鍋の中で揺れ動く豆腐を見つめる作者。
主張のない豆腐の味。
ゆったりとした時の流れる夕餉の光景が、
白い湯気の中からゆらゆらと浮かび上がります。
下五の「眠き味」が絶妙、と殿様。
作者と湯豆腐が一体化したような不思議な句ですね。
豆腐は中国で生まれ、日本に伝えたのは遣唐使という説、
室町時代の僧とする説など定かではありませんが、
やがて僧侶の精進料理として広まっていきました。
庶民の間で食べられるようになったのは江戸時代。
豆腐料理のレシピ本『豆腐百珍』には
「湯奴(ゆやっこ)」が紹介され
「浮かび上がれば、はやかげんよろしからずや」とあり、
豆腐の温め加減が大切だと書かれているそうです。
湯豆腐はいまや庶民の冬の定番。
すっかり定着して俳句の世界でも活躍しています。
我が家は蟹のあとは湯豆腐でした。(遅足)