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■ 安部公房の作品を高校生の時に読み始め、よく読んだのは大学生の時、その後も読み続けていた。今年は1924年(大正13年)生まれの安部公房の生誕100年の年。雑誌「芸術新潮」が3月号で特集を組んでいることからも分かるが、ノーベル賞に最も近い作家と評されていた安部公房は過去の作家ではない。
今月(3月)刊行された遺作『飛ぶ男』(新潮文庫)は、よく売れているようだ。紀伊国屋書店新宿本店の文庫のランキング(3月4日~10日)で1位になっていた(全国紙の書評欄)。新潮社のHPによると『飛ぶ男』は読者全体の3分の1を50~70代が占めているそうだ。若かりし頃、安部公房の作品を読んでいた読者が約30年ぶりの新刊を手に取っているとのことだが、私もそのひとり。
安部公房の『石の眼』(新潮文庫1975年1月30日発行)の初読は記録によると発行直後の同年2月、再読は1993年2月。それから31年後、またこの小説を読んだ。
安部公房の作品には観念的な内容が硬い文体で綴られている、というイメージがあるが、この作品はそのようなイメージからは遠く、読みやすい。
内容についてカバー裏面の作品紹介文から一部を引く。**完成近いダム建設地、しかしそのダムは業者と政治家の闇取引による手抜き工事で、満水になれば必至であった。不正の露見を恐れ、対策に狂騒する工事関係者たちへの審判の日が来た――。**
私が好む推理小説仕立ての小説で、よくできたストーリーだとは思うが、なんとなく物足りなさを感じてしまうのは、私が安部公房の作品に求めているのは既に読み終えた『人間そっくり』や『他人の顔』、今後読むことになる『箱男』、『砂の女』などの「人の存在」そのものを問う観念的で濃密な作品を求めているからではないか、と思う。
ところで、松本清張に『眼の壁』という推理小説がある。『石の眼』を間違えて『眼の壁』だとある人に伝えてしまった。シマッタ! 安部公房には『壁』という芥川賞受賞作があるので間違えた?
尚、『石の眼』は現在絶版になっている。
さて、次は『夢の逃亡』(新潮文庫1977年)。
手元にある安部公房の作品リスト(新潮文庫22冊 文庫発行順 戯曲作品は手元にない 2024年3月以降に再読した作品を赤色表示する)
月に2、3冊のペースで読んでいけば年内に一通り読むことができる。
『他人の顔』1968年12月
『壁』1969年5月
『けものたちは故郷をめざす』1970年5月
『飢餓同盟』1970年9月
『第四間氷期』1970年11月
『水中都市・デンドロカカリヤ』1973年7月
『無関係な死・時の壁』1974年5月
『R62号の発明・鉛の卵』1974年8月
『石の眼』1975年1月*
『終りし道の標べに』1975年8月*
『人間そっくり』1976年4月
『夢の逃亡』1977年10月*
『燃えつきた地図』1980年1月
『砂の女』1981年2月
『箱男』1982年10月
『密会』1983年5月
『笑う月』1984年7月
『カーブの向う・ユープケッチャ』1988年12月*
『方舟さくら丸』1990年10月
『死に急ぐ鯨たち』1991年1月*
『カンガルー・ノート』1995年2月
『飛ぶ男』2024年3月