神域である山や森で、人が行方不明になったり、街や里からなんの前触れも無く失踪する、神の仕業として『神隠し』と言われる。
プロ野球某球団で全く予想し難い結果に『神ってる』なんて言葉が流行った。
『神』はこうして人間を超越した威力を持ちつ禍福(災いと幸せ)を降ろす隠れた慰霊と言われている。
こうした隠れた慰霊は昔から、今日も時代を越えて広く使われている。
その『神』が前回、当ブログで紹介した『川辺堀之内』の台地の一角に使われている。
◇『神の坂』
城館があった台地の東端部の全景である。バイパス道路の延伸工事で豊かな自然の風情もぶち壊され、無愛想なコンクリート壁がひたひたと此処まで迫り、建設重機が いよいよ樹林帯に入らんとしている。
樹林帯の縁がコンクリートの壁で仕切られ、その上が小道で緩やかな勾配で台地の頂部に繋がっている。
今は埋め立て高台になっているが、かっての周辺は全部田圃で、700坪位あったようで代々当地に住み農家を営んでいた。
台地は南側のゴルフ練習所にも繋がり、縄文式の集落で太量の遺跡が出たが、周辺は歴史の宝庫でもある。
しかし、伝来の土地を継続的に支えることが出来ず、やむなく、埋めてしまい建て売りなど都市化の波に呑み込まれてしまった。
台地の北側の脇道に入るとお稲荷さんがあり、お稲荷さんを囲むように続く山道を行くと、登りきった突き当たりに増田家の先祖の墓がある。
周辺の土地開発で様変わりしてしまったが、かっては台地の頂部に繋がる唯一の道として、人の往来があったようである。
現在は増田家墓参用の専用道なのか、利用も限られ、旺盛な雑草の前になかば埋もれている。
この道が雑草の藪からやがて竹藪に変わり、僅かな空間に人が通れる位の道が整備されている。
毎年、7月13日~15日を中心にお盆の時期にやってくる祖先の霊に供物を供え、冥福を祈る盂蘭盆が行われる。
この道は『神の坂』と言われ、その霊が迷走しないよう、道で藁を燃やし、迎え火、送り火を行った風習が残されていた。
迎え火は盂蘭盆の初日の夕方に祖先の精霊(死者の霊魂)を迎えるために焚く火であり。
送り火は盂蘭盆の最終日に祖先の精霊を送るためにたく火と言われている。
かっての生活道路も、利用頻度が限られ生い茂る自然の中に埋没しそうである。
◇お稲荷さん
パイパス道路の建設で先祖伝来の農業を営んでいた増田家の土地、家屋を奪われた。当地で暮らしを支える農業の五穀(米、麦、粟、黍または稗、豆の5種類の穀物) 豊饒(作物などが豊かに実ること)を祈る神様を残して置きたいと言う意志がこの稲荷さんではなかろうか。
内部には江戸時代の絵馬など、時代を越えた歴史を物語る逸品でもあるようである。
収蔵品は市の歴史担当が一時、 持ち返り、歴史視点から、のメスが入り、色々の歴史事実が明らかにされている。
道の右手に、お稲荷さんを見て、この幽玄の世界の竹藪を更に奥に進んで行く。
お稲荷さんの上に登って行くと、頂上付近の道脇に当時のお茶の木の植え込みが残っている。
この部分が大八車などの待機所で、昭和30年代まで使っており、その跡がしっかり残っている。
待機所は上下2ヶ所あり、下の待機所に樹齢300年余のさるすべりの木が植えてあり、この道が当時からあったことが推測出来る。樹齢が歴史を語りかける、さるすべりの木の切り株がお稲荷さんにある。
◇増田家先祖の墓
かってはこの地を桑田村と呼んでいた。しかし僅か12年で廃止された。この桑田村を支えたのが増田紋之助であった。
嘉永5年(1852)増田紋之助は誕生する。
本家に増田文書として多くの書物が、残されていたことから、勉強熱心であった。
幕末期、多摩地域では広い土地を背景に比較的豊かな豪農層を中心に『天然理心流』の剣術の流行った
その格となる日野宿名主、佐藤彦五郎が道場を持ち剣術師範となっているが、川辺堀之内からも門人の一人が、『村田紋之助』で往時から川辺堀之内を代表する名家でもあったのである
明治20年(1889)4月、豊田、川辺堀之内、上田、宮、下田、万願寺、石田の八ケ村と粟の巣村の一部が合併し、神奈川県南多摩郡桑田村が誕生した。
桑田村々会議院に桑田村助役に選任された。
当時の増田家の自宅はこの稲荷を含め延命寺の正面に敷地面積400坪、茅葺きの母家60坪が明治24年から翌年にかけて仮説役場として提供していた。
当時の栄華を物語る茅葺きの母屋の立派な家の写真が稲荷さんに貼ってあった。その周辺もバイパス路延伸工事に一切消されてしまった。
『神の坂』待ち構えたのが、獰猛な蚊の襲来である。くたびれかかった、不味い爺も相手を選ばず、格好の餌の到来と服の上からも襲撃された。
覚悟はして防虫も対策したが、敵中踏み入れは許されず攻撃された。どうやら、眠りの世界を目覚めさせ、普段の悪行の祟りに、『神』にも見放されてしまった。
こちらでも紹介しています。ご覧ください
日野バイパス延伸工事
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます