私は今回、初めて『方丈記』の全文を読んでみました。そこでわかったことは、鴨長明の考えが凝縮されているのは、
第1項目「ゆく川の流れは絶えずして」と最後の「そもそも、一期の月影傾きて」にあると思います。
そのほかは前半が火災や飢餓について、後半が衣食住についての考えが述べられています。
教科書に載っているのは第1項目。無常観や宗教観が凝縮された一番、難しい話をいきなり若者に教えています。
古文を訳すことはできても、長明の考えを理解できるのは、ある程度、歳を重ねてからではないでしょうか。
流れに逆らって上る鮎のように、未来に向かって進もうとする若者に「ゆく川の流れは…」と言っもピンとこないのでは。
『方丈記』の第1、18項目以外を教科書に載せれば随分、親しみやすくなると思います。
最後の18項目「そもそも、一期の月影傾きて」では、出家して何事にも執着してはいけないと悟ったつもりが、
煩悩を断ち切れずにいる自分をそのままに述べていて、ここが『方丈記』の魅力でもあります。
竹中 敬一