映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

酔いどれ天使  黒澤明

2009-12-14 21:39:54 | 映画(日本 黒澤明)
黒澤明と三船敏郎のコンビで初めて作られた作品。戦後の焼け跡の中、たたずむ一人の医者志村喬とヤクザ三船敏郎との心のふれあいを描く。まだ若くエネルギッシュな三船が際立つ。脚本もよく、セリフの一つ一つが心に残り、古さを感じさせない傑作だ。 医者である志村喬のところを、手を負傷した三船敏郎が診察に来る。どうも手はピストルで撃たれた跡のようだ。咳き込む三船が調子悪そうなので、問診をすると結核の疑いがある。その話をすると、三船は怒って診療所を出る。焼け跡の町の顔役である三船が昼からダンスホールに入り浸りという話を聞き、結核の治療にあたるよう説得をしにダンスホールに行くが聞く耳を持たない。そんな時、志村喬の医院を手伝っている中北千枝子の元の情夫で三船の元兄貴分がお勤めを終えて刑務所から戻ってきた。三船は病気を自覚して付き合い酒を断ろうとするが、ちょっと一杯のつもりが量が多くなり、そのままダンスホールへ行く。そこには三船の情婦木暮実千代がいた。三船が兄貴分に木暮と踊るように言うが、兄貴分は木暮に一目ぼれ。その後二人は女の取り合いをするようになるが。。。。。




三船敏郎がぎらぎらしている。戦後間もない時代背景もあるだろうが、脂ぎっている。その彼が結核の症状が悪くなり、弱っていく。そこに医者である志村喬がからむ。志村が老練な姿を見せるのは「生きる」の後で、ここではまだ普通の中年飲んだくれ医師を演じる。その志村が痛烈にヤクザの悪口をいう。そのセリフが非常に印象的だ。脚本がうまい。それ自体、ヤミ商売が横行する社会に対する黒澤明監督の痛烈な現代批判である。

もう一つ印象に残るシーンがある。笠置シヅ子の「ジャングルブギ」の場面である。この映画を観るのは多分3回目だと思うが、最初に笠置の歌を観た時にはその迫力に本当にびっくりした。三船が兄貴分を連れてきたナイトクラブで笠置が歌う。歌のワイルドさもすごいが、それをとらえるカメラワークも効果的に彼女をアップで撮っている。昭和40年代から50年代にかけて日曜日の昼間に漫才師てんやわんや司会で「家族そろって歌合戦」という番組をやっていた。人気番組だった。その審査員の中に笠置シズコがいた。当時もいかにもオバサンで、この人何やっている人なのかと子供心にずっと思っていた。それを覆すのがこの映画だった。ジャングルブギの作詞が黒澤明というのも面白い。

その他脇役も中北千枝子、飯田蝶子とまだ初々しい久我美子がでている。最近「家庭教師のトライ」のCMで二谷英明と一緒に出てきて、大声でわめき回るもう少し年をとった中北千枝子が目立つ。「ニッセイのオバサン」のCMで一世を風靡したころの中北だ。黒澤映画だけでなく、小津、成瀬と巨匠にこれだけ愛された女優もめずらしい。飯田蝶子は戦後間もないのにおばあさん役、老け役をこんな早い時期からやっていたのかと思うとすごい気がする。華族出身で学習院女子部出身の久我美子はいかにも気品がある。たしか現天皇の姉上と同窓と聞いた気がする。 そんな俳優を自由に使いきった黒澤にとって、この映画は会心の作品だったに違いない。娯楽性を重要視しながら、少ないながらも世相批判する脚本がいい
コメント (7)
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