映画とライフデザイン

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映画「ダンケルク」 クリストファー・ノーラン

2017-09-17 18:44:10 | 映画(洋画:2016年以降主演男性)
映画「ダンケルク」を映画館で観てきました。


クリストファー・ノーラン監督の新作は戦争ものだ。それも英国との間のドーバー海峡に面するフランスの町ダンケルクドイツ軍に包囲された英仏両軍が逃走する姿をここで描いている。要は真っ向勝負の戦争を描いているわけではない。

いきなり包囲するドイツ軍に囲まれた英国兵がクローズアップされる。空からはドイツ軍得意の宣伝ビラが落ちてくる。君たちは包囲されていると。もはや逃げるしかない。防波堤には大勢の英国軍兵士がいるけれど、空からはドイツ空軍の戦闘機の爆弾攻撃を受けている。逃げようとするが、容易にはいかないし八方塞がりになってくる。

英国人、フランス人はどうなのかは知らないが、日本の高校世界史の教科書では、この撤退の事実をあまり語っていない。日本人にはなじみが薄い事実である。その撤退劇をクリストファー・ノーラン監督がじっくりと映像化している。低音が利いた音楽がうるさくなく響き、逃げ場がない状況に近い英国軍の兵士たちが追いつめられる姿を描く。どちらかというと、スリラー映画的な気味の悪さが全編を流れる。

歴史上、英仏軍が撤退したことは知られている。しかし、ここで登場する出演者たちが個別に逃げられたかどうかは、予備知識として持っていない。そこに緊迫感がある。しかも、最後の最後まで危機一髪の状態が続く。誰が助かるのかわからない部分があるので目が離せない。
実に見ごたえのある作品である。

1940年5月、仏英連合軍40万の兵士は、フランス北部ダンケルクの海岸に追い詰められていた。トミー(フィオン・ホワイトヘッド)やアレックス(ハリー・スタイルズ)ら英兵たちは、英海軍中佐(ケネス・ブラナー)が指揮する撤退作戦のもと、艦船での帰国を目指すが、空と陸から攻撃してくる独軍が行く手を阻む。


一方、英国では、900隻の民間船が兵士を救出する“ダイナモ作戦”が動き出していた。息子とその友人を乗せて出港したドーソン船長(マーク・ライランス)は、海上を漂流する謎の英国人(キリアン・マーフィー)を救出する。空軍のファリア(トム・ハーディー)も、戦闘機スピットファイアで出撃し、空から作戦を援護する。(作品情報より)


1.時代背景
1939年9月にナチスドイツポーランドに侵攻して第二次世界大戦がはじまる。この時点では1939年8月に独ソ不可侵条約を結んでいるので、ソ連はドイツとともにポーランドを分割する。1940年4月にドイツは西部電撃戦を始める。デンマーク、ノルウェイをあっという間に占領し、ベルギー、オランダ、そしてフランスに侵攻する。ドイツ軍が最も勢いがあるころの話である。パリ陥落はこの映画での撤退劇の後の1940年6月である。


1940年5月英国ではチャーチル首相が指揮を執る。大戦前まではネヴィル・チェンバレン首相がナチスドイツに宥和する政策をとっていた。チャーチルは戦火激しいフランスからいったん撤退を命令する。しかし、40万ともする英仏連合軍が逃げられるのであろうか?それがこの映画の時代背景である。

2.撤退
戦争末期の日本軍的には撤退という言葉はなく、玉砕しかないといった感じである。しかし、欧州戦では撤退によって、戦力を温存し次に備え逆転したという歴史上の事実がいくつかある。

例えば、1815年幽閉されたエルバ島から脱出したナポレオンが起こしたワーテルローの戦いでは、プロイセン軍とウェリントン将軍率いる英国軍が立ち向かう。ナポレオンは自ら軍を率いる戦いではほとんど勝つ。まずはプロイセン軍を制覇し、英国軍と対しようとする。ナポレオンはもはや勝ったも同然の気分である。しかし、プロイセン軍は敗兵軍を再陣営して、英国軍と共同戦線が組みやすい場所に移動する。そして、侮ったナポレオンは楽勝ムードで英国軍と対戦するが、目の前に現れた加勢するプロイセン軍に驚きやられ、連合軍が勝つ。


チャーチル首相ダンケルクから撤退するおかげで、多くの兵士を温存できた。これが最終的に勝つことにつなげられたのだと思う。

3.空間設計の巧みさ
大画面で見たほうがいい映画である。広がりのある海岸の爆破シーン、トム・ハーディ演じる英国空軍の戦闘機とドイツ空軍の戦闘機との海上での空中戦など大画面をうまく生かした映像である。その一方で、逃走する輸送船がドイツ軍の潜水艦の魚雷攻撃を受け、船のなか兵士が溺れながら逃げるシーンや船底に銃弾を撃ち込まれ穴から水が漏れ兵士たちが絶体絶命に追い込まれるシーンなど、全く逆に閉鎖的空間の使い方もうまい。


豪華キャストではあるが、絶対的な主人公がいない映画である。それがいいかもしれない。一か所ではなく、湾岸、救助しようと英国港を飛び出した船、撤退から守ろうと出発した空軍の飛行機といくつもの場面を並行的に描く。編集もお見事である。
コメント
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