映画とライフデザイン

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映画「異端の鳥」 ペトル・コトラール&ヴァーツラフ・マルホウル

2021-04-15 14:33:15 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「異端の鳥」は2020年公開のチェコ映画

傑作である。

「異端の鳥」は昨年のキネマ旬報ベスト10の中で見逃した映画残り2つのうちの1つ。上映時間の長さにわずかな隙のロードショーで観るタイミングを逃してしまっていた。これは観れてよかった。映画の大画面に映えるショットが多い。いくつかの酷いショッキング映像の衝撃を緩和させるが如くモノクロ映画である。東欧の前近代的な村落で、親と離れて1人ぼっちになった人の少年がロードムービー的に渡り歩くいくつかの逸話を積み重ねている。


何でこんなにいじめられなくちゃならないの?と思うと同時に、少年は人間の持ついやらしい本能に向かい合う。いつ何時殺されてもおかしくないのに、ギリギリのところで助かる。司祭や鳥売り、老婆やソ連兵など哀れみで助けてくれる人もいる。でも、助けてもらう倍だけ迫害される。生きている方が地獄じゃないかと感じるくらいの仕打ちである。

映画ポスターの首だけ、頭を出しているシーンではカラスが大挙押し寄せ顔を突く。
ホラー映画ではないけど、それに近いシーンも多い。目を背けながら169分映像を追う。

東欧のとある国。ホロコーストから逃れて田舎に疎開した少年(ペトル・コトラール)は、因襲的阻害感が強い地元の人に異質な存在として退けられていた。預かり先の老婆が病死した上に火事で家が焼失したために、少年は村から追放されて1人旅にでる。


行く先々で彼を異物とみなす周囲の人間たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続けるのであるが。。。

作品情報に監督のインタビューがある。映画がよくわかるための要素が盛り込まれているので引用する。

監督のインタビューから
35mmの白黒フィルム、1:2.35アスペクト比で撮影した。シネマスコープという画郭は、豊かに感情に訴えるフォーマットだ。他のフォーマットでは、このような正確さと力で、画面上に映し出される美しさと残酷さの両方を捉えることはできない。そして画の本質的な真実性と緊迫感をしっかりと捉えるために白黒で撮影した。(作品情報 引用)

映画館で観るべき作品としたが、人物のアップの度合い、バックの美しい背景をこれほど臨場感を持って映し出す映像は少ない。自分は映画館至上主義者の主張には時おり異常ともみなすタイプであるが、この映画に関しては、DVDで見るのがもったいないと感じる


ストーリーテリングのスタイルは口語的ではなく、映画的である。内的独白や説明的なナレーションはない。そして、現実感を保つためにストーリー順で撮影した。その結果、子役の成長は主人公の進化と成長を反映している。(作品情報 引用)
セリフは少ない。最小限だ。しかも、あまりのショック続きに主人公は言葉をなくす。2年にわたって撮影されたという。単なる田舎の子どもにすぎない当初の少年の姿から、最後の場面まで顔も身体も成長していることがわかる。実際にこの旅路が数年にかけての過酷な試練であることを肌で感じる。撮影すること自体がむずかしい場面がいくつもある。


私は断固として哀れみを避け、使い古された決まり文句、搾取的なメロドラマ、人工的な感情を呼び起こすような音楽を排除しようとした。絶対的な静寂は、どんな音楽よりも際立ち、感情的に満たされる。
この名作小説の映画化で私が目指したことは、主人公が経験する度重なる人間の魂の闇のまさに中心へと導く一連の旅を、絵画的に描写にすることだった。(作品情報 引用)

いくつもの物語では、理由もなく暴力を振るわれている。子どもに対しても容赦ない。宗教的な要素が強いのかな?と感じる部分も多い。飛行機が映るので20世紀の物語だとわかっているが、もしかして19世紀以前の話なのかと錯覚してしまうこともある。女性の性的欲望もかなり強調されている。別の物語で2人の淫乱女が出ていて、村の女たちに罰としてあそこに4合瓶程度ボトルを突っ込まれるシーンまである。何じゃこりゃという感じだ。


映画祭で何人も席を立ったいう逸話もわからなくもない。それでも、映画の大画面を生かしたこの映像表現は年にそうは見れない。ヴァーツラフ・マルホウル監督の力量はすごい。
コメント
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