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【一口紹介】
神さまは意地悪だから、大切なひとを遠くへ連れ去ってしまう。昨日までの暮らしが、明日からも続くはずだった。
それを不意に断ち切る、愛するひとの死-。
生と死と、幸せの意味を見つめる連作短編集。『別冊文芸春秋』掲載。
著者 重松 清

【読んだ理由】
ベストセラーの話題の書。
【印象に残った一行】
『告知を受けたあと、一ヶ月ほど和美は自宅で過ごした。僕も仕事をセーブして、なるべく家にいるようにした。
年明けに二度目の入院をするまでに、僕たちは、たぶん一生分の涙を流した。
子供たちには悟られないよう、夜中の寝室で掛け布団を頭からかぶり、枕に頭を埋めて泣きじゃくった。熱いシャワーを頭から浴びながら泣いた。車の中で泣いた。
行きずりに入ったバーで泣いた。フィットネスクラブのプールで泳ぎながら泣いた。スタッフが引き上げたあとの仕事場で泣いた。
ベッドで抱き合って、お互いの胸に顔を押しつけて、かわるがわる泣いた。
昼間は運命を受け容れている和美も、夜中になると、急に激しく身震いすることがあった。僕だってそうだ、思い切り大声で叫びたい夜がある。
無我夢中で床を転げ回って、頭をかきむしって、手当たりしだいに物を壁に投げつけて・・・最後の最後は、なにも考えずにすむ赤ん坊に戻ってしまいたい、とさえ思った。
どんなに理屈で納得しようとも、決して消えない感情がある。悲しみや、怒りや、悔しさや、恐怖や、不安や、申し訳なさや、後悔や、街で幸せそうな家族連れを見たときの恨めしさや妬ましさも、なかったとは言わない。
僕は自分が思っていたよりずっと弱くて、もろくて、身勝手な男だった。』
【コメント】
突然死、事故死、宣告された死。昨日の、今日の、そして明日の死。
それを迎える人、送る人——。
昨日は明日に続くはずなのに、不意にぷっつりと断ち切られる今日(その日)を、七つの短編で描き、生と死と幸福の意味を問う。
