映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

2024年キネマ旬報ベスト10を見て(日本映画)

2025-02-07 19:57:49 | 映画 ベスト
キネマ旬報ベスト10が発表された。
日本映画の10作はすべて観ているし、感想も書いている。例年この時点ですべて観ているのではなく、1作から2作は発表時点で見てない作品がある。今回は珍しい。年末自分なりに好きな作品を10作ほど並べてみたが、この中に4作あった。


1位は「夜明けのすべて」であった。三宅唱監督は「ケイコ目を澄まして」に引き続いての1位となる。正直言って1位は意外だった。きわどい部分がない健全なストーリーの流れでいかにも文化庁好みである。それゆえに物足りないと思う人もいるだろう。良い映画である事は異論がない

主人公2人の松村北斗と上白石萌音が勤める科学グッズをつくる会社「栗田科学」は光石研が社長を演じた。その会社が持つムードが暖かい雰囲気でよかった。主演2人がパニック障害の症状を起こす場面が他の場面とかなりのコントラストがあり印象に残る。松村北斗松たか子との共演で「ファーストキス」が公開したばかりですぐ観た。上白石萌音はこのところ絶好調である。天海祐希主演の映画「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」でめずらしく悪役を演じた。それが意外性もあり、よく見えた。


2位「ナミビアの砂漠」がこんなに評価されとは思わなかった。河合優実演じる自由奔放な20代そこのそこの女性の物語である。紅白歌合戦にも出た河合優実ブームはまだ続いている。以前から注目していたのが、ここで周囲より頭一歩上に出た。実は自分のブログでこのところアクセスが最も多いのが「ナミビアの砂漠」だ。旧作の「傷だらけの天使」「遠雷」などが自分のブログでアクセスが多いが近年の作品ではずば抜けて多い。なぜなんだろう?


別に濱口竜介が嫌いなわけではない。でも3位「悪は存在しない」は全くいいと思わなかった。海外で賞を受賞しているので、下馬評は高かった。それなので期待を裏切られた。まぁこんなこと言うのは自分だけかもしれない。

でもこの作品が3位になって、柔道などの格闘技における「名前勝ち」みたいなものと感じる。高校の時に柔道をやっていた時に大体同じ位の力で制限時間を戦って判定で優劣を決める場合がある。だいたい有名校の選手か有力選手が勝つ。それと同時に、全日本クラスの試合でもほぼ優劣が微妙であったら名前勝ちがよく見られた。日本柔道が弱くなったのもそんな際どい世界があるからだ。考え方が極端かもしれないが、三宅の1位,濱口竜介の3位には実力者と認めるが同様のことを感じる。


「Cloudクラウド」「ぼくのお日さま」は同点4位であった。黒沢清は玄人筋からも評価の高い監督であるが、自分からするとよく見えない作品もある。「スパイの妻」などは時代考証がむちゃくちゃで全然面白くない。それに比べてこの「クラウド」はツッコミどころは多数あっても、恐怖感をうまく醸し出していて面白かった。謎の男奥平大兼の使い方がうまかった。


「ぼくのお日さま」は思春期になろうとする10代前半の少年少女が実に自然で良い演技をしてくれた。2人はキネマ旬報新人賞を共に受賞している。特にフィギュアスケーターの女の子中西希亜良はセリフ少なく、素人ぽさを残しながらも抜群によかった。コーチ役だった池松壮亮もうまく支えていた。目線を10代にまで落とすと色んなことが脳裏に浮かぶ。「going out of my head」をバックに湖で滑るシーンは個人的に最高の快感を覚えた。


6位の「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は胸に沁みるいい作品だった。傑作「そこのみにて光り輝く」呉美保の作品だ。耳の聞こえないことで生じる小さいエピソードを数多く編集でまとめた。やさしさにあふれるろうあ者の母親役忍足亜希子がキネマ旬報助演女優賞を受賞したのは良かったと思う。吉沢亮飲みすぎでやらかしてしまって、コマーシャルが停止になったり若気の至りでは済まされないことになった。でも先日、「そんなことで上映停止はないだろう」とこの映画をあえて上映する記事を読んだ。映画は別に吉沢だけで作っているわけではない。最近のご時世は不祥事に厳しすぎて余裕のない日本社会になった。


7位「ルックバック」は短い上映時間だけど、登場人物への愛情がこもった良い作品だった。「ハケンアニメ」などの漫画家として大成しようと奮闘努力する映画は相性がいい不登校で引きこもりだった純朴な主人公の悲劇が今思っても辛い。ここまで感情移入して登場人物を応援したくなる作品はあまりない。河合優実はここでも吹替で登場する。まさに人気絶頂だ。


8位「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」は、前作に引き続いてよかった。しかし年末に10作選ぶときにこの作品があることをすっかり忘れていた。若松孝二監督ばりの東北弁を井浦新が巧みに真似するパフォーマンスはおかしくて仕方ない。映画観てる間、笑いまくった記憶がある。ピックアップし忘れたのは井上淳一監督のふだんの左翼発言が好きでないからかもしれない。対談などコメントで読む井上の発言は気に入らないことだらけでも、この映画で正直見直した

おっと「映画芸術」では1位だ。これは荒井晴彦の子分である井上淳一に花をもたせたな。


9位「ラストマイル」は興行的にはこの10作の中で最も興行収入は多かったであろう。適度にお金がかかっていて、題材も現代的で映画に引き込まれていった。アマゾンを連想する集配センターが舞台になったミステリーである。現代のアップデートな話題で意外感もあり展開が予測と違った方向に進んでいくのもよかった。野木亜紀子の脚本が絶妙だ。娯楽作品として楽しめると思う。TVで活躍の塚原あゆこ監督は今絶好調で公開まもない「ファーストキス」でもメガホンをとる。


10位「あんのこと」は赤羽周辺を舞台に河合優実がドツボになった女の子を演じた。映画としては実によくできていたし、河合優実の好演もさることながら,母親役の河井青葉娘に売春を強要させるめちゃくちゃな女を演じて実にうまかった。ハッピーエンドでなくあまりにもどん底すぎて気が滅入ってしまうのを好きと言うのは迷ってしまった。10位以内にふさわしい良い作品だと思う。


経済学者ケインズは株式投資に関する美人コンテスト投票理論を名著「雇用、利子及び貨幣の一般理論」で記述した。「自分の好みで美人だと思う女性を選ぶのではなく,他の人から見てコンテストで選ばれる女性をピックアップするように株式銘柄を選択せよ」という理論だ。あくまで年末自分の好みの10作を選んだまでで、コンテストを主眼に置いて予想すると「あんのこと」「悪は存在しない」は入ってくると思っていた。しかし、逆にその濱口竜介の作品を除いてはすべて好感を持った作品だった。

一つだけ残念なのは自分がいちばん好きだった「青春18×2 君へと続く道」が順位100番台だったこと。評点を与えていたのは川本三郎先生だけだったのが少しだけうれしい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「リアルペイン」 ジェ... | トップ | 2024年キネマ旬報ベスト10を... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画 ベスト」カテゴリの最新記事