【まくら】
同様の鏡の説話は、インド、中国、韓国と、アジア各国に広がっている。
落語は日本中、アジア中の話を落とし噺にしてしまうからすごい。
この中で江戸人にもっとも身近だったのは狂言『松山鏡』だろう。
夫が都に行って妻に鏡を買って来るが、妻は鏡を見て夫が都から女を連れて帰ってきたと怒るのだ。
越後の国、松山という設定も同じである。
謡曲にも『松山鏡』がある。ただし謡曲では、母を亡くした幼い娘が鏡を見て母と会うという物語だ。
ということは、落語『松山鏡』はその両方を取り入れたのである。
娘が母と会う、という設定を男が父親と会う、という設定にした。
妻のやきもちも入れる。
どこかでオチを作らねばならず、そこで「尼さん」という新しいバージョンを加えた。「落語の作り方」がうかがえる。
出典: TBS落語研究会
【あらすじ】
その昔、大変親孝行な男がおりまして、両親が亡くなってから18年、かかさず墓参りをするといった具合でした。
このことが領主に知れ、褒美を下されることになりました。
ところが、男は褒美はいらないから、もう一度父親に会わせて欲しいと願います。
領主は一計を案じて、男に鏡を与えます。
当時、鏡は大変貴重な品で、一般のものはなかなか見ることができませんでした。ですから、男は鏡に映った自分の姿を父親だと思いこみ大変感激します。
男は、この鏡を自宅の納屋の中にしまい、朝は「父っつぁま、行って参ります」と言って出かけ、夜は「ただいま帰ってまいりました」とやっております。
これを奥さんが勘違いした。どうも最近、夫の様子がおかしい。
納屋になにかあるんじゃないか。そんなある日、夫が出かけた後に、こっそりと納屋に忍び込み、鏡を見つけます。
こちらも鏡を見るのは初めてですから、鏡に映った自分の姿を見て、
「あれぇ、あの人ったら、どうも最近様子がおかしいと思ったら、こんなところに女を隠していたのね。悔しい!」
と嫉妬してしまいます。
これまで口喧嘩したことさえない仲睦まじい夫婦だったのですが、この夜は大喧嘩。
そこへ近くの尼寺の住職が通りかかって、二人の話を聞き、一緒に問題の納屋に行きます。
納屋にしまわれていた鏡を尼僧が見て、にっこり。
「お前たちが、あまりにも派手にけんかしたから、中の女はバツが悪くなって坊主になった」
【オチ・サゲ】
見立落ち(意表をつく物に見立るもの)
【語句豆辞典】
【村役人】
江戸時代、村方三役といわれる名主・組頭・百姓代のこと。当時、村民が奉行所・代官所などに呼び出される場合は、村役人が必ず同行することになっていた。
【尼になる】
江戸時代は僧侶・医者・盲人は別として、貴賎を問わず老若男女の毛髪に対する愛着は、およそ現代の人々には理解することが出来ないほど大きなものであった。
したがって当時は、何か重大な過失があった場合でも、髪を剃って謝罪すれば、民法上のことは大抵「坊主になって詫びるのだから---」と言って許されたのである。
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『噺家は 憂き世のあらで 飯を食い』
【この噺を得意とした落語家】
・八代目 桂 文楽
・五代目 今亭志ん生
・十代目 金原亭馬生
【落語豆知識】 入り
1.客の入り具合 2.芸人の楽屋入り

同様の鏡の説話は、インド、中国、韓国と、アジア各国に広がっている。
落語は日本中、アジア中の話を落とし噺にしてしまうからすごい。
この中で江戸人にもっとも身近だったのは狂言『松山鏡』だろう。
夫が都に行って妻に鏡を買って来るが、妻は鏡を見て夫が都から女を連れて帰ってきたと怒るのだ。
越後の国、松山という設定も同じである。
謡曲にも『松山鏡』がある。ただし謡曲では、母を亡くした幼い娘が鏡を見て母と会うという物語だ。
ということは、落語『松山鏡』はその両方を取り入れたのである。
娘が母と会う、という設定を男が父親と会う、という設定にした。
妻のやきもちも入れる。
どこかでオチを作らねばならず、そこで「尼さん」という新しいバージョンを加えた。「落語の作り方」がうかがえる。
出典: TBS落語研究会
【あらすじ】
その昔、大変親孝行な男がおりまして、両親が亡くなってから18年、かかさず墓参りをするといった具合でした。
このことが領主に知れ、褒美を下されることになりました。
ところが、男は褒美はいらないから、もう一度父親に会わせて欲しいと願います。
領主は一計を案じて、男に鏡を与えます。
当時、鏡は大変貴重な品で、一般のものはなかなか見ることができませんでした。ですから、男は鏡に映った自分の姿を父親だと思いこみ大変感激します。
男は、この鏡を自宅の納屋の中にしまい、朝は「父っつぁま、行って参ります」と言って出かけ、夜は「ただいま帰ってまいりました」とやっております。
これを奥さんが勘違いした。どうも最近、夫の様子がおかしい。
納屋になにかあるんじゃないか。そんなある日、夫が出かけた後に、こっそりと納屋に忍び込み、鏡を見つけます。
こちらも鏡を見るのは初めてですから、鏡に映った自分の姿を見て、
「あれぇ、あの人ったら、どうも最近様子がおかしいと思ったら、こんなところに女を隠していたのね。悔しい!」
と嫉妬してしまいます。
これまで口喧嘩したことさえない仲睦まじい夫婦だったのですが、この夜は大喧嘩。
そこへ近くの尼寺の住職が通りかかって、二人の話を聞き、一緒に問題の納屋に行きます。
納屋にしまわれていた鏡を尼僧が見て、にっこり。
「お前たちが、あまりにも派手にけんかしたから、中の女はバツが悪くなって坊主になった」
【オチ・サゲ】
見立落ち(意表をつく物に見立るもの)
【語句豆辞典】
【村役人】
江戸時代、村方三役といわれる名主・組頭・百姓代のこと。当時、村民が奉行所・代官所などに呼び出される場合は、村役人が必ず同行することになっていた。
【尼になる】
江戸時代は僧侶・医者・盲人は別として、貴賎を問わず老若男女の毛髪に対する愛着は、およそ現代の人々には理解することが出来ないほど大きなものであった。
したがって当時は、何か重大な過失があった場合でも、髪を剃って謝罪すれば、民法上のことは大抵「坊主になって詫びるのだから---」と言って許されたのである。
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『噺家は 憂き世のあらで 飯を食い』
【この噺を得意とした落語家】
・八代目 桂 文楽
・五代目 今亭志ん生
・十代目 金原亭馬生
【落語豆知識】 入り
1.客の入り具合 2.芸人の楽屋入り


