映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「聖なるイチジクの種」モハマド・ラスロフ

2025-02-21 17:32:43 | 映画(アジア)
映画「聖なるイチジクの種」を映画館で観てきました。


映画「聖なるイチジクの種」は第77回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞したイラン映画。イラン人監督モハマド・ラスロフは、自作映画でイラン政府を批判したとして8年の禁固刑とむち打ちの有罪判決が下って、国外脱出している。これまで観たイラン映画のレベルはいずれも高い。ただ、政府批判により国内で映画が作れなくなった映画人も多い。映画に出演する美人だらけのイラン人女性も複雑だろう。気になる作品だ。

イランシーア派のイスラム国家で対外的に反アメリカの立場と理解しているが、国内でも反政府のデモがあるという。その政治的背景はわからない。事前情報は少ないままに映画館に向かう。映画を見終わって国家からの過剰な反対派への仕打ちがあると理解できたが正直よくわかってはいない。

2022年のイランでは1人の若い女性の不審死を機に市民や学生による反政府デモが激化していた。20年強裁判所で働くイマン(ミシャク・ザラ)は悲願の昇進を果たして判事となる。妻や2人の娘は喜ぶ。判事になったイマンの仕事は反政府のデモに加わり逮捕された若者を国家の指示により極刑とすることだ。長女は反政府運動をしている友人が酷い暴力を振るわれて、その影響を受けている。イマンは護身用に銃を支給されていた。


イマンは寝室の引き出しに銃を置いていたが、突然なくなる。部屋中探しても見つからず、妻と娘2人が銃を隠したのではと疑う。銃の紛失は処罰を受けて今後の出世にも響き、家族内が疑心暗鬼の状況になってくる。

いつもながら、イラン映画は重い。
俳優の演技レベルは高い。かなりむずかしいセリフや演技を要求されて応えている。実際のデモの場面も映像に織り交ぜる。途中までの展開から予期せぬ形で崩壊する家庭を映し出す。途中からの変貌が何でここまでのことになってしまうのか訳がわからない。サイコスリラーのようだ。

この映画の主題は、判事である家の世帯主イマンの銃がなくなることであるが、そこに至るまでの上映時間は1時間20分程度ある。ちょうど半分だ。それまでは、せっかく昇進したのに、やることは反政府デモに加わった若者を罰することでやりきれないが職務を履行するイマンの姿と、長女レズワンの友人が抗議活動に参加して負傷したのを家で介抱する場面だ。病院に行ってしまえば逮捕だ。友人は逃げ回るしかない。

家族で食卓を囲んだ時にTVのニュースで抗議運動の場面が出ると、反対派をかばう発言をする長女に対して父親が怒る。言い合いだ。そんな余韻がある翌日に銃がなくなる。銃をなくすと、これまで20年強築き上げた信用も無くなるし、ヘタをすると懲役刑だ。家にいた3人の誰が犯人なのか?家族内に大きな亀裂が生まれる。


しかも、反対派に対して重い刑を与えてきた父親イマンがマークされるようになり、自宅の住所がネット上で特定されて不審者に追われるようになる。イマンの精神状態もおかしくなり、いったん家族でイマンの故郷へ行くのだ。その途中でも不審なクルマに追われる。この辺りからはグチャグチャになってくる。

最終局面からはサイコスリラーに変貌していく。この映画ってどう結末をつけるのか予測がつかなくなる。結局監督は国家に属する人物に対して悪い結果を生ませるようにしたかったのであろう。ただ、個人的には銃を隠した理由がいまだに「何でそんなことをするの?」という思いが強くモヤモヤした後味の悪い映画となってしまった。
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映画「愛を耕すひと」 マッツ・ミケルセン

2025-02-20 17:43:31 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「愛を耕すひと」を映画館で観てきました。


映画「愛を耕すひと」はデンマークの名優マッツミケルセンの新作である。ニコライ・アーセル監督の作品だ。毎回主演作を楽しみにしている。今回は18世紀のデンマークまで時代がさかのぼる。未開拓の荒れ地から作物がとれるように奮闘する元軍人を演じる。もともと「007カジノロワイアル」で名をあげたマッツ・ミケルセンはデンマーク映画だけでなく活躍している。古い題材だけど今回も楽しみだ。

1755年のデンマーク。ドイツ帰りの退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉(マッツ・ミケルセン)は、名誉ある「貴族の称号」を得るため、広大な荒野の開拓に挑む。土地を耕し、ドイツ仕込みのジャガイモを植える。それを知った有力者のフレデリック・デ・シンケル(シモン・ベンネビヤーグ)は土地は自分のものだと主張して保身のためケーレンを追い払おうとする。
シンケルの虐待に耐えられず逃亡した使用人のアン・バーバラ(アマンダ・コリン)や両親に捨てられたタタール人の少女が、ケーレンのもとに身を寄せるようになる。ケーレンは悪天候にも耐えながら作物実る農地へ変えようと悪戦苦闘する。


過酷な話だ。これが実話に基づくというのもすごい。
映画が進行していくにつれて感動が生まれる。
薄汚れたような色合いの空で包む広大な平原が続いている。その中の一軒家に住処を構える。善悪がはっきりしているので、ストーリーはわかりやすい。デンマーク王の許可を得て主人公は耕しているのに、悪玉は自分の土地だといってきかない。少しづつ栽培もうまくいって入植者たちの仲間もこの土地に来るが悪玉は邪魔する。これでもかとやることなす事すべて妨害されてケーレンは困難と背中合わせだ。人種差別もあって入植者の仲間たちが「南方の人間は不吉だ」といってケーレンと一緒に暮らすタタール人の女の子を追い出そうとするのだ。身内からの難題も解決しなければならない。


耐えしのぶマッツ・ミケルセンをみていると幼児のウソに翻弄される映画「偽りなき者」を連想する。あの時もやられっぱなしだった。元軍人で本当は強いところを見せる場面もある。最終的にはうまくいくんだろうなあと予測してみているが、悪玉から強烈な拷問を受けてもうだめかとも思ってしまう。

そんな時に予想もしない展開に動いていく。同居人のアンバーバラとタタール人の少女との交情がこの映画の見どころである。孤独なケーレンの最後に向けてのシーンは感動的だ。
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映画「トリリオンゲーム」 目黒蓮&シシドカフカ

2025-02-19 17:23:51 | 映画(日本 2022年以降 主演男性)
映画「トリリオンゲーム」を映画館で観てきました。


映画「トリリオンゲーム」稲垣理一郎の原作漫画を映画化した目黒蓮主演の東宝映画だ。監督は村尾嘉昭。いつもTOHOシネマのナビゲーターに出てくる福本莉子も映画ポスターにでかく顔が出ている。普通は観ないタイプの映画であるが、カジノが題材なのは気になる。香港デモとコロナでしばらくマカオに行けていないし、たまにはカジノを扱う映画が観てみたくなる。

融通の利かない日本人のせいで、日本のカジノリゾートができない。残念だ。そのためではないけど、吉本の芸人がオンラインカジノの件で例によってマスコミに傷み付けられている。妻が「競馬が良くてなんでオンラインカジノはダメなんだ」とようやく運をつかんだ吉本の芸人がかわいそうだと怒っている。TVで橋下徹も似たようなこと言っていた。ギャンブル中毒云々などと、とやかく言うやつの話を聞くのはどうかと思う。

とりあえず作品情報を引用する。日本でカジノができたらどうなるのかなあと観てみる。

世界最大企業の時価総額=1兆ドル。1兆ドルあれば、この世のすべてが手に入るーー。天性の人たらしで口八丁な”世界を覆すハッタリ男”のハル(目黒蓮)と、気弱だが心優しい”凄腕エンジニア”のガク(佐野勇斗)。
予測不能な作戦で成り上がってきた二人が、「1兆ドルを稼ぐ」ために手び動き出す。2016年にIR整備推進法案、通称「カジノ法案」が成立。 莫大な利益を生む夢とロマンを秘めた新事業に目を付けたハルは、 未だ誰も成しえていない「日本初のカジノリゾート」開発に乗り出す。野望のために、挑むターゲットは【世界一のカジノ王】!(作品情報 引用)


いかにも漫画チックなドタバタ劇だった。
そもそもTVドラマでやっていたことすら知らない。お調子者の若者とITの才能のある男の2人のコンビの設定は悪くない。一気に這いあがって高層の自社ビルを所有している。でもそんな巨大企業グループのトップに君臨する話自体があり得ない。まさに漫画っぽいなあ。自分の会社までカジノでオールインをして賭けてしまうなんてことは大王製紙の◯川さんだってやらない。フィクションもここまでいくとついていくのはむずかしい。

旧ジャニーズ系目黒蓮は色んな雑誌の表紙などでみるので見慣れてきた。アクションも時折見せるが、死に損なって生き還るのはオーバーだ。紅白歌合戦も韓流の男女ばかりよりもジャニーズ系が出てもいいと考えるので目黒蓮には期待する。マカオの金満カジノ王の石橋凌は英語のセリフも多い。とてつもない金額をポーカーで賭けるのには笑うしかない。


ただ、この映画でピカイチに光ったのがシシドカフカだ。長身でエキゾチックな風貌がカッコいい。顔立ちは范文雀と小池栄子を足して割った感じで似ている。眉毛が濃くボリューミーだ。SM女王的な存在で菜々緒のようなキャラだ。金満カジノ王の秘書的存在なのだが、カジノディーラーとして目黒蓮に対しても色気づいて少しづつ近づいていく。敵か味方かわからないルパン3世の峰不二子のような役をこなす。彼女だけはお見事だ。

観たことあるなと途中で気づく。映画「リボルバーリリー」綾瀬はるかの味方になって狙撃する見たことがなかったエキゾチックな女だ。とりあえず今田美桜と福本莉子が映画ポスターに前面に出ているがシシドカフカと比較すると大きく格が落ちる。俳優は本職ではないようだが、シシドカフカの今後の活躍に期待する。
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映画「セプテンバー5」

2025-02-16 19:20:25 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「セプテンバー5」を映画館で観てきました。


映画「セプテンバー5」1972年のミュンヘンオリンピックでのイスラエル選手団へのテロ事件を生中継しようとしたアメリカABC TVの現地スタッフの動きを描く映画である。当時中学生だった自分は日本選手の活躍ばかりに目がいって、テロ事件があったと知っていてもあまり気にしていなかった。遠くドイツでの出来事は日本人と関係ないことだと思っていたのかもしれない。もっと大人になってからユダヤ人とアラブの関係を知りこの出来事自体が重いことだと分かった。この事件のその後をたどった名作「ミュンヘン」はあるが、その時のABCの話は当然初めて聞く。

ミュンヘンオリンピックと言えば男子バレーボールである。オリンピックが始まる前から各選手と松平康隆監督のパフォーマンスをドラマ化した番組を当時の中学生はみんな見ていた。運良く金メダルとなったが、準決勝の試合でハラハラドキドキしていた。あとは、水泳では金メダルは無理だと日本人誰もが思っている時に田口、青木両選手が金メダルをとった瞬間だ。中学の仲間たちとみんな興奮した。その瞬間友人の家に集まって夏休みの課題を一緒にやっていた記憶がある。

1972年9月5日ミュンヘンオリンピックの現地クルーとして派遣されていたアメリカABC TVの拠点銃声が聞こえる。ABCの拠点は選手村のすぐ隣にあった。何かあったのか?とスタッフたちは最初は思っていたら、至る所から情報が入り事件と察知する。パレスチナ武装組織「黒い九月」による、イスラエル選手団を人質にするテロが発生したのだ。
制作担当者(ジョン・マガロ)はカメラを屋外に運び出して宿舎の部屋を映し出す。選手村内にも選手に変装したクルーの一人が検問を突破しフィルムを運ぶ。フィルムには覆面姿の犯人がくっきりと映る。現地にいるスポーツ局の責任者(ピーター・サースガード)は、事件が分かり「報道局に任せろ」という指示を拒否してCBSと交渉し通信衛星の時間枠を交換して生中継を続けるのだ。


緊迫感あふれる90分であった。
スピード感あふれて目が離せない場面が次から次へと続く。


ユダヤ対アラブの思想的な背景には触れずに、ひたすら超特ダネを追うTV局員たちを追う。局内のクルーを選手に化けさせて厳戒態勢の選手村に忍び込ませて映像を撮ったり、やれることはなんでもやる。果たして生中継として放送して良いのか?というTV局内のスタッフ同士の葛藤もある。銃をもった警察部隊が屋根にあがって侵入する場面を撮っていると警察が撮影を止めろとTV局の拠点に銃を持って踏み込んでくる。

誰も彼もが必死だ。その真剣度合いがこちらにも伝わってくる。
人質が解放されたという情報が流れる。それが真実という裏がとれていないうちに発表するかどうかの社内の葛藤も見どころのひとつ。歓喜にあふれた局内が一転悲報でどん底に落ちる。アップダウンが90分間続いていた。


クレジットトップはTV局の現地責任者を演じるピーター・サースガードで、メジャー俳優が出演しているわけでない。それでも個性あふれるTV局員をそれぞれに巧みに演じていた。俳優たちの動きに緊迫感を持たせたティム・フェールバウム監督の手腕が光る。昨年自分が傑作と評したドイツ映画「ありふれた教室」の主演レオニー・ベネシュが現地のドイツ語通訳役で出演していた。途中で気がついた。戦後ドイツの立ち位置を示す重要なセリフもあって今回も存在感がある役柄だった。
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映画「ドライブ・イン・マンハッタン」ショーン・ペン&ダコタ・ジョンソン

2025-02-14 20:52:21 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「ドライブ・イン・マンハッタン」を映画館で観てきました。


映画「ドライブインマンハッタン」は、タクシー運転手ショーン・ペンと乗客のダコタジョンソンの2人のやりとりが基調の新作だ。閉鎖的な室内劇は苦手な部類で、見て後悔することも多い。監督はクリスティホールだ。

今回はニューヨークケネディ空港からマンハッタンへの車窓の夜景も見られるとあって,しばらくニューヨークに行っていない自分は気になってしまう。ショーンペン「イントゥザワイルド」「プレッジ」などの監督作品を含めて好きな映画が多い。前週はあまり良い公開作品がなかったが,今週は目白押しで楽しみだ。その中でもこの映画を真っ先に観に行ってしまう。ダコタ・ジョンソン自らプロデューサーに名を連ねる作品で、タクシーの座席に浮かび上がるダコタジョンソンが美しい。

夜のニューヨーク、ジョン・F・ケネディ空港から一人の女性(ダコタジョンソン)がタクシーに乗車する。行き先はマンハッタンミッドタウン44丁目で定額料金だ。ちょっとしたきっかけで運転手(ショーンペン)と女性が会話を交わすようになる。

CPUの仕事をしている女性客は故郷のオクラホマに2週間ほど帰郷して帰ってきたところだ。恋人の男性から会いたいとチャットがひっきりなしに届く。どうしようかと迷っているうちに、運転手は恋人が既婚者であることを見抜く。運転手自らは2度の結婚を経験、どんな女性だったかと話をしている。会話が進んでいく中でクルマは事故渋滞に巻き込まれて止まってしまう。徐々に2人はお互いの過去の秘密を次々と暴露していく。


予想以上によかった。絶妙な会話劇である。
初老の域を過ぎつつある自分には実感として感じる部分が多くてつい腑に落ちる

今のニューヨークの中心部には高くて住めない。女性は大卒でCPU系の仕事をしている美貌のインテリだ。年齢をはっきり言わないが30前半だということがわかる。運転手はインテリ女が不倫をするケースをこれまでも見てきて、彼氏が既婚者と読む。彼氏の年齢層も含めて当たりである。運転手は2度結婚しているが、最初の妻はクルマの中でゲロ吐いたらしい。巨乳で愛らしい(sweet)だが頭の中は空っぽだと。


女性の携帯には彼氏から会ってすぐにもメイクラブしたいチャットがきている。運転手は慣れてきて卑猥一歩手前の会話にもなってくる。やがて不倫している既婚者の家族に子どもが3人いるなど話はどんどん突っ込んでいく。女性は心に傷を抱えている。二度と会うことがないと思うのか、女性の本音を運転手がカウンセラーのように聞き、的確な回答をしていく感じがいい。

アメリカの大学の学費は高く、日本のようにはいかない。大卒者の女性と一般男性の組合せによる会話の化学反応も見どころのひとつだ。少し古いけど、ジョントラボルタの「サタデーナイトフィーバー」にそんな対比があった。女性の彼氏との卑猥なチャットや会話があっても、それは本筋ではなくものすごくハートフルな会話が続く。

映画を観ていてまったく飽きることがない会話劇だ。しかも、それぞれのセリフに味がある。自分が生きてきたこれまでの人生に共通するような場面がいくつかあってアナロジーを感じる。

やがて高層ビルのネオンが見える夜のマンハッタンにイエローキャブは進んでいく。その場面を観て初めてニューヨークに降り立った時にマンハッタンの高層ビル群を見て感じた感動が蘇った。マンハッタンの街に入っても2人の会話が続いていた。そこで女性は驚くような告白をする。身の回りの誰にも話をしていない話だ。それは映画の重要事項で、ネタバレだから言えない。思わず息を呑む


運転手ショーンペンは、「日本に行きたい」と言う。理由は自動販売機で使ったパンティが売っているからだと言う。最近では見かけなくなった大人のオモチャ屋のそばなのかな?自分は実感なく思わず吹き出す。タクシー運賃はみんな現金払いだったけど、最近はカード払いが多くてチップが少なくなったと運転手は残念がる。

そんな運転手との会話で女性は気が紛れたんだろう。カード精算時にチップ欄に$500と打ち込む。おいおい75000円かよ。気前がいいなあと思いながら、映画を観て、後味がよくなるいちばんいい話だった。
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映画「ファーストキス」松たか子&松村北斗

2025-02-11 08:06:27 | 映画(日本 2019年以降主演女性)
映画「ファーストキス」を映画館で観てきました。


映画「ファーストキス」「花束みたいな恋をした」などの人気脚本家坂元裕二「ラストマイル」塚原あゆ子監督がコンビを組んだ松たか子主演のラブストーリーだ。監督脚本のそれぞれの作品は自分の好みで、松たか子の作品は相性のいい作品が多い。いい歳してもこんなラブストーリーの映画が観たくなる。公開初日に早速観にいくが、頭の整理がうまくいかずなかなか感想が書けない。普通だったらありえないファンタジー的作品をどう捉えるのか考えていた。

カンナ(松たか子)と夫の駈(かける)(松村北斗)は、結婚して15年経つ夫婦。子どもはいない。もともと研究者だった夫は転職後会社の付き合いが多くなりすれ違うようになる。お互いに限界と感じて離婚届にサインして夫が提出しようと家を出た。ところが、その日、駈は駅で線路に転落した子どもを助けようとして轢かれて亡くなってしまう。結局、カンナが後始末をすることになる。


舞台美術の仕事に復帰してカンナが首都高をクルマで走らせていると、突如15年前の夏初めて2人が出会ったリゾート地にタイムトラベルしてしまう。現在のカンナが出会ったのは29歳のかけるだ。まだ恐竜好きの研究者であった。かけるの担当教授(リリーフランキー)とその娘(吉岡里帆)と会話するかけるはまだ純粋でカンナの恋心がよみがえる。カンナはかけるの人生を変えていけば、事故死することがなかったのではないかと同じようなルートをたどって過去と現在の往復をするようになる。

歳を重ねても変わらない松たか子を観に行く映画だ。
結婚して15年夫婦関係が冷え切っているカップルがいる。子供はいない。離婚届を出そうとしたその日に夫は人助けをしようとして駅で事故死する。そんな夫が死なないように15年前初めて会った時に戻って懸命にがんばる松たか子がいじらしい。

吉永小百合は今年80歳なのに相変わらずCMや映画でも頑張る。60歳後半といってもおかしくないほど吉永小百合の美しさは変わらない。年齢層を大きく下げて同じように吉永小百合になりきれる女優がいるとすると、もしかして松たか子なのかもしれない。育ちはよく若い時から良い役に恵まれてきた。松たか子が40半ばの役と29歳の時の役の両方を演じている。当然20代後半の場面は特殊メイクないしは画面操作しているかもしれないが人気急上昇中の松村北斗と並んでも不自然さは感じない。デビュー当時のピュアで清純なイメージを維持する。お見事である。


同じ坂元裕二脚本の「花束みたいな恋をした」は自分の好きな映画である。たまにこういった日本人が演じるラブストーリーを見てみたくなる時がある。カップルの関係性が壊れるという意味では両作品同じだ。

この作品はファンタジーである。こんなことがあるわけではない。首都高速を運転して何度もその場所を通ったことがある三宅坂ジャンクション先のトンネルに入っていると気がつくと、15年前にタイムスリップする。ギクシャクして離婚届を出そうとする位まで悪化しているのに。15年前の相手を見つめると助けてあげたくなってしまう。そんな気持ちは素敵だな。


異論はあるかもしれないが、坂元裕二の脚本はこの映画では脇役の使い方があまりうまくなかった感じがする。吉岡里帆やリリー・フランキー、森七菜といった主役級の俳優が脇役で出演しているのに、全く存在感がないのが残念だ。同じ塚原あゆ子がメガホンをとっている「ラストマイル」は配役を活かすのが上手だった野木亜紀子の脚本だった。塚原あゆ子の力量は「ラストマイル」の方が発揮できたと自分は感じる。
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2024年キネマ旬報ベスト10を見て(外国映画)

2025-02-09 08:48:36 | 映画 ベスト
キネマ旬報ベスト10が発表された。
外国映画では10作のうち9作は観ていた。好き嫌いもあって感想を書いていない作品もある。
「オッペンハイマー」は順当で、完成度の高い「瞳をとじて」も当然の選出だ。
題名の下線は記事になります。

1 オッペンハイマー 
貫禄の1位である。アカデミー賞最優秀作品賞にも選ばれているし、クリストファーノーラン監督のここでの手腕で1位になること自体に不自然さは無い。問題はこれを半年以上日本で公開させなかった日本映画界にある。原爆開発を賞賛するのではなく水爆をもうやめようと言うオッペンハイマーの気持ちが強い映画だ。それなのにマスコミから揚げ足をとって追求されるのではないかと恐れていたのであろう。むしろ日本の映画会社に腹が立つ。この映画が好きかと言われるとそこまではない。結局第二次世界大戦すぐ後の冷戦に至る赤狩りに関する映画だった。


2 瞳をとじて 
傑作だと思う。ビクトルエリセ監督久々の作品でも脚本,ビジュアルいずれも重厚感があり、昨年見た映画の中で完成度が1番高い。貫禄の「オッペンハイマー」に1位を譲るとして、この場所で座るのは当然と感じる。「映画の中の映画」の手法を用いて、真実と虚実を混在させる。小津安二郎監督得意の切り返しショットを切り返すたびごとに都度俳優の表情を遠近や方向を変えたショットで映し出していく。濱口竜介も指摘していたカメラワークの巧みさも最上級の腕前だ。

先日何気なく雑誌「スクリーン」を立ち読みした。同じように年間ベストテンを発表していた。それぞれの記者がベストテンを選んでいるのを改めて見たら,この「瞳をとじて」を選んでいる選者がわずかしかいなかった。驚いた。見ていないのかな?レベルが低いなとと感じる。


3 関心領域 
ナチスのユダヤ人強制収容所を扱った映画は多い。悲惨な境遇を映し出す映画だ。「シンドラーのリスト」が代表作であろう。この映画ではその収容所の隣に隣接する収容所の所長の自宅が舞台だ。当然、収容所内の悲惨の姿は映さない。でも,不穏な音がずっと鳴り響いている。塀の向こうで煙も上がっている。収容所の所長の夫人がこの地にもう少しいたいと言っている。結局のところ、彼女は中で何が行われているのかを知らない。何かを感じる人も多いのかもしれないが,個人的には普通に見える。


4 哀れなるものたち 
これも傑作である。エマ・ストーンの熱演は当然のごとくアカデミー賞主演女優賞を受賞となる最高レベルである。難易度の高い役をよくぞこなした。痴女になり切るエマ・ストーンは当然裸になると同時に娼婦の役など怪しい役もこなしまくる。美術、ヴィジュアルは凝っていて、セット中心の美術,的確な編集,ゴージャスな衣装などヨルゴスランティモス監督の手腕がすごい。映画としてのレベルが高い。ケインズの美人投票的観点で作品を選ぶなら当然ピックアップする作品である。自分が本当に好きかと言われると、昨年はアメリカ映画の娯楽的なものを見たい気分が強かったので、この映画を選んでいない。


5 ファーストカウ 
この映画を観たのが2023年12月なので、このリストに入っているとは意外である。12月末の会う時期に線が引かれているのかもしれない。ここまで評価される映画なのかと感じる。沈滞ムードが好きなネクラな選出者が多いのであろうか?基本的には盗みの映画だ。人の牧場に侵入して牛の乳をとりドーナツにして売る話なんだよなあ。あと、この時代に中国人がこの片田舎の場所にいるのか不自然と感じていた。時代考証がほんとにこれでいいのかなと感じたりツッコミだらけだったのでうーんと思ってしまう。


6 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ 
自分が好きな映画の1つに選んでいる。同時にキネマ旬報で当然10番以内に入ると思っていた作品であった。周囲の評判も良い。もともと嫌味っぽい教師だった男が生徒をかばって正義感を発揮する。いい奴に変身する。アメリカ版人情物映画と言っていいだろう。ユーモアあふれるアレクサンダーペイン監督のうまさが光る。「サイドウェイ」からのコンビであるポール・ジアマッティとの相性もいい。脇役の使い方も上手だ。ボストンの街を細かく映し出すと同時に雪の中の校舎の描写は美しく快適な時間を過ごせた。


7 シビルウォーアメリカ最後の日 
周囲の評価は高いが、個人的には面白くなかった。感想もアップしていない。題名その他から想像すると、V FXを使ったホワイトハウス周辺での戦闘映画かと想像していたがまったく違った。キルスティン・ダンスト演じるカメラマンをフィーチャーして,国内の内戦で荒廃しきったアメリカ国土を移動する話である。ゲリラ的な銃撃戦こそあれど題名と映画の内容に強いギャップがあった。スパイダーマンのキルスティングダンスとも中年になり演じる題目が変わってきた。


8 夜の外側_イタリアを震撼させた55日間 
上映時間の長さに尻込みして見ていません。マルコベロッキオの前作は良かったしそれなりのレベルなんでしょうが。


9 落下の解剖学 
アカデミー賞でも脚本賞を受賞して、前評判の高いフランス映画だった。ドイツ人に英語のセリフを話させる。スリリングなミステリーでよくできている作品だ。一面の銀世界の中に立つ山荘で亡くなった夫が事故死なのか、他殺なのかと言う事実を追っていく。法廷モノでもある。証人が証言する途中で、裁判長の指名がなくても、被告人、弁護人、検察官がフリートークのように割り込んで発言する。日本と裁判事情が違って意外に思った。映画の途中で自殺、妻による殺人と優位が常に変わっていくので結末が読みづらい。主演女優ザンドラ・ヒュラー「関心領域」にも妻役で出演していた。


10 フライミートトゥザムーン 
この選出は意外だった。前年はいかにもアメリカ資本らしい娯楽性あふれる作品が多かった。自分の好きな映画には「チャレンジャーズ」などいくつもピックアップしたら、残念ながらキネマ旬報ベストテンには入っていない。その中でフライミートゥーザムーンが入ってくるのは意外だった。スカーレット・ヨハンソンは長い間自分が追いかけている好きな女優であるが,題材的に好きになれないのかもしれない。


ベスト10に入ると思っていた「ありふれた教室」はベスト10入ると思ったがもれたのは意外に思えた。
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2024年キネマ旬報ベスト10を見て(日本映画)

2025-02-07 19:57:49 | 映画 ベスト
キネマ旬報ベスト10が発表された。
日本映画の10作はすべて観ているし、感想も書いている。例年この時点ですべて観ているのではなく、1作から2作は発表時点で見てない作品がある。今回は珍しい。年末自分なりに好きな作品を10作ほど並べてみたが、この中に4作あった。


1位は「夜明けのすべて」であった。三宅唱監督は「ケイコ目を澄まして」に引き続いての1位となる。正直言って1位は意外だった。きわどい部分がない健全なストーリーの流れでいかにも文化庁好みである。それゆえに物足りないと思う人もいるだろう。良い映画である事は異論がない

主人公2人の松村北斗と上白石萌音が勤める科学グッズをつくる会社「栗田科学」は光石研が社長を演じた。その会社が持つムードが暖かい雰囲気でよかった。主演2人がパニック障害の症状を起こす場面が他の場面とかなりのコントラストがあり印象に残る。松村北斗松たか子との共演で「ファーストキス」が公開したばかりですぐ観た。上白石萌音はこのところ絶好調である。天海祐希主演の映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」でめずらしく悪役を演じた。それが意外性もあり、よく見えた。


2位「ナミビアの砂漠」がこんなに評価されとは思わなかった。河合優実演じる自由奔放な20代そこのそこの女性の物語である。紅白歌合戦にも出た河合優実ブームはまだ続いている。以前から注目していたのが、ここで周囲より頭一歩上に出た。実は自分のブログでこのところアクセスが最も多いのが「ナミビアの砂漠」だ。旧作の「傷だらけの天使」「遠雷」などが自分のブログでアクセスが多いが近年の作品ではずば抜けて多い。なぜなんだろう?


別に濱口竜介が嫌いなわけではない。でも3位「悪は存在しない」は全くいいと思わなかった。海外で賞を受賞しているので、下馬評は高かった。それなので期待を裏切られた。まぁこんなこと言うのは自分だけかもしれない。

でもこの作品が3位になって、柔道などの格闘技における「名前勝ち」みたいなものと感じる。高校の時に柔道をやっていた時に大体同じ位の力で制限時間を戦って判定で優劣を決める場合がある。だいたい有名校の選手か有力選手が勝つ。それと同時に、全日本クラスの試合でもほぼ優劣が微妙であったら名前勝ちがよく見られた。日本柔道が弱くなったのもそんな際どい世界があるからだ。考え方が極端かもしれないが、三宅の1位,濱口竜介の3位には実力者と認めるが同様のことを感じる。


「Cloudクラウド」「ぼくのお日さま」は同点4位であった。黒沢清は玄人筋からも評価の高い監督であるが、自分からするとよく見えない作品もある。「スパイの妻」などは時代考証がむちゃくちゃで全然面白くない。それに比べてこの「クラウド」はツッコミどころは多数あっても、恐怖感をうまく醸し出していて面白かった。謎の男奥平大兼の使い方がうまかった。


「ぼくのお日さま」は思春期になろうとする10代前半の少年少女が実に自然で良い演技をしてくれた。2人はキネマ旬報新人賞を共に受賞している。特にフィギュアスケーターの女の子中西希亜良はセリフ少なく、素人ぽさを残しながらも抜群によかった。コーチ役だった池松壮亮もうまく支えていた。目線を10代にまで落とすと色んなことが脳裏に浮かぶ。「going out of my head」をバックに湖で滑るシーンは個人的に最高の快感を覚えた。


6位の「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は胸に沁みるいい作品だった。傑作「そこのみにて光り輝く」呉美保の作品だ。耳の聞こえないことで生じる小さいエピソードを数多く編集でまとめた。やさしさにあふれるろうあ者の母親役忍足亜希子がキネマ旬報助演女優賞を受賞したのは良かったと思う。吉沢亮飲みすぎでやらかしてしまって、コマーシャルが停止になったり若気の至りでは済まされないことになった。でも先日、「そんなことで上映停止はないだろう」とこの映画をあえて上映する記事を読んだ。映画は別に吉沢だけで作っているわけではない。最近のご時世は不祥事に厳しすぎて余裕のない日本社会になった。


7位「ルックバック」は短い上映時間だけど、登場人物への愛情がこもった良い作品だった。「ハケンアニメ」などの漫画家として大成しようと奮闘努力する映画は相性がいい不登校で引きこもりだった純朴な主人公の悲劇が今思っても辛い。ここまで感情移入して登場人物を応援したくなる作品はあまりない。河合優実はここでも吹替で登場する。まさに人気絶頂だ。


8位「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」は、前作に引き続いてよかった。しかし年末に10作選ぶときにこの作品があることをすっかり忘れていた。若松孝二監督ばりの東北弁を井浦新が巧みに真似するパフォーマンスはおかしくて仕方ない。映画観てる間、笑いまくった記憶がある。ピックアップし忘れたのは井上淳一監督のふだんの左翼発言が好きでないからかもしれない。対談などコメントで読む井上の発言は気に入らないことだらけでも、この映画で正直見直した

おっと「映画芸術」では1位だ。これは荒井晴彦の子分である井上淳一に花をもたせたな。


9位「ラストマイル」は興行的にはこの10作の中で最も興行収入は多かったであろう。適度にお金がかかっていて、題材も現代的で映画に引き込まれていった。アマゾンを連想する集配センターが舞台になったミステリーである。現代のアップデートな話題で意外感もあり展開が予測と違った方向に進んでいくのもよかった。野木亜紀子の脚本が絶妙だ。娯楽作品として楽しめると思う。TVで活躍の塚原あゆこ監督は今絶好調で公開まもない「ファーストキス」でもメガホンをとる。


10位「あんのこと」は赤羽周辺を舞台に河合優実がドツボになった女の子を演じた。映画としては実によくできていたし、河合優実の好演もさることながら,母親役の河井青葉娘に売春を強要させるめちゃくちゃな女を演じて実にうまかった。ハッピーエンドでなくあまりにもどん底すぎて気が滅入ってしまうのを好きと言うのは迷ってしまった。10位以内にふさわしい良い作品だと思う。


経済学者ケインズは株式投資に関する美人コンテスト投票理論を名著「雇用、利子及び貨幣の一般理論」で記述した。「自分の好みで美人だと思う女性を選ぶのではなく,他の人から見てコンテストで選ばれる女性をピックアップするように株式銘柄を選択せよ」という理論だ。あくまで年末自分の好みの10作を選んだまでで、コンテストを主眼に置いて予想すると「あんのこと」「悪は存在しない」は入ってくると思っていた。しかし、逆にその濱口竜介の作品を除いてはすべて好感を持った作品だった。

一つだけ残念なのは自分がいちばん好きだった「青春18×2 君へと続く道」が順位100番台だったこと。評点を与えていたのは川本三郎先生だけだったのが少しだけうれしい。
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映画「リアルペイン」 ジェシーアイゼンバーグ&キーランカルキン

2025-02-04 21:22:52 | 映画(洋画:2022年以降主演男性)
映画「リアルペイン」を映画館で観てきました。


映画「リアルペイン」ジェシーアイゼンバーグ自ら主演監督脚本を務める新作だ。ポーランドでナチス迫害の痕跡を辿るツアーに従兄弟と参加する数日間の体験を追っていく。ジェシーアイゼンバーグと言えば「ソーシャルネットワーク」でFacebookのマークザッカーバーグを演じた時の早口言葉が頭に刻み込まれている。正統派俳優とは違うキャリアを歩んでいる。ポーランドが舞台となると、第二次世界大戦中あるいは戦後を扱う作品が多い。なので現代ポーランドのことはよくわかっていない。多分一生行くことのないこの地をよく見てみたい気になる。

ニューヨークに妻子と暮らすデヴィッド(ジェシー・アイゼンバーグ)といとこのベンジー(キーラン・カルキン)は、亡くなった祖母の祖国ポーランド第2次世界大戦の史跡ツアーに参加する。ツアーには英国人のガイド。定年間もないアメリカ人夫婦に、離婚したばかりの女性。ルワンダで虐殺を経験してユダヤ教徒に改宗した男性が参加している。


変わり者のベンジーは自由奔放な発言と自分勝手な行動で周囲を惑わす。ワルシャワからナチスドイツに迫害された人々の旅路を体験するというツアーを巡りユダヤ人の収容所で絶句して祖母の住んでいた家まで訪れる。

短編小説のような味わいの映画で飛び抜けて何かあるわけではない。
欧州らしい街並みを観ているのは気分がいい。名所を闊歩する俳優たちも楽しそうだ。移動する列車から見た車窓の景色もよく日本では無くなった食堂車もある。バックで流れるのはショパンのピアノ曲だ。おなじみのピアノソナタが流れ続ける。ワルシャワの空港はショパン空港というらしい。初めて知る。


ただ、映画を見ているうちに、いとこのベンジーが勝手な発言をしたり、団体行動なのに突飛な行動でムカついてくる。なんだコイツと思うと、映画を観ていて腹立たしくなる。ベンジーは一等車の移動なのに、辛い思いをした先人の気持ちを味わえないと座席の移動をしたり、到着駅に着いたのにわざと寝ているいとこを起こさない。ツアーガイドにも、観光名所を回るのはいいが、現地のポーランド人との触れ合いがないとやたらクレームをつける。

なんだ空気の読めないやつだと思った。でも、なんといとこのベンジーを演じたキーラン・カルキンが今年のゴールデングローブ賞で助演男優賞を受賞した。アカデミー賞でも候補だ。映画見終わって知り驚く。観客の自分をむかつかせるほどのパフォーマンスが受けたのではなかろうか?直近に睡眠薬事件も起こして心に痛みのある現代人の憂うつも表現したとも感じる。最後の空港でいとこと別れた後の場面に哀愁を感じた。


このベンジーの発言は脚本のジェシーアイゼンバーグが感じたことを代弁している気もした。ポーランドにルーツを持つジェシーはたびたびポーランドに行っているようで、同じような体験をして感じたことを映像にしているんだろう。ポーランドのユダヤ人収容所の場面は観ていて心が痛む。ポーランドはソ連とドイツの挟み撃ちで両国にいいようにされた。ジェシーアイゼンバーグ「ソーシャルネットワーク」で初めて彼を知った時と同様の早口言葉が健在だった。
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映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」ペドロ・アルモドバル&ティルダ・スウィントン&ジュリアン・ムーア

2025-02-02 17:15:29 | 映画(洋画 2022年以降主演女性)
映画「ザ ルーム ネクストドア」を映画館で観てきました。


映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」は毎回欠かさず観ているスペインの鬼才ペドロアルモドバル監督の新作である。2024年ベネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した。待ちに待った新作で英語圏では短編映画「ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ」はあっても長編は初めて。初日に映画館に向かう。ティルダ・スウィントンとジュリアン・ムーアの2人の大物女優を起用して、末期がんで死に向き合う女性と付き添う女性を中心に映し出す。ペドロアルモドバルらしい奇抜な発想を期待する。

作家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)は、友人からかつての親友でNYタイムズの戦場記者だったマーサ(ティルダ・スウィントン)がガンであることを知らされる。早速彼女のもとへ駆けつけ、長く会っていない時間を埋めるように病室で語らう。


自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、「その日」が来る時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。マーサにはベトナム戦争退役後に幻覚に囚われた若き日の恋人との間に生まれた娘ミシェルがいた。結婚せずにシングルマザーとなって育てたが、娘への愛情がなく距離を置いて暮らしている。


当初はためらったがマーサの最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中にある小さな家の隣室に移り住む。そして、マーサは「ドアを開けて寝るけれどもしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいない」と告げて最期の時を迎える彼女と暮らす。

ペドロアルモドバル作品らしく赤や緑の原色を基調にした色彩設計は完璧である。死に向かうという陰湿さと悲壮感が抑えられている。
不安を増長するアルベルト・イグレシアスの音楽も映像にマッチしてすばらしい!


インタビュー記事(ユリイカ2月号)によると、これまでペドロアルモドバルにはアメリカから企画が何度も持ち込まれたようだ。当然だろう。ペトロアルモドバルは「英語で映画を作るのに適した題材を見つける」ことを待ち望んでいた。今回原作となるシーグリッドヌーネスの小説を気に入り、それならとアメリカで撮影することとなる。

死と向かいあう主人公にはティルダスウィントンを指名して快諾を得られる。それと同時にティルダスウィントンに相手役の指名を依頼して、ジュリアンムーアが共演することになった。この2人の大女優がペドロアルモドバルの期待に応えている。そして高いレベルの作品になった。

色彩設計の美しさには定評のあるペドロアルモドバル作品でも、今回はこれまで以上に赤の使い方が上手い。移動する車が赤いトラックだったり、室内のインテリアでも赤のドアが使われる。補色となる緑などの色を対比させて衣装、調度品、美術に最高峰のレベルで臨む。ティルダスウィントンによれば、お互いの衣装に触発されるし、テンションもあがる。色合いは演技にもいい影響を与えているようだ。


ビビったのはティルダスウィントンが死を覚悟して服を着替える時、イエローのセーターを着て真っ赤な口紅を塗った時の色合いの美しさ。表情はクールだ。歳を重ねても自分もこんな原色で派手な感じに身を包み死に向かいたい欲望が出てきた。

女性色の強い映画でもワンポイントで男性を登場させる。
ゲイをカミングアウトするペドロアルモドバル作品では必ずホモセクシャルの話がでてくる。ここではイラク戦争にマーサがNYタイムズの戦場記者としていくシーンで、一緒に同行する記者と現地人男性との関わりがでてくる。

死後の処理で要らぬ疑いが起きないようにイングリッド(ジュリアンムーア)が旧知の男性に会う。ジョンタトゥーロが演じる。自殺幇助に関わったと警察から疑われるのを予測してイングリッドが周到に手を打つ。死を見守る受け身の立場だったイングリッドが見せた積極性である。そしてその後クライマックスに向かう。


若干ネタバレだが
ラストに向けてはマーサの娘ミシェルが満を持して登場する。髪は長く、メイクは華やかで女性的だ。アレ?ティルダスウィントンの娘って女優だったのか?とふと思うくらい似ている。振る舞いは母親同様クールで落ち着いている。これって1人二役だったの?と映画の終わりかけに気づく。結果そうだった。似たような人物を映画に放って観客を惑わすペドロアルモドバル流だと気づき感嘆する。
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