海鳴り〈下〉 (文春文庫)藤沢 周平文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
【一口紹介】
◆内容(「BOOK」データベースより)◆
このひとこそ…生涯に真の同伴者。男が女にえがく夢は、底知れず貧欲なのである。
小野屋新兵衛は、人妻・おこうとの危険な逢瀬に、この世の仄かな光を見出だした。
しかし、闇はさらにひろくそして深いのだ。
悪意にみち奸計をはりめぐらせて…。
これこそ藤沢調として、他の追随をゆるさぬ人情物語の名品!
【読んだ理由】
「蝉しぐれ」に続く藤沢周平作品。
【印象に残った一行】
ひとは、いや少なくとも一家を背負う男というものは、家の名に多少の不満があってもじっとこらえ、こわれればとりあえず繕って、何度でもそうして、辛抱づよく家を保ちつづけるべきものなのだろう。
なぜなら家は、男にとって幸せをもとめつづけた歳月の、どのような形であれ実りであり、証しであるからだ。その家と妻子を捨てるとき、男はそれまで生きて来た自分の歳月も一緒に捨てなければならない。
家は決して、完全で居心地がいいだけの容れ物ではないだろう。人々はその中で、お互いに殺したいほど憎み合ったりする。だが、それだけでなく、時には打ち解けて笑い合うことだってあるだろう。そのときは殺したいと思ったことも忘れて、どうしてあんなに憎みあったのかと訝しく思うのだ。
そうしていがみ合ったり、笑ったりしながらも生きて行くのが、人間のしあわせというものではないだろうか。そういう平凡で、さほど面白みもない、時にはいらだたしいようなものが、じつはしあわせというものの本当の中味なのではなかろうか。とすれば家は、不完全ながらやはりしあわせの容れ物なのだ。憎みもするが、和解もまたすばやくやって来る。家の中の不しあわせというものは、高がしれている。
【コメント】
不義密通をゆする人を殺し、お互いの家庭を捨てて駆け落ちした二人にはハッピーエンドの結末。
またこの二人の愛し合うシーンが実に色っぽい。