![]() | 遍路みち |
クリエーター情報なし | |
講談社 |
【一口紹介】
◆内容説明◆
人生の大きな別れと哀しみを綴った作品集 夫を喪った作家の胸に残る様々な記憶が鮮やかに甦り、今、後悔となって自らを責め続ける。
吉村昭氏が亡くなる前後に書かれた4つの短篇と、他1篇を収録。
◆内容(「BOOK」データベースより)◆
楽しいことも嬉しいこともあったはずなのに…悔いのみを抱いて生きてゆく遍路みち―夫・吉村昭氏の死から三年あまり、生き残ったものの悲しみを描く最新小説集。
洗面所のコップの中の2本の歯ブラシを見ると、1本も虫歯のないことを自慢していたことを思い出した。
夫の母親が、おまえは口もとがいいね、と言っていたという話をからかいながら口にすると、かれはふざけて口角を少し上げて笑ってみせた。
育子はその笑顔を思い出して嗚咽した。――<「遍路みち」より>
【読んだ理由】
「紅梅」を読んで。
【印象に残った一行】
最後の夜、自分で点滴をはずし、明け方静かに死を迎えたことを報告すると、その話は忽ち翌朝の新聞各紙に取り上げられた。尊厳死と大々的にタイトルをつけた新聞もあった。作家の矜恃、壮絶な最期、潔よい見事な死などの活字が添えられた記事が殆んどだったが、ある新聞には僧籍にあるある男性が、治癒力がある段階で自ら死を早めるような生命の尊厳を冒す、と書いていた。夫にはもはや治癒力などなかったことを知りもしないで書いたのだろうか。
自殺と書いている記事もあった。自殺には、自棄や厭世や生活苦や心中やあてつけに死ぬ者などさまざまある。だが、夫は育子と娘の見ている前で点滴の管のつなぎ目をはずし、娘がなんとか繋ぐと、今度は首の下に挿入してあるカテーテルポートから点滴をひきぬいてしまって、駆けつけて来た看護師の処置を激しくこばんだ。育子が泣きながら看護師にもういいです、と言い娘がお母さん、もういいいよね、と言ったかれの死は、自殺だろうか。
【コメント】
「五十年の結婚生活の間に嬉しいことも楽しいこともあったはずなのに、思い出すのは最期の一週間の悔いばかりだ」と著者は書いているが、そんなもんなのか、そんなもんだろうな。