父の第三歌集 「 しらぎの鐘 」( 昭和 57年 ) より
金色 ( こんじき ) に輝く琵琶のみづうみなりき 今暮れゆく
余呉のみづうみ
寂かなる余呉のみづうみ渚まで 下りてゆかん此の昏れぐれを
余呉のうみ深く湛へてしづまれり この寂しさは我を往かしむ
余呉湖は木之本に近い長浜市余呉町にあります。案内書によりますと、
余呉湖は南の賤ヶ岳によって、琵琶湖とは隔てられた周囲6キロ余り
の陥没湖。透明度が高く湖面が静かなため、鏡湖ともいわれている
そうで、今回 はじめて行ってみまましたが、確かにこの日も湖面は
穏やかで、鄙びた湖畔の風景を映し出していました。
羽衣伝説もあり、しばし時が止まったようでした。
「 永遠と木草 」( 昭和59年 ) より
すぎし日の夏の旱に水位下り 暗くたたふる余呉のみづうみ
現はれし水際の砂を踏みて歩む 余呉のみづうみ暗く妖しく
曼珠沙華ひときは深きくれなゐが草むらに見ゆ曇天の下
父はこの曼珠沙華の他にも鶏頭、仏桑華、百日紅 、夾竹桃 、柘榴 など
赤色の花がどの歌集にも異常なまで出てきます。
傾ける或は土に倒れ伏し 班班 ( はんぱん )として赤き鶏頭
「 しらぎの鐘 」
倒れたるけいとうの花乱れつつ いま西の日をあまねく浴びつ
「しらぎの鐘 」
仏桑華原色の花にして梅雨の曇りを払ふが如し
「木草と共に 」
琉球の花 仏桑華うちつづく酷暑の日々に鮮やかに咲く
「 木草と共に 」
あかあかと暑き光は照らしたり この一本のさるすべりの花
「 木草と共に 」
この我の最も好む赤き花 梢高く咲く柘榴ならんか
「 永遠と木草 」
もみじ葵 夾竹桃又百日紅のち道の辺に曼珠沙華咲く
「木草と共に 」
写真は滋賀県長浜市余呉町の余呉湖 筆者 撮影
曼珠沙華ひときは深きくれなゐが草むらに見ゆ曇天の下
曇天の下、という最後の七。最近の異常気象を思い重ねてしまいます。
そんな危機の迫った時ほど、美しいものはより美しく見えるのでしょうね。(遅足)