映画「35年目のラブレター」を映画館で観てきました。
映画「35年のラブレター」は読み書きができずに65歳にして夜間中学に通うようになった夫を笑福亭鶴瓶が演じ、その妻を原田知世が演じる人情物語だ。監督・脚本は塚本連平。これも観る予定はなかったが、映画好きの飲み仲間から「この話が実話に基づくというのはすごい」との推薦を受けて観ることにした。観客の笑いをとる笑福亭鶴瓶の演技は毎回うまいし、前作「あまろっく」も良かった。若き日の夫婦を目下絶好調の上白石萌音と重岡大毅が演じている。
1999年、奈良で寿司職人をしている西畑保(笑福亭鶴瓶)と長く連れ添う皎子(原田知世)の夫婦には2人の娘がいて保はもうすぐ65歳になる。寿司職人を定年で辞めることになっていた。保は小学校を中退したために読み書きができなかった。
1964年、保(重岡大毅)は職を転々とした後で現在でも働く寿司屋の大将(笹野高史)に引き取ってもらい職人の道を歩むことになった。そして1972年、常連客の勧めで皎子(上白石萌音)とお見合いをすると一目惚れして結婚した。しかし、読み書きができないことは皎子に話をしていなかった。結婚して半年経った時、回覧板に自筆で署名する機会があって、妻に文字が書けない秘密がバレてしまった。保がまずいと思った瞬間に「今日から私があなたの手になる」と助け舟を出してもらいその後幸せな夫婦生活を送る。
2000年、保は地元に夜間中学を見つけて教員の谷山(安田顕)に相談してみる。すると温かく励まされ読み書きから学ぶことになった。寄り添い支えてくれた皎子へ感謝のラブレターを書きたいことが入学のきっかけだった。そして2007年、保はついに妻への手紙をしたためることができるようになる。
いかにも人情モノの題材で、鶴瓶をはじめとした俳優の演技も良かった。ただ、映画の構成は間延びしてしまいムダが多すぎる印象をもった。
近鉄電車の車両とお寺で奈良だとすぐわかる。五重塔や鹿も映し出す。歴史がある町なので道路が狭い。主人公の夫婦は関西特有の文化住宅に住む。奈良が舞台の映画を見るのはめったにないので逆に新鮮だ。
キャスティングは絶妙で、笑福亭鶴瓶はまさに適役だ。関西弁でいつもながら笑いをとる。読み書きができない頃、魚の絵に呼応する鰯(イワシ)の字を表示を見ても寿司職人なのに読めない。魚と弱の字が組み合わさっていると言うと、「イワシは腐りやすい」と鶴瓶が反応する。他の俳優がこのセリフを話すと中途半端になる。辛いの文字に一本線を引くと幸せになるというセリフも良かった。
和歌山の山村の生まれで小学校でいじめに遭い不登校でそのまま字が読めない。若き日の苦しい時代、重岡大毅演じる保が文字も読めず不器用に彷徨う。それでも最愛の妻との出会いと新婚シーンは微笑ましい。一緒に中華料理屋に行ってもメニューの文字が読めないので適当に頼むとスープばかり来てしまうシーンはおかしい。上白石萌音とは「溺れるナイフ」で共演している。この時も重岡はジャニーズ系なのにコミカルなキャラを披露して良かった。鶴瓶と重岡大毅が似てないとツッコむ必要はないだろう。
一方で原田知世の奥さんぶりがいい。ここでは孫もいる役柄だ。役柄では年齢を重ねて70代をゆうに超えている。夫よりも早く亡くなる役柄はこれまでないだろう。「時をかける少女」の頃から見ているので、素敵な大人になったなと感じる。「私をスキーに連れて行って」、「彼女が水着に着替えたら」時代のキュートさはないが笑顔に親しみを感じる。キネマ旬報1位だった「ペコロスの母に会いに行く」での娼婦役はあえての挑戦だろうけど合わない。清純で澄み切ったイメージをキープしてほしい。
上白石萌音の持つやさしさが生きる役柄だ。重岡大毅演じる保を懸命に支える。保が働く店のカウンターで握る寿司を食べながらおいしいと微笑む姿がかわいい。父親が字を書けなくて子どもたちが戸惑う時も「お父さんは日本一の寿司職人だ」と言い切る。いかにも浪花のど根性物語にお似合いのセリフだ。
それにしても西畑保さんは65歳にして決意してよくぞ夜間中学に20年も通ったものだ。小学校入学レベルからのスタートは確かに時間がかかる。ラブレターを書けるまでまで7年かかった。山田洋次監督「学校」という夜間中学での教員と生徒のふれあいを描いた名作がある。在日の人や字の書けない中年田中邦衛をクローズアップして、西田敏行や竹下景子の教員が対応する。いい映画だ。古い映画なので映画ファンを除いては記憶に薄いだろう。直近は外国人の移住による多国籍化で夜間中学に通う人は増えているだろう。いい時期に公開された。