透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「38 男はつらいよ 知床慕情」

2021-08-17 | E 週末には映画を観よう

 寅さんシリーズ第38作「知床慕情」を観た。第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」とは対照的に全体的に明るいトーンで観終えてから、なんともいい気分。

マドンナ・りん子の役は第32作「口笛を吹く寅次郎」で結婚に失敗し、実家の寺に戻った朋子を演じた竹下景子。今回は髪形変えてショートカットにしたりん子ちゃん、鄙里のおじさん好み。

りん子が結婚に失敗して東京から故郷の北海道は知床、斜里に帰ってくる。父親・上野順吉(三船敏郎)はこの地で獣医をしている。で、今回寅さんはりん子の父親と近所のスナックの悦子ママ(淡路恵子)、熟年ふたりの恋のアシスト役。

偶々順吉と知り合いになった寅さんは順吉のところに居候。寅さんが旅先で出会う人とすぐ仲良くなるのは毎回のこと。寅さんすっかり斜里の町に馴染んで、みんなと一緒に飲んだり、釣りをしたりと、人気者。

ある日のこと、みんなでバーベキューをしている時、輪から外れてひとりで飲んでいる順吉に「今言わなかったらな、おじさん、一生死ぬまで言えないぞ」と告白を勧め、店を辞めて新潟に帰るというママに向かって「俺が行っちゃいかんというわけは、・・・ 俺が惚れているからだ! 悪いか」と言わせる。男は黙ってビールを飲んでいてはダメな時もあるのだ。

順吉を見つめる悦子ママ、さすがベテラン、淡路恵子。次第に表情がくずれ、涙があふれる様子はとても演技とは思えない。

バーベキューを始めるとき、すま けいが演ずる船長が挨拶をする。離農、廃坑、自然破壊と知床の現状を憂え、寅さんにいつまでもこの町にいてくれと言い、りん子にはもうどこにも行くなという。「俺たちとずっと一緒に暮らすべえ・・・、この町は住んでみれば決して悪い町なんかじゃないと思うよ」このような内容だったが、なかなか好い挨拶だった。

バーべキューを楽しんでいるときの順吉の告白に、みんな拍手喝采。知床旅情を歌う。この感動的な場面がこの映画のクライマックス、と言ってよいと思う。

順吉が告白した日の夜、悦子ママのスナック「はまなす」でみんな大いに盛り上がっている。スナックを抜け出してりん子を訪ねた寅さんは「かまわねえだろ、おとっつぁん結婚しても」と同意を求める。りんこ「ええ」と頷き、「それはちょっぴり淋しいけど、何て言うか・・・、お父さんをおばさんに取られちゃったような気がして・・・」と気持ちを伝える。それを聞いてスナックに戻ろうとする寅さんに向かって「もう行っちゃうの・・・」とりん子。

りん子、朋子と同じで今回も寅さんを思慕。
「あのね・・・」
「あの、どう言えばいいのか・・・」
潤んだ目で寅さんを見て「ありがとう、いろいろと・・・」

みんなとスナックで飲み明かした寅さんはりん子に宛てた手紙を仲間に託して町を離れる。その訳を聞いたりん子は泣きだして、家に駆け込む。

・・・・・

その後、東京で仕事をみつけたりん子がとらやを訪ねてくる。だが残念なことに寅さんは旅に出て、留守。マドンナがとらやに来るときはなぜかいつも寅さんと会えるのに・・・。

でも、りん子は東京で暮らすことになったわけだし、寅さんは振られたわけじゃない。

「さくらさん、私、りん子です」
「あらぁ、りん子さん。ちょうど兄が旅から帰っているのよ」
「明日はお休みでしょ。どう、遊びにいらっしゃいよ」
「寅さん帰ってるんですか、嬉しい・・・。寅さんに会いたいなぁ。お邪魔してもいいですか」
「もちろんよ」
なんてこともあり得るわけで。

後味の良い作品だった。


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