【まくら】
江戸っ子が、日長一日稽古事に時間を潰すのが流行った時があって、色々な稽古事があったが、中には訳の分からない稽古事もあったようだ。
【あらすじ】
町を歩く八五郎と半七の二人連れ、角のとある家に墨黒々と「あくび指南所」と書かれた看板があるのを発見。
「稽古所と言やぁ常盤津や長唄、茶の湯ってのが相場だが、『あくびの指南』ってのは珍しい。一つ入ってみようじゃねえか」
興味津々の八五郎、対する半七は「つまらん真似を」と渋い顔だが、付き合いで八五郎ともども件の「指南所」を訪れる。
「普段、みなさんのやっているあくびは『駄あくび』と申しまして、一文の価値もありません。本来なら、人さまに失礼なものである『あくび』を、風流な芸事にするのが、この稽古場なんでございます」
師範はいかにも「老成した大家」風、そのもっともらしい講釈に八五郎は感心。側で見ていた半七は馬鹿馬鹿しさにはなから唖然とする。
「それでは、まず季節に因んだあくびから始めましょう。ただいまは夏ですから、『夏のあくび』から始めましょうか……」
お題。隅田川あたりで、舟に乗っている場面を想像されたい。
「あなた、舟のお客です。他には船頭がひとり。ふたりサシで日がな舟に乗っていたと思いなさい。お客はぼんやりと、キセルで煙草を吸っています」
扇子をキセルに見立て、体をゆすって舟が揺れている気分を出して……
「こうやります。『おい船頭さん、上手へやっておくれ。一つ堀から上がって、一杯飲って、吉原へんで粋な遊び、とでも行こうじゃないか。舟も、いいが、こう一日乗ってると……退屈で、退屈で……あーあ(と堂に入ったあくびを入れる)、なりませんな』」
「へー、意外と面白いねぇ。えーと、『おい、船頭さん!!』」
「もっとゆっくり、落ち着いた声で」
「へぇへぇ。『おい、船頭さん、上手へやっとくれ』」
無意味の極致のような指南のやり取りがしばらく続く。
「船もいいが、一日乗っていると、退屈で、退屈で……ハークション!!」
あまりの阿呆らしさに、半七は驚きを通り越してあきれ返った。
「教わる奴も教わる奴なら、教える奴も教える奴だ……何が『退屈でなりませんな』だ! 散々待たされてるこっちの方が、よっぽど退屈で、退屈で、『あーあーあ』……かなわねえ!」
半七、あくび混じりの不機嫌なぼやき。
師範いわく「おやまあ、お連れさんのほうが器用だ」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(勘違いをして終わるもの )
【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・三代目 三遊亭小圓朝
・八代目 三笑亭可樂
・五代目 柳家小さん
・十代目 金原亭馬生
あくび指南
江戸っ子が、日長一日稽古事に時間を潰すのが流行った時があって、色々な稽古事があったが、中には訳の分からない稽古事もあったようだ。
【あらすじ】
町を歩く八五郎と半七の二人連れ、角のとある家に墨黒々と「あくび指南所」と書かれた看板があるのを発見。
「稽古所と言やぁ常盤津や長唄、茶の湯ってのが相場だが、『あくびの指南』ってのは珍しい。一つ入ってみようじゃねえか」
興味津々の八五郎、対する半七は「つまらん真似を」と渋い顔だが、付き合いで八五郎ともども件の「指南所」を訪れる。
「普段、みなさんのやっているあくびは『駄あくび』と申しまして、一文の価値もありません。本来なら、人さまに失礼なものである『あくび』を、風流な芸事にするのが、この稽古場なんでございます」
師範はいかにも「老成した大家」風、そのもっともらしい講釈に八五郎は感心。側で見ていた半七は馬鹿馬鹿しさにはなから唖然とする。
「それでは、まず季節に因んだあくびから始めましょう。ただいまは夏ですから、『夏のあくび』から始めましょうか……」
お題。隅田川あたりで、舟に乗っている場面を想像されたい。
「あなた、舟のお客です。他には船頭がひとり。ふたりサシで日がな舟に乗っていたと思いなさい。お客はぼんやりと、キセルで煙草を吸っています」
扇子をキセルに見立て、体をゆすって舟が揺れている気分を出して……
「こうやります。『おい船頭さん、上手へやっておくれ。一つ堀から上がって、一杯飲って、吉原へんで粋な遊び、とでも行こうじゃないか。舟も、いいが、こう一日乗ってると……退屈で、退屈で……あーあ(と堂に入ったあくびを入れる)、なりませんな』」
「へー、意外と面白いねぇ。えーと、『おい、船頭さん!!』」
「もっとゆっくり、落ち着いた声で」
「へぇへぇ。『おい、船頭さん、上手へやっとくれ』」
無意味の極致のような指南のやり取りがしばらく続く。
「船もいいが、一日乗っていると、退屈で、退屈で……ハークション!!」
あまりの阿呆らしさに、半七は驚きを通り越してあきれ返った。
「教わる奴も教わる奴なら、教える奴も教える奴だ……何が『退屈でなりませんな』だ! 散々待たされてるこっちの方が、よっぽど退屈で、退屈で、『あーあーあ』……かなわねえ!」
半七、あくび混じりの不機嫌なぼやき。
師範いわく「おやまあ、お連れさんのほうが器用だ」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
【オチ・サゲ】
ぶっつけ落ち(勘違いをして終わるもの )
【この噺を得意とした落語家】
・五代目 古今亭志ん生
・三代目 三遊亭小圓朝
・八代目 三笑亭可樂
・五代目 柳家小さん
・十代目 金原亭馬生
あくび指南