映画とライフデザイン

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天地明察  岡田准一

2012-09-29 20:50:07 | 映画(日本 2011年以降主演男性)
映画「天地明察」を劇場でみた。

予告編をだいぶ前からやっていた。何か魅かれるところがあった。引き寄せられるように映画を見た。非常にさわやかで爽快な印象を持った。映画館を出る時、こんなすがすがしい気分になることも珍しい。


恥ずかしながら渋川春海(安井算哲)という存在を知らなかった。大学受験は私立用で世界史、国立用で加えて政治経済だった。日本史は苦手の古文資料が多くやる気にならなかった。3年生で学んだが記憶にほとんどない。高校生の娘の教科書を広げると、渋川春海(安井算哲)の名前がある。改暦のことも書いてある。日本史を受験科目にした人はよく知っているかもしれない。重要人物である数学者関孝和は日本数学界のルーツのような人なので知っていた。数学史の本によく出てくる。彼が幾何の問題を解いた図面は何度も見たことがある。
実在の歴史上の人物を取り上げながら、それぞれの個性を生かしつつ、誰が見てもすがすがしい映画をつくる滝田監督の手腕に「おくりびと」に引き続き感心した。

江戸時代、4代将軍家綱のころの話だ。
安井算哲(岡田准一)は幕府お抱えの碁打ちの家系であった。星の観測にも興味を持っていた。反抗精神も強く、算哲は形ばかりの勝負となった囲碁に次第に疑問を抱き、別の家元である本因坊道策(横山裕)と真剣勝負を将軍(染谷将太)の前で打とうとして説教を受けた。そんな安井算哲を水戸家の徳川光圀(中井貴一)や将軍・徳川家綱の後見人会津藩主保科正之(松本幸四郎)はかわいがっていた。
また、算哲は算術にも関心を持ち、神社に奉納された絵馬に書いてある算術の問題(算額)を解くのを楽しんでいた。ある時、その絵馬の問題を鋭く解く男がいるのに気付いた。関孝和(市川猿之助)である。彼と知り合うにはどうすればいいと思い、算術の塾を訪れた。そこには塾頭とその妹で算術を解く神社に行儀見習いに通うえん(宮崎あおい)がいた。
そんな数理能力に優れる算哲を、保科正之(松本幸四郎)は暦の誤りを正す任に抜擢する。日本は中国・唐の時代の宣明暦を800年にわたり使ってきた。しかし、2日ほどずれが生じてきたのだ。中国には元の時代および明の時代に作られた暦もあった。安井算哲は元の時代の授時暦が正しいのではないかと推論を立てていた。しかし、暦は京都にいる朝廷の公家が司っていた。そこに幕府が口を出すとなると、朝廷の聖域への越権行為になるという問題をはらんでいた。
まずは新しい暦を作るというこの計画に先立ち、全国で星や太陽を観測するという作業となる。建部伝内(笹野高史)、伊藤重孝(岸部一徳)とともに長い旅に出発するが。。。


ロマンのある話だ。
豊臣一族絶滅からもずいぶんと年数を重ねているので世相も安定している時期だったのであろう。
文化学術にも目が向けられるようになっている時代だ。関孝和、安井算哲と役者がそろった時代なのだ。
朝廷が司どっている聖域に挑戦するために、3つの暦の比較で勝負をするという発想がすごい。

相手を説得するには何はともあれ、自分たちの正統性を示すための証拠を用意するというのはビジネスの世界でも同じだ。
数理的な証拠を見せ付けれると相手はウンといわざるを得ない。

岡田准一は主演の回数も増えて安定した演技。日本を代表する役者たちを相手にもまったく引けをとらない。

印象的なのは関孝和を演じた市川猿之助である。由緒ある名前を張るだけあって、力強い演技である。自分が持つ数学の天才のイメージはどちらかというともう少しボーっとした奴が多い。ここまでアグレッシブかな?という気がするが、このストーリーの流れでは当然関孝和はこのくらいのパワーがあってしかるべきだろう。一般に言われているより新しい暦を作るにあたっての関孝和の貢献度を高くしている。

本作品HPの解説を読むと藤原正彦の話が出ている。
「彼(関孝和)は授時暦も学んでいましたが、算哲と同じように改暦を目指していたかどうかは、謎です。藤原正彦著「天才の栄光と挫折 数学者列伝」の中で、ライバルの算哲が改暦をなしてから、関の業績がまるでないらしいとの話が出ています。」
藤原正彦は「国家の品格」の作者だが、彼の言っていることがいい加減というのは有名だ。
「国家の品格」にある経済学批判に関しても、実際にその本を読まずに感覚で批判しているのは明らかだ。はっきりいって超いい加減な学者の言うことだ。
安井算哲と関孝和が実際に接しているのであれば、この映画のような話が存在したと思うのが自然だろう。

朝廷には面倒な公家がいる。市川染五郎演じる公家が世俗の人たちだけでなく幕府の役人をバカにするような口調を言う。いかにもいやみったらしい。妹である松たか子は、お嬢さんの域を超えて、まさに世間の底辺で生きる女性を演じるのもうまくなったが染五郎はまだまだお坊ちゃんが抜けきれないのか、こういう役しか回らない。オヤジの松本幸四郎は貫禄があっていい感じだ。「天を相手に真剣勝負をしろ」と主人公に命令する場面はかっこいい。宮崎あおいは嫁さんにしたらいいなあと思わせる姿を見せる。

水戸光圀を中井貴一が演じるのも悪くない。テレビで見る黄門様と違い、いわゆる日本史で言われている水戸光圀の姿だ。寛容性のある光圀がワインをたしなんだり、中華料理を堪能する姿を映すのはおもしろい。そういえば日本で最初にラーメンを食べたのは水戸光圀といわれているからね。将軍役の顔を見て、見たことあるんだけど誰だったかな?としばらく考えた。そうだ。「ヒミズ」の主演のお兄ちゃんだと解るまで時間がかかった。染谷将太はこういうキャラがお似合いだ。
脇を固める岸部一徳と笹野高史は実にうまい。この2人が先頭になって、入場行進するかのごとく足を高く上げて歩く姿が滑稽だ。 そういう映画をより崇高なものにしているのは久石譲の音楽だ。予告編のときから心に残るテーマミュージックであった。天体を扱うというスケールの大きさを感じさせる。

娯楽として楽しめた。
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