【まくら】
原話は、米沢彦八が元禄16年(1703年)に出版した「軽口御前男」の第一巻・「見立ての文字」。もともとは上方落語。
【あらすじ】
甚兵衛さんはものすごい天然ボケで、ついでに生きているようなおめでたい男。
今日も仕事を怠けたので、銭が一銭もなく、飯が食えない。おかみさんに「何か食わしてくれ」とせがむと…?
「おまんまが食いたかったら佐々木さんちで五十銭借りてきな」
この前、甚兵衛さん一人で借りに行ったら断られた。しかし、おかみさんが貸してくれと言っていたと告げれば…。
半信半疑ながらも佐々木さんのところへ行き、「ウチのかみさんが」と言ったら…借りれた。
首をひねりながらも家に帰ると、今度は魚屋で尾頭付きを買って来いというご命令。
「今日、大家さんの息子さんが嫁を迎えるんだよ」
そのお祝いだと言って尾頭付きを持って行けば、あの大家さんの事だから、祝儀にいくらかくれるだろうから、その金で米を買って飯を食わせてやる…との事。
「お飯が食えるぞォ!」
ウキウキ気分の甚兵衛さん。ところが、魚湯に行くと鯛は五円。買えない。しかたがないから、アワビ三杯を十銭値引きでなんとか買ってきた。
帰ってくると、かみさんお渋い顔をしたが、まぁ仕方がないと諦めて今度は大家さんのところで言う口上を教える。
「こんちはいいお天気でございます。承りますれば、お宅さまの若だんなさまにお嫁御さまがおいでになるそうで、おめでとうございます」
いずれ長屋からつなぎ(長屋全体からの祝儀)が参りますけれど、これはそのほか(個人としての祝い)でございます…というのを強調し、何とかご祝儀をもらって来いと甚兵衛さんを送り出す。
大家に会うと、いきなり大声で「一円くれ」。『コンチワ』を連発したり、承るを『ウケマタマタガレ』などと言い間違えたりしながらも、何とか口上を言いきって引き出物を差し出した。
「これ、アワビだよなぁ。このアワビ、アンタの一存で持ってきたのかな。それともおかみさんと共同かな?」
甚兵衛さんが「家内と共同」だと答えると、何故か大家さんはこれは受け取れないと言い出した。
「どうして? 受け取ってくれないとオマンマが…」
何しろお飯が懸っているため、甚兵衛さんは引き下がらない。とうとう大家さんは怒りだしてしまった。
「アワビはな、一名『片貝』ともいう縁起の悪い貝なんだ!」
【磯の鮑の片思い】というのを知らないのか…とか、うちの息子を別れさせたいのか…とか言いたい放題。
挙句の果てに、貝を思いっきり投げつけられてしまった。
「お…おまんまが食えない…」
ショックと空腹でフラフラになった甚兵衛さんが、すごすご帰る途中で親分とバッタリ。話を聞いた親分は、一つ意趣返しをしてやれとこんな策を授けた。
「祝い物には『熨斗』って奴が付いているだろ? あれはアワビから作るんだよ」
海女が深い海に潜り、命からがら取ってきたアワビを仲の良い夫婦が協力して熨斗に仕上げるのだ。その根本であるアワビを、なんで受け取らないのか…!!
「そう言って怒鳴り込んでやれ! 土足で座敷に駆け上がって、クルッと尻をまくってやれ!」
「今、褌しめてねぇ…」
それは置いといて。あの大家の事だから、ついでにこんな質問をしてくるだろう。
「『仮名で"のし"って書いた奴があるが、あれは何だ?』って聞いてくるだろうから、こう言ってやるんだよ。【あれはアワビのむきかけです】ってな」
知恵をつけられて、やる気になった甚兵衛さんはものすごい勢いで大家の家に突入。本当に土足で座敷に上がり込み…。
「クルッと尻をまくってやりたいところだが、事情があって今日はできねぇ。よく聞けェ!」
所々つっかえながらも、何とか件の向上を言いきった甚兵衛さん。感心した大家さんは、もう一円上げるから、ついでに「仮名でノシ」…と親分の予想通りの質問をした。
「なるほど。じゃあ、今度は二円あげるから、もう一つ答えてくれないかな。仮名でノシと書いた奴に、一本杖をついたような『乃し』というのがあるが、あれは一体何なんだ?」
「え!? …あの、それは…。あ、アワビのお爺さんでしょう」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
不明。
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『磯の鮑の片思い』(アワビは一枚貝で、貝殻が片方だけであることから、自分だけが恋い慕っているだけで、相手は何とも思っていないこと。)
【語句豆辞典】
【熨斗(のし)】慶事における進物や贈答品に添える飾りである。黄色い紙を長六角形の色紙で包んだ形状をしている。祝儀袋等の表面に印刷された、簡略化されたものもある。しばしば水引と併用される。
正式には熨斗鮑と呼ばれる。元来、アワビの肉を薄く削ぎ、干して琥珀色の生乾きになったところで、竹筒で押して伸ばし調製。「のし」は延寿に通じるため、古来より縁起物とされてきた。また、仏事における精進料理では魚などの生臭物が禁じられているが、仏事でない贈答品においては、精進でないことを示すため、生臭物の代表として熨斗を添えるようになったともされる。
【尾頭付(おかしらつき)】尾も頭もついたままの魚。とくに丸ごと一匹の鯛をいい、神事・祝事の縁起物に用いる。
【この噺を得意とした落語家】
・初代 林家木久扇
・十代目 金原亭馬生
・十代目 古今亭志ん生
原話は、米沢彦八が元禄16年(1703年)に出版した「軽口御前男」の第一巻・「見立ての文字」。もともとは上方落語。
【あらすじ】
甚兵衛さんはものすごい天然ボケで、ついでに生きているようなおめでたい男。
今日も仕事を怠けたので、銭が一銭もなく、飯が食えない。おかみさんに「何か食わしてくれ」とせがむと…?
「おまんまが食いたかったら佐々木さんちで五十銭借りてきな」
この前、甚兵衛さん一人で借りに行ったら断られた。しかし、おかみさんが貸してくれと言っていたと告げれば…。
半信半疑ながらも佐々木さんのところへ行き、「ウチのかみさんが」と言ったら…借りれた。
首をひねりながらも家に帰ると、今度は魚屋で尾頭付きを買って来いというご命令。
「今日、大家さんの息子さんが嫁を迎えるんだよ」
そのお祝いだと言って尾頭付きを持って行けば、あの大家さんの事だから、祝儀にいくらかくれるだろうから、その金で米を買って飯を食わせてやる…との事。
「お飯が食えるぞォ!」
ウキウキ気分の甚兵衛さん。ところが、魚湯に行くと鯛は五円。買えない。しかたがないから、アワビ三杯を十銭値引きでなんとか買ってきた。
帰ってくると、かみさんお渋い顔をしたが、まぁ仕方がないと諦めて今度は大家さんのところで言う口上を教える。
「こんちはいいお天気でございます。承りますれば、お宅さまの若だんなさまにお嫁御さまがおいでになるそうで、おめでとうございます」
いずれ長屋からつなぎ(長屋全体からの祝儀)が参りますけれど、これはそのほか(個人としての祝い)でございます…というのを強調し、何とかご祝儀をもらって来いと甚兵衛さんを送り出す。
大家に会うと、いきなり大声で「一円くれ」。『コンチワ』を連発したり、承るを『ウケマタマタガレ』などと言い間違えたりしながらも、何とか口上を言いきって引き出物を差し出した。
「これ、アワビだよなぁ。このアワビ、アンタの一存で持ってきたのかな。それともおかみさんと共同かな?」
甚兵衛さんが「家内と共同」だと答えると、何故か大家さんはこれは受け取れないと言い出した。
「どうして? 受け取ってくれないとオマンマが…」
何しろお飯が懸っているため、甚兵衛さんは引き下がらない。とうとう大家さんは怒りだしてしまった。
「アワビはな、一名『片貝』ともいう縁起の悪い貝なんだ!」
【磯の鮑の片思い】というのを知らないのか…とか、うちの息子を別れさせたいのか…とか言いたい放題。
挙句の果てに、貝を思いっきり投げつけられてしまった。
「お…おまんまが食えない…」
ショックと空腹でフラフラになった甚兵衛さんが、すごすご帰る途中で親分とバッタリ。話を聞いた親分は、一つ意趣返しをしてやれとこんな策を授けた。
「祝い物には『熨斗』って奴が付いているだろ? あれはアワビから作るんだよ」
海女が深い海に潜り、命からがら取ってきたアワビを仲の良い夫婦が協力して熨斗に仕上げるのだ。その根本であるアワビを、なんで受け取らないのか…!!
「そう言って怒鳴り込んでやれ! 土足で座敷に駆け上がって、クルッと尻をまくってやれ!」
「今、褌しめてねぇ…」
それは置いといて。あの大家の事だから、ついでにこんな質問をしてくるだろう。
「『仮名で"のし"って書いた奴があるが、あれは何だ?』って聞いてくるだろうから、こう言ってやるんだよ。【あれはアワビのむきかけです】ってな」
知恵をつけられて、やる気になった甚兵衛さんはものすごい勢いで大家の家に突入。本当に土足で座敷に上がり込み…。
「クルッと尻をまくってやりたいところだが、事情があって今日はできねぇ。よく聞けェ!」
所々つっかえながらも、何とか件の向上を言いきった甚兵衛さん。感心した大家さんは、もう一円上げるから、ついでに「仮名でノシ」…と親分の予想通りの質問をした。
「なるほど。じゃあ、今度は二円あげるから、もう一つ答えてくれないかな。仮名でノシと書いた奴に、一本杖をついたような『乃し』というのがあるが、あれは一体何なんだ?」
「え!? …あの、それは…。あ、アワビのお爺さんでしょう」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
不明。
【噺の中の川柳・譬(たとえ)】
『磯の鮑の片思い』(アワビは一枚貝で、貝殻が片方だけであることから、自分だけが恋い慕っているだけで、相手は何とも思っていないこと。)
【語句豆辞典】
【熨斗(のし)】慶事における進物や贈答品に添える飾りである。黄色い紙を長六角形の色紙で包んだ形状をしている。祝儀袋等の表面に印刷された、簡略化されたものもある。しばしば水引と併用される。
正式には熨斗鮑と呼ばれる。元来、アワビの肉を薄く削ぎ、干して琥珀色の生乾きになったところで、竹筒で押して伸ばし調製。「のし」は延寿に通じるため、古来より縁起物とされてきた。また、仏事における精進料理では魚などの生臭物が禁じられているが、仏事でない贈答品においては、精進でないことを示すため、生臭物の代表として熨斗を添えるようになったともされる。
【尾頭付(おかしらつき)】尾も頭もついたままの魚。とくに丸ごと一匹の鯛をいい、神事・祝事の縁起物に用いる。
【この噺を得意とした落語家】
・初代 林家木久扇
・十代目 金原亭馬生
・十代目 古今亭志ん生