『柔術の遺恨』(敬文舎)は細川呉港氏の力作です。記録文学の傑作です。
90年の時を経て今明らかになる柔道創成期の隠された葛藤を詳しく分かり易く書いた記録です。美しい文章でつづった作品です。
今日はこの「柔術の遺恨」の内容をご紹介したいと思います。あわせて私の感想も書こうと思います。
(1)『柔術の遺恨」の概要を示します。
講道館の高段者をすべて破るも、嘉納治五郎に技を禁止され、不遇をかこった「柔術家田辺又右衛門」の一代記です。
又右衛門の口述筆記4冊が、明治~昭和の武道界のようすや、又右衛門と嘉納治五郎とのやり取り、講道館の高段者との試合の詳細を具体的に伝えているのです。
おそらくこうした記録作品は今までにも例がないと思います。
1番目の写真は細川呉港著、『柔術の遺恨』(敬文舎)の表紙です。
現在、アメリカには柔術の道場と柔道の道場の両方があります。ところが柔術の道場は柔道の道場の10倍もあるのです。
南米も同じように柔術の道場が圧倒的に多いのです。
この本を正しく理解するためには柔術と柔道の違いを明確に分かる必要があります。
(2)柔術と柔道の違い
柔術は日本の伝統的なもので立ち技より寝技を重視します。
柔道は嘉納治五郎が柔術の寝技よりも立ち技を重視して作った柔術の一派で、それを柔道と名づけました。
日本では講道館の柔道が普及しており伝統的な柔術は普及していません。
しかし海外では逆転しているのです。南米の様子を紹介致します。
(3)ブラジリアン柔術と柔道は何が違うのか?
(https://bohemians-bjj.com/2020/09/01/jiujitsujudo/ )
1.技の数が全然違う!
柔道の技は100種類と講道館柔道では規定されています。一方ブラジリアン柔術はなんと数千種類の技があると言われています。
2.実は道着が全然違う!
柔道は袖や裾なども含め、全体的な作りが太めになっています。それに対し、柔術着はタイトな作りのものが多く、細身でスマートな見た目のものが多いです。柔術着は自由度が高いため、ファッション性の高いデザインのものも多くあります。
3.頭脳の使い方が全然違う!
柔道の時はまさしく格闘技といった野性味が溢れています。一方柔術では少しクレバーな試合運びです。柔術は体で行うチェスやパズルゲームと言われるほど、ゲーム性が高いことが特徴です。このように、ゲーム性と自由度の高さにより、飽きがこないところが、ブラジリアン柔術の魅力でもあります。
4.怪我のリスクの違い
柔道は立ち技から投げて畳に叩きつける。という練習をするため、34年間で120人くらいの部活生が練習中に亡くなっています。後遺症の残る怪我も多いでしょう。
一方ブラジリアン柔術は寝技中心で、関節技や絞め技を中心に構成されているので、技が極まる前に、まいったをしたら、そこで相手は技を解くルールがあります。
なので、気がついたら地面に叩きつけられる柔道よりも、圧倒的に怪我のリスクが低いのが特徴です。働きながら習うサラリーマンや女性にも人気の格闘技として、世界で注目されています。
(4)柔道はオリンピックの種目、しかし柔術は違う
柔道はオリンピック競技であり、ブラジリアン柔術はまだまだ新興の格闘技、武道です。
しかし海外ではオリンピック柔道家も寝技強化のためにブラジリアン柔術を取り入れたり、その垣根はどんどん取り払われています。
なお柔術と柔道はルールも違い勝敗の判定の仕方も違います。
(5)『柔術の遺恨』で強調している事実
柔術と柔道の違いが分かれば『柔術の遺恨』で強調している事実を正しく理解できます。
この本では柔術家の田辺又右衛門の苦悩の一生を描いています。柔道を提唱した嘉納治五郎によって苦しめられた一生です。
日本人は嘉納治五郎を知っています。しかし田辺又右衛門は知りません。
何故田辺又右衛門は忘れられたのでしょうか?
この本が主張したいことは田辺又右衛門のように愚直にそして誠実に生涯を送ることの重要さだと思います。
それはたとえ人々に忘れられても理想の生涯なのです。この事実を細川呉港氏は言いたかったのでしょう。
(6)この本で感動したこと
この本で感動したことは沢山ありましたが、今日は一つだけ書きます。
細川呉港氏は柔術の起源を求めて中国に行き中国の武闘を詳細に調べています。そして中国の武闘の形を見せる表演は柔術とは直接関係していないことを示唆しています。
また日本では柔術家やその関係者の数多くの人を訪問して話を聞いています。
この本の内容は実証的な研究にもとづいているのす。その点にも私は感動しました。
今日はこれで終わりにして、「細川呉港著、『柔術の遺恨』(敬文舎)の紹介」の続きはもう一回書く予定です。
2と3番目の写真は柔道の立ち技1種と寝技1種です。
それはそれとして、今日も皆様のご健康と平和をお祈り申し上げます。後藤和弘(藤山杜人)
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細川呉港(ホソカワゴコウ)
広島県出身。集英社に入社後、宣伝部、雑誌編集部を経て、つくば科学万博副館長、学芸編集部長を最後に定年。中国担当として長年中国を取材。現在フリー。東洋文化研究会の顧問は今年で三三年目。
細川呉港氏の作品の一覧は、https://honto.jp/netstore/search/au_1000252432.html にあります。
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