅さん。
トニー、寅さんに向かって「兄(あに)さん、見かけによらず純情なんですね」と言ってその場を離れていく。まあ、毎度毎度のこと、そう見られても仕方ないだろうな。

トニーが東京を発つという日の夜、風子は寅さんに止められるのを振り切ってとらやを飛びだしていく。この時、風子を説得しようとする寅さんには、風子に対する恋情ではなく兄のような愛情を感じはしたが、そもそも男と女の恋愛に口出しをしてはいけないのだ。

いつものパターンだと、マドンナに失恋した寅さんが急に旅に出るが、ここは失恋ではないので、そのような場面はない。

季節は夏。結局トニーと別れたのだろう、北海道に帰った風子からさくらに真面目な男性と結婚することになったことを知らせる手紙が届く。結婚式に出席して欲しいと文面にあり、さくらは博と満男と3人で空路、北海道へ。寅さんは別ルートで式場へ向かう。で、式場のすぐ近くで熊と遭遇して、ひと騒動・・・。おしまい。

寅さんも歳を重ねて若い娘と恋愛騒動を起こすようなストーリーが成立しにくくなってきた、ということか。第1作では御前様の娘(光本幸子)に、第2作では寅さんが中退した葛飾商業の恩師の娘(佐藤オリエ)に、それから第5作では豆腐屋の娘(長山藍子)に惚れた寅さんが婚約者や恋人の出現によって、あえなく失恋するというパターンだったのに・・・。


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2021.08.15   ブログ開設から5600日目



「32 男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」

2021-08-15 | E 週末には映画を観よう

 続く雨降り。寅さんを観ようと松本市渚のTSUTAYAまで出かけて(大雨で増水していると思われる奈良井川の堤防道路は避けた)第32作の「口笛を吹く寅次郎」を借りた(順番に観ようにも、下に挙げた第30作までの欠番作品はどれも貸し出し中のようだった)。

マドンナは備中高梁、博の父親の菩提寺の娘・朋子(竹下景子)。寅さんは諏訪家の墓にお参りに来て、朋子と出会う。寅さんは墓に向かって話しかける。「先生(注:博の父親)、しばらくだなあ。おれだよ、寅だ。覚えているかぃ。葬式には来れなかったんで、今ごろやって来た」このシーンはなかなか好いと思う。これこそ墓参り。

ストーリを追うのはやめておこう。二日酔いの住職(二代目のおいちゃん役の松村達雄)に代わって寅さんが法要を務め、更に住職と共に博の父親の法事まで務めるという設定になじめなかった。門前の小僧習わぬ経を読むとは言え、宗派も違うわけだし(ただし、法要ではちゃんと真言宗の南無大師遍照金剛という宝号を唱えていた。柴又の帝釈天・題経寺は日蓮宗なのに、寅さんすばらしい)。

印象的なラストについて。

映画のラスト、柴又駅のホームで朋子が寅さんの気持ちを確かめる場面が出てくる。
「ねえ、寅さん・・・」
さくらは気を利かせて、ふたりから離れる。
「ごめんなさい・・・」 朋子のことばには後に・・・と付けたくなるような間があるが、それがなんとも好い。
「え? なに、なにが」
「いつかの晩のお風呂場のこと・・・」
「な、なんだっけなあ」と寅さん分かっていてとぼけるというか、はぐらかす、いつもの逃げのパターン。
「ほらあ・・・」
「あの三日ほど前の晩に父がね、突然、今度結婚するんやったらどげな人がええかって聞いたの」
朋子、下を向いて「それでね・・・、私・・・」
続けて寅さん「寅ちゃんみたいな人がいいって、言っちゃったんでしょ」
朋子驚き、寅さんを見つめて、ゆっくり頷く。
朋子は寅さんのことを好きになっていて、寅さんと一緒になりたいと思っているのに、
「おれがそんなこと本気にするわけねえじゃねえか」
寅さんの言葉を聞いた朋子、小さく「そう・・・」
目を伏せた朋子の悲しそうな、寂しそうな表情。なんだかその様子をみていて僕も悲しくなってしまった。

同じようなことが第28作「寅次郎紙風船」でもあった。この時のマドンナはテキヤ仲間の女房(音無美紀子)。その時の様子を既に書いた記事から引く。

**光枝は「寅さんが見舞いに来てくれた時、うちの亭主変なこと言わなかった?」と訊く。常三郎は亡くなる数日前、光枝に自分が死んだら寅の女房になれ、寅さんにも話してあるからと伝えていたのだった・・・。

光枝は寅さんと一緒になりたかったのだ(そうではなかったという見解もあるようだが、ぼくは一緒になりたかったと断じる)。だが寅さんは、光枝に「寅さん、約束したの?本気で」と訊かれて「ん、ほら、病人の言うことだからよ、まあ適当に相槌打ってたのよ」と答えてしまう。

この時の光枝の寂しそうな表情。光枝は幸せを求めていたのに・・・。**

朋子についておばちゃんから「きれいな人なのかい?」と訊かれ、博は「何といいますか、美しさの中に知性を秘めたとでも言いますか・・・」と答える。

寅さん、竹下景子が、いや朋子が結婚を望んでいたのにぃ。なんということを・・・。


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