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■ 『生物から見た世界』ユクスキュル/クリサート(岩波文庫)を読んだ。原著は1934年に発行されているようだ。本書の奥付に2005年6月16日第1刷発行、2023年12月25日第34刷発行と記されている。名著は読み継がれる。
『生物から見た世界』は先月(4月)読んだ『カワセミ都市トーキョー』で知った。著者の柳瀬博一さんは『生物から見た世界』を参考文献として取り上げ、次のように書いている。**さらに人間の場合、生き物としての「環世界」だけじゃなく、自身の経験に基づく、ごく個人的な「環世界」の中でも暮らしている。この環世界はユクスキュルが定義した「感覚器で知覚できる世界」とは、ちょっと違う。個々人が後天的に獲得した言語と知識と経験に好みがつくり出す大脳皮質がつくった「文化的な環世界」である。**(265頁)
「環世界」のことは知らなかった。それで『生物から見た世界』を読んでみようと思った。で、この本も東京駅前の丸善で買い求めていた(2024.04.20)。
生物にはそれぞれ固有の世界がある。人、然り。
この本を読んでいて、『モンシロチョウ キャベツ畑の動物行動学』小原嘉明(中公新書2003年)を思い出した。(*1)
ヒトにはモンシロチョウの雄と雌の翅の色は同じに見えるが、モンシロチョウは全く違う色に見えているという。なぜ? ヒトとモンシロチョウとでは可視範囲が違っていて、モンシロチョウはヒトには見ることができない紫外線域も見ることができる。雌と雄で翅の紫外線の反射率が違っているので、全く違う色に見える。これは雌と雄で鱗粉の構造が違うことによるらしいが、メカニズムはまだ明らかにはなっていないという。
そうか、ヒトとモンシロチョウとは環世界が違うということなんだ。このことに気がついて、『生物から見た世界』に俄然興味が湧いた。岩波文庫に収録されている古典的名著は表現が難しく、読みづらいという先入観が私にはあるが、この本はそうでもなく、理解を助ける挿絵が何枚も載っていることもあり、昨日(4月30日)一気読みした。
**ミミズは葉を形に応じて適切にあつかうが、それは葉の形に従っているのではなく味に従っているのである。**(75頁)ミミズの知覚世界では物体の形は知覚標識とはなっていない、ということか。ミミズには形態知覚がない・・・。
どんな生物でも同じ空間、同じ時間を生きている。これは幻想に過ぎず、空間も違うし、時間も違う。このことを示す事例がいくつか挙げられている。『カワセミ都市トーキョー』から引用した柳瀬さんの文章に書かれているが、人もごく個人的な環世界があり、そこで暮らしている。ぼくは星座の知識がないので、視覚的標識とはなり得ず、見えない・・・。
この本との出会いに感謝したい。
*1 初読年は分からないが、おそらく2003,4年だろう。2011年、2014年に再読している。この本は大変興味深い内容が分かりやすく書かれている。おすすめの1冊。